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世界には様々な趣味を持った人間がいる。

 大変革の日から10日が経った。


 あの大災害直後は、いつ避難所がモンスターに襲われるかも分からないような状況の中、近くに住んでいた人達と身を寄せ合って生きていた。


 現在もかなりの数の人々が避難所にて生活しているのだが……それでもある程度の人は自宅へと帰っている。


 原因は完全に不明だが、あの大災害によって建物への被害はほとんどなかったらしい。

 日本政府から公的に発表されたときは驚いたものである。

 お陰様というかなんというか、ウチのペット達も無事生きていた。飢え死にしないよう餌を勝手に与える設備があって良かった。


 結果として大災害を終えて残ったものは、恐怖心とモンスターと『神の慈悲』と言う名前のアプリ。あーあとダンジョン。


「そろそろ俺もレベル上げしないとかな……」


 今は小さな自宅にてささやかながら平穏な日常を送っているのだが、隣の高校生なんかは友達と近くの公園やダンジョンでレベル上げをしているらしい。


 あ、餌ね。さっきも食べてたけど……まぁいっか。


「よーしよし、今日もかわいいなぁお前は」


 災害による混乱、モンスターによる殺戮、異世界から来たと言われている知的生命体の活動、そして勇者や自衛隊による救護。

 激動する状況の中で、俺がこんなにも平穏な日常を送っている理由としては、身近に勇者と呼ばれる存在がいたことが大きい。まぁ詳しい話は一旦割愛するのだが。


「ちょっと肩に乗っててくれよ? 部屋をぱぱっと片付けるからな」


 籠からペットを取り出して肩へと持っていき、飛び乗ったというか……渡った?のを確認してから内部を掃除する。


「こしょばっ」


 ぐり、と、首筋に脚を近づけられたらしい。思わず身体が大きく揺れた……あ、ちゃんと落ちずにしがみついてる。


「偉いな〜」


 頭部を撫でてやると、手に思いっきり糸を吹きかけられた。

 おぉう……。



 …………今ので分かる人もいるかも知れないが、俺が飼っているペットは蜘蛛である。というか、虫を結構な数飼っている。

 全虫可愛いが……そもそも虫とは人間が存在するということ自体に慣れることはあっても人間に懐くことはない。

 つまり、様々な虫を飼っている中で唯一奇跡的に懐いた、今俺の頭に乗っている蜘蛛ことアルトは……


「お前はほんっとかわいいな」


 ……のである。

 いやまじでくっそかわいい。


 さて、そんなことを考えながらアルトの部屋の掃除を終えた俺は、件の『神の慈悲』を起動する。


「やっっぱ胡散臭いんだよな」


 現状、『神の慈悲』で操作できることは、

 ・職業

 ・スキル

 の2つ。


 それらによると、俺の職業は【錬金術師】で、スキルは《研究》と《鑑定》。

 大変革の日以前の職業の影響も少し受けているらしく、SNSを見る限り(例外を除けばと言う大前提はあるものの)かなり優遇されているようだ。


 正直レベルやらスキルやらにあまり興味はないのだが、うん。


「このままだとアルト達の飯の調達がキツイ」


 異世界から来たとされるモンスター達は、コチラの世界の物品、要するに建物や道具を破壊できないらしい。

 例えば戦闘の余波でガラスが割れたりとか、コチラの世界の人間の攻撃によって家に叩きつけられたとか、そういう場合は破壊されるらしいが……とりあえず、家の中は割と安全だと言うことだ。


 この発見があった時点で、人類は割と復旧した。いやぁ強かなモノである。


 それからもなんやかんやあって、食い物は勇者に護衛された自衛隊の航空部隊が持ってきてくれるようになったし、水道や電気も政府の人間の意地と根性で運営が再開された。ネットに流れてきた情報の中に大規模な電気関係の施設の一つには雷龍が住み着いていたらしい。詳しい話は分からないものの、この世のものとは思えないような激戦の末にソイツは殺されたらしい。

