■40:神様
僕はその後も茨木と、常に一緒に過ごした。相変わらずお互い外見的に老化する事は無かったが、さすがに頭の中身まで子供というわけではない。
例えば、少し前に世界貴族使用人連盟の制度が変化した時には、僕も口を出してみたりした。なんでもサイコサファイアが機能を停止したらしく、一時的な混乱が発生したのだ。自体を収めたのはギルベルトで、「これはメルムの意思を表示していたに過ぎない」というような事を口にしていた。僕にはその意味は分からなかったが、青ざめていた人は多かったように思う。
また、箱船が発掘されたというニュースを見た。それも、まだ西暦だった時代の話だ。その中で、古代にもフォンスがあったらしいという解説報道番組を見て、僕は茨木の研究が進むかも知れないと思って、喜んだりもした。茨木はそんな僕を優しい表情で見ていた。
僕の子供達――日本華族も少しずつ増えてきた。この前は、旭峰家の舞佳ちゃんが、昔学校で一緒だった鷹薙さんの長男と結婚した。フォンスの研究機関で一緒だったのがご縁だそうで、幸せそうな顔をしていたのが、印象的である。ちょっと年の差はあるが、僕と茨木よりは全然無いので、黙っておいた。どうやら僕は、自分を保護者だと認識すると、過保護になる傾向があるようだ。茨木にいつも苦笑されている。
――そういえば不思議な事に、サイコサファイアが機能しなくなってから、僕は蛇の夢を見なくなった。何か関係があったのだろうか?
さて、ギルベルトから連絡が来たのは、そんなある日だった。
珍しく真面目な顔で語るギルを眺めながら、僕は頷きつつ聞いていた。
「――という、理屈だそうだ」
「僕が神様ねぇ……」
「神様というか、神様と同じことが可能だという話らしい」
それを聞いて、僕は腕を組んだ。目を瞑り、首を捻ってから、茨木を見る。
「僕が神様ならば、僕が神様でない世界を作る事もできるんだよね?」
「ええ、そうなります」
「つまり――今のまま、僕は神様ではないけど、幸せだから、この平和が続く事を祈るよ」
僕がそう言うと、ギルベルトが息を飲んだ。それから、彼は何度か頷いた。
「お前、問題解決方法を聞いていたのか?」
「え? ううん」
「それとな、愛情が無いと、お前もいつか、過去を見てしまうかもしれないらしい」
「それはあるから大丈夫。茨木がいてくれる」
「――現状維持コネクトと言うそうだ」
「一生茨木との愛を現状維持する自身もあるよ」
そんなやり取りをし、最後に苦笑して立ち上がったギルを、僕は見送った。
そうして――茨木と二人になった。
「ねぇ、茨木」
「何かご用ですか?」
「――もしいつかこの世界が滅びる時が来たら」
僕は指を組んだ。それを膝の上に乗せてから、天井を見上げた。
「僕達は、一緒に過ごそうね」
「――かしこまりました」
「もし、それで、運良く生き残る事が出来たらさ」
「ええ」
「箱舟に乗っていたから助かったって、みんなに話そう」
「何故ですか?」
驚いた声の茨木を見て、僕は笑った。
「地球という箱船は、きっと沢山の生き物を、無意識に助けてくれるんじゃないかと思うんだ。だから――僕達は、きっと滅亡後も生きていける」
そんなやり取りをして、僕は窓から星空を見た。星の寿命については、意図的に忘れておくことにした。
その夜もキスをして、僕は茨木と共に眠った。
次に来る朝も、待ち遠しい。
――その後も世界は、続いていった。
【完】




