交渉。
本日ラストです。
『なんだよ?』
「最近の景気はどうだい?」
開幕一言目から嫌疑を多分に孕んだ声色に少し笑いそうになりながら、口を開いた。
『まぁ……ぼちほちだ。で?』
「相変わらず結論を急ぐやつだなおい」
『お前は金になるときとならんときの差が酷いからな。結論を聞いてからコチラの態度を決めることにしている』
こいつやっぱ性格終わってるでしょw
他の人にもこの態度なんだとしたらどうやって顧客を獲得しているのか、非常に興味深いところである。
とはいえそんなことを考えていても話は進まない。向こうが電話を切ってしまう前にとっとと結論を話すべきだろうな。
「纏まった数の魔石が欲しい」
『……………ふむ。金は?』
「ない」
『つまり先行投資だな。お前には蜘蛛の件でそこそこ稼がせてもらった。そちらならなるべく丁寧な対応を心掛けよう』
「それでもなお心掛けるだけかよ」
『それは諦めてくれ。それで?……使用用途と成果を出すために必要な期間の目安は? まさかプレゼンの準備もなく連絡してきたのではないだろうな』
この男、これのどこが丁寧な対応なんだ。
呆れが声に出ないように、口を開く。ちなみにプレゼンの準備はしてない。
「職業が錬金術師だった。」
『だろうな。俺は商人だった。』
でしょうね〜〜〜〜。
「だから魔石を使った研究がしたい……というか、レベルがあげたい」
ここまでは一般的な思考。皆が考えてる。これでこいつを満足させることは当然できないだろう。大事なのはここからだ。
『……で?』
「虫に関する研究なんだが、そもそも……そうだな、そもそも、錬金術士のできることを知ってるか?」
『…………対象の研究。主に魔力や魔石、魔物が関係する研究に無類の特化性を誇っている。我が社のお抱え錬金術士は既にマウスの異世界へ適応させることに成功している』
「えぇ……」
本当にドン引きである。
この男、高科圭吾はいつもこうなのだ。合理的。コチラが何かを思いついたときには既にそれを形にし終えている。
俺が会社のお抱え錬金術士になる提案をするときには、もう他にお抱え錬金術士を捕まえていて、しかもソイツは既に研究成果を出してるとか……もうさぁ……。
呆れながらも、とりあえず言葉を紡ぐ。
「なら話は早いだろ。俺をそこに入れてくれれば、役には立つってことは分かるはずだ。てかなんで誘わなかった?」
『……………………』
「もしもーし?」
『……まず、お前を我が社で雇う気はない』
「へ?」
『理由は二つ。一つ目。我が社が求めているのは再現が容易で金になる研究であり、お前の特異な研究ではないこと。二つ目。お前の能力は統制された我が社の中では半減するであろうこと』
「まぁ…………それは……」
返す言葉もない。完全に俺の社会不適合者の部分が見抜かれている。
『ただ、融資は行おう。期間は問わないが、こちらが払った金額に値する成果を得られることを期待している』
「……!!!」
『お前の住所は分かっている。こちらの錬金術師の研究成果の一部と相当量の魔石、それと虫の餌を送っておこう。』
ちょっとコイツ有能すぎるだろ。虫の餌まで見抜かれてやんの。
「ありがとう。助かる。成果は定期的に報告すればいいのか?」
『俺は忙しい。重要な要件と飲みの誘い以外はこちらの錬金術士に送ってくれ。くれぐれも報告書は丁寧にな』
「りょーかい。落ち着いたら飲みに行こう」
『あぁ。では。もうかけてくるなよ。』
「いやどっちなんだよ」
ガチャリ、と、言うことだけ言って電話を切った商人こと圭吾に最後のツッコミは聞こえていないに違いない。ツンデレ野郎め。
お抱え錬金術士とやらの連絡先が分からないが……まぁアイツなら魔石と一緒に送ってくることだろう。
◆◆◆
さて。高科圭吾に魔石の融資を頼んでから早3日。
家のインターホンがなった。
「は〜い」
普段であれば、何の疑問も持たないようなこと。
アポを取られた記憶は……まぁ魔石がやっと来たかなー郵便で送ってくるってことはそんな量でもないのか……?などと考えながら答える。
「ん………?」
インターホンを……?押した……???
