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這い寄る悪意

いつになったら戦闘描写を書くんですか???

 とある大学の研究室にて。

 大変革の日から1月と数日が経った。既に数多の研究所が国の支援を受けて魔力に関する研究を行っている。

 この研究所もその一つだった。


「実際、大変革前の薬に魔力を通しましたが……効果に変質があるものは極一部ですね」


「今考えれば当然だろうな。そんなものない前提で作られたものだ。……魔力が有用でないとは口が裂けても言えんがな」


「実際、前までは治療が難しかったような病気にも対応可能になりそうですしね〜」


「うむ」


 元はなんの変哲もない……と言うには教授が高名すぎるこの薬学部の研究室だ。

 ただ、少し他の普通の研究所よりも大変革後の世界の常識に馴染むのが早かった。


「病気の治療への転用はかなり先だろうが、怪我の治癒に関しては目を見張るモノがあるな」


「えぇ……まだワタシの世界でも高価で取引されていたような薬草類などはコチラで使用されておりません……それでもこの効力とは……」


「あぁ。やはり魔力への適用から始める必要があるらしいな……大須賀君! こっちへ!」


「えっ、はい!」


 大須賀、と呼ばれた学生が身体をビクリとふるわせ、驚きながらも教授の元へと走り寄る。


「あ、あー、研究室内で走らないように。」


「あっ、うっ、す……すみません……」


「それはともかく、やはり君の案が正解だったようだ。奈良坂さんの実験が成功した」


「やったぜ大須賀。」


 満面の笑みでハイタッチしようとする奈良坂と照れたように笑いながら応じる大須賀の様子に、教授がゆっくりと微笑み、口を開く。


「……二人共、大手柄だな」


「あっ、ま、魔物化の実験例をおくっていただいた、ぉ、お陰ですが……」


「やりましたねー」


「うむ。国へも君達の名前も含めて成功の報告をしておこう」


「よ、「よろしくお願いします」」


 揃って頭を下げる二人の学生に、教授はニコニコと人好きの良さそうな笑みを送り、外部協力者、とされている者へと向き直った。


「もちろん、君への謝意も伝えなければね。アリア殿」


「いえ、ワタシはワタシの主の命に従っただけですので。むしろ良い経験をさせて頂いたことに感謝しなければ」


 黒目黒髪、パッと見ただけでは日本人にしか見えない彼は、大変革時に異世界からコチラ……日本へと渡った侵略者の一人だった。


 あの日、あの時、異世界から数多くの国がこの世界へと侵略を始めた日、異世界の全ての国が侵略したいと考えて来ていたわけではない。

 未開の地だ。自分達に有用であるかの調査のためや、地権闘争で他国に敗北しないためなど、様々な理由を持って彼らはやってきていた。

 その中の数国、特に元勇者達に直接救われた国々の中のいくつかが、元勇者達の奮闘と交渉により、現在日本に協力しているのだ。


 その国々の一つ、イドミナス王国の国家錬金術師の一人が、ココで魔力研究を手助けしているアリアである。


「まぁ、大ぴらに発表できないのが辛い所ですけどね〜」


「そう言うな。今までの研究よりも段違いに悪用しやすく……効果が強い。テロの原因の一つにはなりたくあるまい」


「ですね〜」


「は、はい……」


「“魔法薬”……質と割合を上手くすれば消毒した患部にかけるだけで骨折すら治るとはな……研究者の名誉云々よりも、市販されないことへのやり切れなさが勝つ」


 彼らを代表するように、教授が悔しげにそう口にする。


「し、死んだ人を生き返らせる薬はありません、が……ぃ、生きた人を殺す、ような薬は、前からありました……。今ならばどうなるでしょうか……」


 大須賀の言葉は、誰もが思いついていながら言葉にしていなかったものだ。


 今回では特殊な技法により、少し人体の治癒能力を高めるだけの薬を魔力に適応させた材料を使用して作成している。

 もしも、同じように毒が作られたら?