 その竜骨が今やこの国の電気を支える一部になっているのだから、いやもうほんとうに……強かだな人類。


 今の分かりやすい問題点はただ一つ。自衛隊がペットの虫の餌まで考慮してくれるわけがないということだ。


「外に出て穴ほってたら後ろからモンスターに刺される、とか嫌だしな……いっそ隣の高校生に護衛頼むとか?」


 まぁ無理だろうなぁ。


 と、言うわけで最初のセリフである「そろそろ俺もレベル上げしないとかな……」に繋がるわけだ。


 思考に耽っていると、頭のアルトが抗議するように脚を突き立ててくる。いや痛い痛い。


「降りといで」


 多分俺の言葉の意味は分かっていないのだろうが、伸ばされた手にゆっくりと渡るその姿はどうしても確かな知性を感じる。

 うーんそんなわけないんだけどな。この種にこのレベルの知性があるなんて話聞いたこともないし見たこともない。

 大変革前から飼ってる以上、実は未知のモンスターでした〜みたいなんでもないだろうし。

 ていうかアルトの親も飼ってたし。


「ま、生まれた瞬間から近くにいるとかそういうのはあるかもだけどさ」


 アルトを巣へと戻し、他の虫達がいるケージにも餌を入れていく。

 慣れたもので、考え事をしながらでも逃がすようなヘマはしない。


「唯一のモチベーションは【錬金術師】の説明文だな」



【錬金術師】

 魔法薬及び魔法生物の取り扱いに長けた者が就く職業。

 魔法を絡めてアイテムを使う。獲得可能スキルは多岐に渡り、様々な職業に派生し得る。



「おそらく……いや、確実に虫関連でもなにかある」


 たしかいくつかのライトノベルではモンスターを操るような存在が登場するはず。

 それはつまり……魔法生物の取り扱いという部分を極めれば、異世界の虫も捕獲、実験可能ということなのではないだろうか!?

 ……おっと興奮しすぎた。


「んーーーーーーー」


 餌を与え終え部屋を出た俺は、窓から外の世界を見る。


 ずっと遠くで炎が上がり、竜らしきなにかが咆哮を上げた。

 SNSには連日、徒党を組む屈強なゴブリンや巨大なドラゴン、機巧の兵士など、さまざまなファンタジーの隠し撮りが投稿されている。

 ふと家の前の通りへと目をやれば、壁で隔たれていないところに獲物がいることに気づいたらしい狼のようなモンスター達がコチラを見ている。


「ダンジョン云々どころかそのへんにいるあれに勝てる気すらしないよなぁ」


 昨日隣の高校生が戦っているところを観察したが、両者俺には対応できる気のしない動きをしてたし。


 意味不明なことに、現在この国では、この異常事態を楽しもうとしてる奴がそこそこいるっぽい。

 そういう奴らは職業ごとにコミュニティを作り、【鍛冶師】なら鍛冶をするための必要素材を、【剣士】や【戦士】であれば戦闘手段や立ち回りを、【魔術師】ならば強い魔法を、それぞれに共有し合っている。


「錬金術師の集い……あったあった」


 俗に言う掲示板と言う奴だ。

 俺も錬金術師としてそのコミュニティを少しだけ覗いているのだが……錬金術と言うのがそもそも情報を共有し辛いというの問題が立ちはだかっている。


 そもそも戦闘に勝つことや生きることを目的としているわけでも、技術が必要なわけでもない。ただ研究を重ね、正解を探し出す【錬金術師】と言う職業は……そう、情報の隠しあいが最も分かりやすく行われている分野だ。


「それでも基礎の基礎だけは書いてある」


 必要な物は大きくわけて3つ。


 ・モンスターを倒すと手に入るらしい魔石

 ・研究対象

 ・実験機材


 例えば飲むと体力を回復する魔法薬を作ろうとすると、ダンジョンで発見報告が少しだけある薬草と魔石が必要になる。

 俺の場合は虫をどうにかする研究がしたいから……虫と魔石か。

 モンスターを倒しさえすれば魔石が手に入る以上、魔法薬を研究するよりは楽だろうけど。

 うん。何から手を付ければいいのかすら分からん。


「モンスター倒して、魔石回収して、それで?」


 いつも通り考察ノートを作るところからかな……。

 色々試さないと分からんだろうし、そもそも魔石って何なんだって話。


 試さないといけないことは無数にある。

 魔石……魔石ねぇ?


 心当たりはある。戦闘はめんど……じゃない、怖いし。それ以外の方法で手に入りそうなのをみすみす逃すつもりはない。


 起動していた『神の慈悲』を閉じて、電話帳を開く。

 現在時刻は昼過ぎ。ちょうど昼休憩ってとこだろうし、今かけても出るだろ。


 持て余した手でアルトと戯れている中、コール音が鳴り響く。


「…………………………お」


『なんだよ?』

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