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その種は弱者であるが故に力を求める。

「うはははははははは!!!!」


 入れ食い入れ食い入れ食いだぁ!!!!!

 アルトが魔物化してから数週間。

 意思疎通が完全に可能な小型魔物の作成に成功し、早速いくつかの研究施設にアルトを送り込……まなかった。


 理由はいくつかあるが、その中でも大きいのはアルトに変えが聞かないという点とアルトが意外とでかいという点である。

 俺が【職業:虫使い】を得たことで、虫系の魔物との契約成功率は上がった。つまり、せっかくなら他のもっと小型の魔物と契約してソイツ等を送り込もうと考えた訳である。


 まぁそんなことをする必要もなかったわけであるが……


「マザークラウンスパイダー……やばいなぁ……」


 と言うわけでね、アルトが子供を産みました。

 相手はまぁ十中八九魔物化した蜘蛛のオスだろう。


 これにより、蜘蛛を派遣できる範囲、数が劇的に上昇した。

 さらに、俺が欲しているモノを理解しているのか、【職業】の影響なのか、生まれる子蜘蛛の大半がシーフスパイダーという隠密や移動に特化した蜘蛛だった。


 後は簡単。小型カメラと盗聴器を持たせた蜘蛛をアルトによる指示・操作で下水道を経由したり軍用車に紛れ込ませたりすることで、各地の研究施設へGOだ。


 5匹で1チームに分けて派遣している。


 生まれて来た子供たちは、大したスキルを持っているわけでもなく、大したステータスを持っているわけでもないが……コレはやばい。

 何がやばいってアルトが子供を産んだだけでそこそこの経験値が入ったことがやばい。

 そりゃ数産めばそうなるだろうが……子供を生むことにも経験値が入るのか……。


 そんなことは一旦さておき。


「こっちは魔法薬に関する研究、こっちは魔物化……貴金属関連……魔力関連……、うーわ! 人体実験まである!!!」


 宝の山だ!!!!!


 盗んだ他人の研究成果だ。俺とて多少の罪悪感はあるが、全てありがたくいただくことにする。


「こうなると研究協力者が欲しくなるよな……一人で良いんだけど……」


 まぁ無理な話である。諦めよう。虫とかキモくて触りたくもねぇよって人多いし。


「どれから手を付けようかな〜やっぱ人体実験? いやでも……いや、そろそろ戦うべきか???」


 実際問題、そろそろレベルを上げたくはある。

 俺の存在レベルは今、1から一切変化していない。

 アルトの出産で経験値が入ったとはいえ、そちらは《契約》に注ぎ込んだからな。


 この脆弱な身体能力で、例えば街が竜種に襲われたとして……生き残ることすらできないのでは?という疑問が残る。


「あとはまぁ、魔法薬に手を出すなら《薬学》スキルとか欲しいし……」


 そう、結局、結局ね。経験値を稼がなければ話にならない訳だ。あー嫌だ嫌だ。

 だが、必要なものは必要だ。


「思い立ったが吉日だな」


 仕方なく、重い腰を上げることにした。

 まぁ思い立ったのなんてもう一月前だけれど。


「アルト……はココにいてもらったほうがいいな。ギース〜」


 呼び掛ければ、最近レベルを上げて虫であれば3体まで契約できるようになった《契約・虫》で契約したギース……魔物化した蜘蛛の中でもアルトの次に地位の高い蜘蛛……が糸を伸ばし、振り子の要領で俺の手に乗った。

 おいかわいいんだが。ギース〜、お前〜、かわいいな〜。


「ki」


「けど勝手にアルトに子供産ませたのは許さん。いつのまに。」


「ki……」


 やっぱかわいい。


 一応……とばかりに魔石と一緒に高品商社から送られてきた短めの剣とローブを指につけていたアイテムボックスから取り出し、動きやすい格好の上から羽織る。

 剣の方は鞘についているベルトで腰に固定。


「流石にテンション上がるな……」


 何度か試しに剣を抜き、ローブの裾をイジる。

 カッコいい。


「よっし」


 ガチャリ、と玄関の扉を開けた。


「行ってき、ます!」


 大変革以降、初のお出かけである。






 ◆◆◆◆◆






 家を出て2分。


「wroooon!!!!!!!!!!」


 頻繁に家の前を屯していた狼型の魔物を発見した。

 訂正。狼型の魔物に発見された。


 引きこもってる間に剣振る練習ぐらいはしとくべきだったなーなどと考えながらも、腰の剣を抜き、構える。


「まぁ剣術を少しでもやるような人から見たら鼻で笑っちゃうようなもんだろうけど……ギース! 糸!!」


 ギースが乗っている腕を前に出し、狼型の魔物、《鑑定》によるとハインドウルフの前足に向かって糸を吐き出させた。


 うっとおしそうに、しかし簡単に糸を引き千切ったハインドウルフが俺を殺すために動き出す前に、急いでギースに指示を出して地面へと下ろし、剣を構える。


「来いよ!!!!」


 動き出した。


 充分な助走の乗った突進に、なんとか剣を合わせて防御……いやおっもすぎだろどうするいやこれ……ッ!