遅れて疑問が吹き出す。
もちろん、ある程度月日が立てば、俺達人類の平均レベルが上がり、その辺のインフラも復活するだろうとは思っていた。……が、まだ2週間だ。
もちろん発電所と雷龍の件なんかもあるが……それは国家が動いたからこその話だろう……???
「……どちら様ですか?」
『魔石を届けに来ました! 圭吾さんの部下です!!』
ハイ確定ですね。いやアイツ本当にどうなってんだ。
「分かりました……扉を開けますが……大丈夫ですか? 魔物とか」
『自分なら問題ないです! 周辺のモンスターは殲滅してから来ましたので!』
れ、レベルが気になる……50とか……?
混乱しながらも、インターホンを離れて扉へと向かう。
とりあえず、礼儀正しくしたほうが良さそうだ。怒らせて軽くでも叩かれたら死ぬかもしれない。
ガチャリ、と、音を立てて、扉を開けた。
「こんにちわ! 高科商社です!」
「いやそれインターホン越しに言うやつ」
「そうでした!」
そこに立っているのは、まだ10代後半に見える少年……は失礼か。青年だった。
日本人とはとても思えないような金髪碧眼。整った顔立ちと自信に満ち溢れるオーラも合わせれば、誰がどう見ても主人公である。
「うん。一人で?」
軽く雑談しながら彼を居間へと通す。
「そーですね。高科さんに頼まれて来ました。高科インガルス慎二です! 慎二って呼んでいただければ!」
「あぁハーフの人なんだ……高科圭吾の親戚?」
「そうなります! 甥です!」
「そっか。よろしくね、慎二君。俺は山野灯織。ひおりって読んでくれると助かる。」
「分かりました! 灯織さんですね!」
疑問点が多すぎる。何歳なんだとかどうしてアイツの会社を手伝ってるんだとか何レベルなんだとか。あとそもそも荷物持ってきてねぇじゃねぇかとか。
この子、見る限り剣しか持ってない。
何? 圭吾のやつ、耄碌したの??? 年か??
お茶を出しながらそんなことを考えていると、その疑問のほとんどに答えるような発言が飛んできた。
「まず最初に自己紹介ですが、僕は元勇者ですね。レベルは明かせませんが、少なくとも500よりは高いってことぐらいは……?」
「……………??? …………!?」
やばい。アイツやっぱ耄碌してなかった。
元……元ってつまり
「2年前に異世界に召喚されて、とある魔王を倒したので……そうですね。今の大変革後の世界でもかなり上から数えた方が早いくらいには強いと思います!」
「なる……ほど……」
セカイハヒロイナー。
「それと! コチラ、約束の魔石と研究レポート、あと虫?の餌です!」
そう言って差し出されたのは、一つの腕輪だ。
まさかね、まさかゲームのアイテムボックス的なやつな訳が無い。ないったらない。まだ2週間しか経ってないんだぞもしそうなら余りにも人類ってか高科商社が強かすぎる。
「これはアイテムボックスと言って……その中でもそこそこのグレードのものですね。部屋の中に全魔石が入るか怪しいからそれも使えと圭吾さんから!」
「ほー」
もう諦めである。
ホーとか言って。
「高科商社以外にも数社取り扱っていますが……金額、聞きます?」
ニヤリ、と少しふざけた感じに笑う慎二君に少し癒やされながら、首を横に振る。
うーん本当に聞きたくない。
「残念。ちなみに百万は超えないです!」
「おぉう……リアルだね……」
ついでにと渡された内容物リストを見る限り、この商品が交通関係に革命を起こすであろうことは想像に難くない。この便利さでその金額ってことは……まぁわりと流通してるっぽいかな。セーフで。
「いくつか質問があれば答えてこいと、圭吾さんからのお達しです!」
「あーーー、では遠慮なく」
「はい!」
それ後、俺が気になっていたことが多かったこともあり、かれこれ数時間ほどの質疑応答と連絡先交換をして、元勇者こと高科インガルス慎二は帰っていった。
いやぁ、有意義な一日であると同時に、改めて高科圭吾とか言う商人のヤバさを実感させられる一日だった。
あと多分これ重要情報多すぎて高科商社を敵に回した瞬間始末されるんじゃないかな……。
次回投稿予定日は6月19日18時の予定です。
よろしくお願いします。