金を生み出す様子は一向にない。
本日、3話同時更新です。
掲示板回、別視点、あわせてお楽しみいただけると幸いです。
おはようございます。
朝起きたらアルトが魔物化反応を見せていました。山野灯織です。
いやいやいやいやいや〜
「……いやいやいやいやいや」
…………なんで?
実験に使用した魔石は全てアイテムボックスに入れてあり、適時必要量を取り出す形で虫……実験対象に与えてきた。
それに、蜘蛛達が俺を殺そうと画策したタイミングで一度部屋に魔石を放り込んだとき以外は全て、虫達が魔石を摂取し終えるのを確認している。
うむ。
例えばその時の魔石を虫達が保存していて、群れの長たるアルトに渡した可能性……は、ないだろうな……。お怒りのアルトが登場した瞬間、俺を拉致してた全蜘蛛がやべぇって顔してたし。
だがそうなると、原因に心当たりが一切ない。
魔力に触れていると勝手に魔物化する……にしてはアルトだけが魔物化した意味が分からないんだよな。
「攻撃性の増加も見られず、と……」
いつも通り餌を求めて近づいてくるアルトを撫でつつ、考える。
アルト達は元々蜘蛛の中でもかなり大きい方で、個体差はあれどだいたい10センチ前後。それが1.2倍になったとかんがえると、まぁそりゃ日本の野生下にいる蜘蛛の中では特大の部類だ。
「成功とは言えないかな……もう少し小型の虫で試すしかなさそうだ」
とはいえ、とはいえである。
「目標だった有効的な魔物の作成は成功。これでやっと次の段階に入れるな」
原因追及は後で良い。
もちろん、普通の研究であれば原因研究を後回しにするなどもってのほかであるかもしれないが、今ここは大変革により元の世界の常識の通用しない世界だ。ある程度戦える力を蓄える必要がある、らしい。
「ペットの魔物化に成功したとき、つまり有効的な魔物がいるタイミングであれば【職業:魔物使い】が獲得可能……ねぇ……」
研究レポートに付随して高科商社から送られてきた魔物化関係の資料にあった情報の一つだ。
ついでに【職業:魔物使い】とやらの情報も書いてあるのだが、これが中々どうして欲しい能力を兼ね備えている。
使役した魔物との一定以上の意思疎通と指示能力、及び強化の方向性を決める権利を得られる……。
結局俺自身の戦闘力が上がるわけじゃないが、そちらは後々考えていけば良い。
「高科商社、有能な人間しかいないのか……?? 元勇者も抱えてるわけだし……」
『神の慈悲』を起動し、職業一覧を確認する。
■獲得済み職業一覧
【錬金術師】Lv1
■獲得可能職業一覧
【魔物使い】
【研究者】
うん、ちゃんと表示されてるな。
余談だが、この世界のシステムは一般的に見られるゲームなどのステータスシステムに比べ、超複雑にできているらしい。
「職業レベル、存在レベル、スキルレベル、獲得した経験値で上げないといけないものが多すぎるって話だな」
経験値を得る手段も豊富で、魔物との戦闘以外でも生産や採集、家事など、全ての行動は己の強化に繋がり、それらの経験値は全て同一のものとして扱われる。
「たった一種類しかない経験値を、個人の好みでスキルレベルや存在レベル、職業レベルのどれに振るのかを選べる……めんどくさっ」
今、俺は錬金術師としての活動とちょうど一ヶ月分の家事の分の経験値が溜まっている。
それらを消費してなにかのレベルを上げるのか、新しい職業やスキルを獲得するのか、決めるらしい。
いや本当にめんどくさいな。
元……ってのも失礼か。勇者君こと高科慎二君が異世界に召喚されたときはここまで複雑ではなかったらしく、できることが大幅に増えたことについて、「僕もまだまだ前に進めるみたいです!」と喜びをあらわにしていた。
などなど……色々なことに思いを馳せつつも、経験値687の内100を使用して【職業:魔物使い】を獲得する。
【職業:研究者】の方も迷ったが、経験値を職業の獲得ばかりに費やす訳にも行かない。今回は見送ることにした。
「さて、アルト〜」
呼び掛ければ、他の魔物化した蜘蛛達に何やら命令するように脚を動かした後、アルトがコチラへと寄ってきてくれる。ちょっと可愛すぎる。何だこの蜘蛛。
【職業:魔物使い】を獲得するにあたり、経験値を振り込まずとも二つのスキルが得られる。
それが、《契約》と《指示》の二つ。
いつになったら《剣術》みたいなスキルを得られるんだよ。
スキルに経験値を割り振っていないため、今《契約》を使用できる対象は1体。それも対象が格下かつ同意を得ている必要がある。
ちなみにだが《鑑定》スキルもレベル1。名前しか見えない。
「《鑑定》スキルは使うだけで微量の経験値が貰えるから重宝してるけど……っと」
ただ、自分のスキルの詳細は『神の慈悲』で確認可能である。
「ほい、《契約》〜」
「kii」
「えっ」
えっ、なんか言葉を発した!!! うちの!!! アルトが!!! 言葉を!!!!! かわいい!!!!