 散布力に優れたものであれば、もしかしなくとも一晩で街を滅ぼすような毒すら作成可能でもおかしくない。


「考えたくもないな。」


 異世界人であるアリアを除いて、その場にいた全ての人間が戦慄する。


「「「……………」」」


「─────でも」


「?」


「元々、そのレベルの毒……というか細菌兵器の類はありましたよね。なら……大丈夫なのでは?」


 奈良坂の意見に、少し空気が緩んだ。

 が、今回の問題点はそこではない。


「うむ。もちろん存在はしただろうな。だが、我々のような1研究者、さらにこの程度の設備で作れるようなものではなかったはずだ。素材収集、作成、もちろん我々の革新的な発想あってのものだが、素人にも手順を踏めば作成が可能だと言う点に問題があると言えるだろうな」


「なるほど……」


「そもそも、ワタシがいた世界にそこまでの毒などありません。心配は不要……とは言いませんが、心配のしすぎも問題かもしれませんね」


「ふむ。ついでにアリア殿に質問があるのだが」


「なんでしょう?」


「君の世界には、骨折を一瞬で治すような薬が流通していたのかね?」


「……………なるほど。知ってはいましたが、国に選ばれるほどの人物。薬学以外に精通しているようで」


「身に過ぎた評価をもらって嬉しい限りだ。その返答で分かっているようなものだが一応聞こうか。……質問の答えは?」


「“いいえ”と答えるしかありませんね。ワタシが国家の助力あって初めて、というところです。必要な材料があまりにも高価なので」


「うむ。君の国の相場は知らない。しかして……そうだな。この国では、この魔法薬を処方するのに必要な金額は平均的な庶民の1食分の金額に等しいだろうな。……1000円、と言った所だ」


「それはそれは……我が国がコチラについた意味がありそうですね。実用化された後には大量に購入させていただくでしょう。」


「ふふふ、期待していたまえ」


「ええ」


 ニコニコと行われるやり取りに、学生たちが怯えているが……そんなことは関係なく話は進む。


「大須賀、大須賀!」


 奈良坂が小声で大須賀へ声をかけ、顔を寄せ合った二人が話し合い始めた。


「ど、どうしたの?」


「なんであんなバチバチなのあそこ!」


 大須賀は小声なのに勢いよく話せることに器用だななどと感想を覚えるが、口には出さなかった。


「た、多分だけど……アリアさんの国が勇者に救われた恩に報いる、って言ってるのは半分建前なんじゃないかな……」


「うむ?」


「かわいいな……え、えっと……そうだな……多分だよ?」


「うん」


 首をかしげる奈良坂につい大須賀の心の声が漏れるが、奈良坂がそれに気づく様子は一切ない。この研究室では良く見られる光景である。


「アリアさん達だって国家を背負っているわけで……ありていに言ってしまえば、アリアさんはコチラの世界の技術を盗むために、教授はアリアさんの技術を盗むために派遣された国の役人なんだよ」


「あー」


「こ、国家だからね。元勇者の人達に救われた。だからなんの下心も警戒もなく協力しよう!なんて……」


「言ってられないわけだ」


「そ、そう。」


「建前、建前、建前。国家ってめんどくさいねぇ」


「うん……」


 いくつかの付け加えるべき点があるとはいえ、大須賀の考察は八割方当たっている。

 今回の魔法薬に関する発案についてもそうだが、奈良坂と合わせてこの研究室内でもきっての切れ者、とアリアからも評されていた。


「さて、諸君!」


 パチン、と教授が手をたたき、それまであった探り合うような雰囲気が霧散した。


「良くやってくれた。だが、この功績を世に知らしめるにはまだ早い。分かっているだろうが、どこぞの悪党に悪用させないためにも……他言無用で頼むよ」


「「はい!」」


 彼等の研究は続く。

 “強さ”が簡単に手に入るようになってしまったからこそ、悪が栄えたとき、この国の対抗手段の一つになれるように。






 ─────その様子をジッと見つめる一匹の蜘蛛に気づくことなく。

補足ですが、この研究室では奈良坂と大須賀以外にも数名の学生が研究に協力しています。




次回投稿予定日は6月25日の18時予定です。

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