「クソがッ!!」


 ハインドウルフの顎に挟まれた剣を振り抜きながら後ろに飛ぶ。

 切れたわけでも、体勢が崩せた訳でもないが、一瞬だけ間合いが空いた。


 さっきよりは助走の少ない突進。


「がぁぁぁぁああああ!」


 まだマシ行ける勝てる勝つッ。

 気合を込めて叫び、もう一度剣で身体を守る。


 高品商社へ盾も送れやと渾身の文句を脳内で無限に浮かべながらも、必死で剣を握りしめて、殺すイメージがつかない。勝てる気がしない。


 剣を落としても、剣をすり抜けて噛みつかれても、俺は死ぬ!!! どうする? どうすれば……


「gwoooo!!!!!!」


「なっ、がッ……ァ゙!!!?」


 突進をなんとか止め、次へと動き出す直前、ハインドウルフの咆哮が炸裂した。

 音に過ぎないはずのそれに、剣ごと身体を弾き飛ばされる。

 まだ一体目だぞ。強すぎだろ。

 てか近所の高校生はどうやって倒してたんだよコレ。


「クソ……。 ……!」


 ギースからの合図!!!

 獲物を甚振るような、愉快そうな表情でゆっくりと近づいてくるハインドウルフの目を見つめ、考える。準備はできてる。大丈夫。行ける。


「フーーーーッ……」


 息を吸い、吐く。

 問題ない。走れるな?


「死ねッ!!!」


「ga!?!?!?」


 思いっきり剣を投げる。

 投擲スキルはないが、短く軽い剣のお陰で少しは威力があったらしい。

 剣が直撃した頭を振るハインドウルフの横をすり抜けるように走り抜けた。


 目標まであと3メートル。

 剣は手元にない以上、追いつかれたら死ぬ。


「クソ……来んなよ!!!」


 アイテムボックスに入れたまま来て良かった魔石!!!

 デカめのやつを手元に取り出し、そのまま放り出す。


 投げたわけじゃない。

 けれど、俺には出せないような速度でコチラに迫りくるハインドウルフは、空中に突然置かれた魔石に激突する。


「gaa!!」


 鬱陶しげに叫ぶが、もう遅い。


「っし!!!」


 既に予定していた場所まで来た。もう一度走り出したハインドウルフを肩越しに確認し、ソレの下をスライングの要領でくぐり抜ける。


「かかれっ!!!」


「gwoooo!?!?」


「ッッッシャアっ!!!!」


 俺が死にかけている間にギースが準備していた蜘蛛の巣にハインドウルフがかかる。

 先ほど簡単に剥がされた糸とは違う、入念に貼られ、強度を増したソレは、粘性によって抵抗すればするほど動きを妨げられる。


「助走のあった最初の突撃が止まったんだ。もう無理だよ。ギース、補強よろしく」


 先ほど投げた剣を拾う。

 さーて、調理の時間だ。死にかけた分、ちゃんと経験値に変えてやる。


「g…………」


 剣を振り下ろす直前、未練を語るようなその目に絆されるようなことも罪悪感も一切ないが、それでも、


「……悪いな」


 生存闘争をした分だろうか。普段実験に使うマウスなんかよりも何倍も……ちゃんと俺の糧にしてやらねばと思わされた。


「……コイツは解体用に持って帰るか」


 アイテムボックスを起動。頭を貫かれた剣を引き抜き、死体を丸ごと収納する。

 魔石の位置や筋繊維なんかは研究の役に立ってくれることだろう。


「きっつかった〜〜、ありがとな、ギース」


「kiki」


「そりゃあ皆身体能力を上げなきゃってなるよなぁ……」


 完全に力負けした。

 例えば剣を上手く振るえたとして、それで? アレの皮膚を切れるのか? アレの速度に対応できるのか?

 もし出来たとして、それは上澄みの上澄みの技術なんじゃないのか?

 そのレベルの技術が手に入るまでどうやって魔物を殺せば良い?


 ……身体能力を上げたほうが、遥かに楽だろう。

 あのハウンドウルフですら、魔物内の生存闘争の中でもかなり低い位置にいるらしいしな。


「どうするかなぁ……」


 剣を鞘に収め、ギースを撫でながら……また、歩き出した。





次回更新予定日は6月27日の18時です。

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