暴走する世界
はじめまして。
ノンビリと書いていく予定です。よろしくお願いします。
2021年5月6日14時28分16秒
世界中で突如としてけたたましい警告音が鳴り響いた。
災害が起きることを知らせるソレに、ほとんどの人間がそれぞれのスマートホンを取り出して何事かと確認する。
『Prepare for shock』
たった一言。すべての携帯機器がその一言を残して機能停止した。
「はは、だれだよこんな悪戯するやつ」
「え、こわ、ハッキング?」
「災害アラートなったけど……地震?」
「何事だッ……!!!!」
「──まさか、」
そのメッセージからちょうど2分。
ほとんどの人間が動かなくなったスマートホンに首を傾げながら日常に戻り、一部の慎重な人間も警戒を解いたタイミング。
『……sorry』
世界が、歪んだ。
空間そのものが何かに耐えられなくなったかのように悲鳴を上げて崩れる。
世界中で発生源不明の大地震が起こり、ありとあらゆる火山が活動し、正体不明の轟音が鼓膜を襲い、遠い宙の闇すら照らされるようなまばゆい光が放たれる。
まさしく阿鼻叫喚。人々は泣き叫び、助けを求める。
『……sorry』
そして、混乱する人類など意に介さず、第二波が襲い来る。
「お、おい、アレ、なんだよ……?」
歪んだ空間、次元の扉とでもいうべきそれから這い出るのは、巨大な蟲や獣をはじめとした、まさしくモンスターと呼ぶべきモノたち。
「は、ははは、ラノベじゃ、あるまいし……」
同時に、世界各所に巨大な生成物が出現。
高層ビルのはるか上空を竜が飛び、深海を巨大な生命体が蹂躙する。
「Gwoooooooooooooaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!」
あれほどの大災害を受けてなお、なぜか一切の被害を受けていない高層ビル群の一つに着地した竜が咆哮を上げて炎を吐き出した。
「う、嘘だよな……? 嘘だといってくれよ……」
混乱の最中、対処しようと動く極一部の人類すら嘲るかのように新たな脅威は舞い降りる。
『──コチラβ。未知の生命体と遭遇。指示を求めます』
『無論、撃墜だ。』
高層ビルの上、強靭な生命力と有り余る暴力を周囲へと振りまいていた竜へと砲撃が行われる。
「戦闘機……じゃねぇ!!?」
「giwoooooooo!!!!!!!!」
人型の機械に翼が生えたソレの砲撃に、竜が悲鳴を上げて飛び上がる。
『生命力も魔力も波じゃない……!!』
「gooaaaaaaaaaaaaa!!!!」
強靭な翼をはためかせる竜と、機巧の翼を唸らせる人の戦いは、地上で観測する人へと確かな絶望を与えた。
「どういう……どうすれば……?」
映画でも見ているのだろうか、という疑問を、大量に飛び散った竜の血液の温かさが否定する。
「giii……!!!!!」
『吹き飛べッ!』
砲撃とブレスが衝突し、飛び散った血液が蒸発するほどの熱量が周囲へと振りまかれた。
「ヒッ……」
押し負けた竜がビルへと叩きつけられる。コンクリートが弾け、ビル内に残っていた人々は原型すら残らず溶けて消えた。
「Gwoo,aaaaa!!!」
「に、逃げるぞ……!!」
「どこへだよ!?」
「遠くへだ!!」
竜と機巧の戦闘に魅入っていた人々がその強烈な死の予感に、逃げ惑い始めた。
血と炎と鉄が飛び散る。
「だ、だれか……助けてくれ……!!!」
直前の災害と同じ。災害、モンスター、機巧、その全てに対抗手段を持たない弱き人々の叫びは、誰に届くこともない。
「gii……」
『対処完了。』
『──よし。ついでに……そちらにいる人類を数名確保しておいてくれ』
『……了解』
機巧の通信は弱き人々には聞こえていない。
しかし、竜と機巧の戦いが終わったことで平穏が帰ってきたのではないかという僅かな希望を持ってしまった人々に、機巧の奥にある無感情の瞳がそうではないと残酷な結論を告げた。
ゴウッ、と風を切る音が響き、人類には出しようもない速度で機巧が迫る。
「あっ……」
機巧の手が逃げ遅れた……訳ですらない人類へと伸ばされ、
「──させないよ」
それよりも早く、青く輝く剣が機巧の腕を切り落とした。
同時に剣を持っていない手が機巧の腹部らしき場所を殴打する。
『なん……ッ!? ぐぉ』
血と鉄が空を舞った。
捕らえられかけていた女性を抱えるように引き寄せ、機巧から距離を離させる。
それを成したのは……勇気を持つ者。かつて勇気を持った者。
「考えないといけないことは数多いけれど……まずは人々を守らないとね」
『お、お前は…………何者だ?』
機巧が、青年との力量差に自身の死を悟り、少しでも上司へと情報を残すための言葉を発した。
「僕? 僕はね……勇者だよ。元だけどね」
新たな強者の登場に行動を迷う弱き人々。
彼らには見えすらしない速度で勇者を名乗る青年が剣を持った手を閃かせる。
『くぉ゙……ッ!!!』
「悪いけど、殺さないよ……っと」
鉄を削る音が響き、機巧が解体された。
「ガッ……ァ……」
「……よっし」
機巧を解体された青白い肌をした人類の首を掴んで引きずり、弱き人々へと振り向く。
「ひっ……」
「ぇ、えっと……」
「味方……なのか?」
恐る恐る、と言った感じの声に、青年はにこやかに答える。
「えぇ。ですが僕にも状況は分かっていません。皆さんは……そうですね。纏まって避難してください。災害用の避難場所ならばある程度戦える人間もいるはずです。」
「あ、その……ありがとうございます。」
間一髪のタイミングで機巧から救い出された女性がお礼を言い、彼から離れてゆっくりと歩き出した。
「どういたしまして」
その様子に青年は人好きの良さそうな笑顔を浮かべ、背を向ける。
「助けられるだけ助けよう。話はそれからかな。」
そして、また弱き人々を守るために歩き出した。
世界が蹂躙される。
理は変わり、弱きは挫かれた。
突然の変化に人類は脅かされ、それでも強かに歩み始める。
『sorry』
大変革からちょうど1時間。
3度目の謝罪の言葉とともに、スマートホンが本来の機能を取り戻した。
『神の慈悲』と名付けられたアプリを残して。
本日3話まで投稿予定です。
よろしくお願いします。