◆
(ペットに愛を送る時間があまりにも長かったため省略)
◆
「よしっ!」
契約完了である。
これからは、アルトのステータスを『神の慈悲』で確認可能になったわけだ。
アルト
■種族
クラウン・スパイダー Lv4
■獲得済み職業一覧
なし
■獲得済みスキル一覧
【指示】Lv2
【蜘蛛糸】Lv1
【威圧】Lv1
【毒牙】Lv1
「待って待って待って待って」
俺より……強くない!?!?
えっ、
俺より強いぞコレ!!!
多分殴られたら死ぬ!!!
「ki?」
やっばアルトが話してる!!!
「多分アレだな、【魔物使い】の影響」
かーわいー
「ん?」
実はこの『神の慈悲』、そこそこ有情なのだが、新たに獲得できるようになったスキルや職業の通知が来る。
親切〜。
と、言うわけで、
『【職業:虫使い】が獲得可能になりました』
です。
とりあえず効果確認からかな……
高科商社の錬金術師は虫に関する生体研究を行っていない以上、当然といえば当然だが、例の資料に【職業:虫使い】とやらの情報はない。
【虫使い】
虫系の魔物とのみ契約を行っている者が獲得可能になる。
その他のモンスターの強化、指示などの効果が減少する代わりに、虫系のモンスターの強化、指示などの効果が増加する。
「獲得に必要な経験値、500て。ギッリギリじゃん……」
ちなみにアルトの残り経験値は12である。恐らくだが、存在レベル(魔物の場合は種族レベルとも呼ばれているらしい)を上げるのに使ったんだろう。『神の慈悲』を操作できるわけでもないのにどうやって、という感じだけれども。
魔物は『神の慈悲』がなくても本能でステータスを弄れる、とか……?
というかコレを獲得すると、よりアルトとの差が広がるのでは……? まぁ……うん……。
「……獲得っと」
第六感が取ったほうが面白いって囁いてたからね。仕方ない仕方ない。
付随して獲得したスキルは二つ。
《虫の魂》と《契約・虫》だ。
「職業獲得時に得られるスキルは二つ、みたいに決まってたりするのか……?」
前者は虫系モンスターの強化をするスキル、後者は虫との契約がしやすくなるスキル。
「うん。でしょうね。」
まぁ感動するようなスキルはないわな。
知ってた〜〜〜〜〜。
何にどう経験値を割り振るかは明日考えよう。うん。だって面倒くさいんだもの。多すぎ。
「一応《虫の魂》の方は後で検証しておこう……」
◆◆◆◆◆
灯織がアルトの魔物化に成功してから3日。
とある商社の社長室にて。
「圭吾さん!」
突然部屋に入ってきた甥に驚く様子もなく、圭吾がいつも通り口を開く。
「…………慎二か。私は忙しい。要件があるなら簡潔に頼む」
「僕、明日から今回の有給を使って灯織さんと経験値稼ぎに行ってきます!」
「…………ん……?」
「いってき、ます!!!」
圭吾がなぜ、と疑問を口にするときには既に、言いたいことを言い終えた慎二は社長室を出ていた。
詳しい話を聞こうかと、一瞬立ち上がろうとした圭吾だが、子供らしい部分が多いとはいえ、元勇者の速度。追いつけるはずもなかった。
結局、立ち上がることすらなく体勢を戻す。
バタン、と閉まる扉の音を聞きながら、圭吾は少し首をかしげた。
「アイツは中々どうして面白い男だ。変人同士気が合うのか……?」
お前も同じくらいには変人であると教えてくれる人間はここにはいない。
少し考え込む様子を見せた高科圭吾は結局、まぁ慎二がいるならばなにかあっても問題ないだろうと納得し、膨大な量の雑務に戻っていった。