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■36:若紫


 ――今年で、僕が世界貴族になって、十一年目となる。

 正確には十年前、僕は茨木と恋人になってから……日本華族を認定するかどうか、悩んだ夏があった。あの年の冬、世界貴族らしくなろうと決意した僕は、翌年の春までに、茨木に準備をしてもらった事がある。


 学校だ。


 僕は、故人の祖父に倣ったわけでは無かったが、その年から、同時に孤児を引き取る事に決めた。五歳までに、孤児の選別が終える。彼らは僕の戸籍に入るわけではない。しかし、元々の戸籍状態のままともならない。日本華族としての新しい籍を得て、その新しい学校へ入学する。国内二校目の、フォンス専門教育校でもあるが、義務教育期間は、僕が引き取った孤児しか、その学校に足を踏み入れる事は出来ない。そのようにして、在りし日の小学校一年生から小学校六年生までの期間、彼らは一般教養から始まり、華族として必要な知識、フォンスについてを学ぶ。中学一年生から中学三年生の期間には、より実践的にF型表現者としての知識を身に付ける。この合計九年の時を経て――そして卒業してようやく、『僕の認定した』日本華族となる。全員がというわけではない。僕の認定から外れた場合は、蓮くんに後ろ盾を頼んである。


 今年初めて、僕が幼少時から見守ってきた一期生が、中学校を卒業する。

 高等部も作ってはあるが、そちらへの進学は自由だったし、留学するという手も、飛び級して大学へ行きという手も、自宅学習という手もある。本に手で触れると多くの事が分かる子供も多い。


 ――適任者がいないのならば、育てれば良い。

 源氏物語で、若紫を育てるように……とまでは言わないが、僕は自分のこの思いつきに乗り気だったし、茨木も当時賛同してくれたものである。


 だから十一年目の春は、僕にとっては、これまでとは異なる意味で、少しだけ特別だった。茨木と二人で庭の桜の花を見上げながら、僕は緊張を押し殺す。


「今日から、僕の認定日本華族になるのかぁ……本当に、僕で良いのかな?」

「光栄な事であると存じますよ」


 僕の認定候補者であるから、孤児達の元には、世界貴族使用人連盟が手配した、専任のハウスキーパー達が出かけていて、護衛もついていたし、何より家族のような温もりを与えて、慈しみ、育てたらしい。皆、フォンスを持っているから、その時点で僕の行為は差別的ではあるかもしれないが……そう思い悩む時期は過ぎていた。


 国内初の、僕認定の日本華族となるのは、今回は、四人の子供達だ。女子が二人、男子が二人。庭を出た僕達は、久しぶりに車に乗って、待ち合わせをしている街のホテルへと向かった。入口から既に、報道陣と他の華族で溢れかえっていた。僕が車から降りると、彼らは皆姿勢をただし、深々と腰を折る。茨木と共に中へと進みながら、僕は最近こういう周囲に慣れてきたが、子供達は既に慣れているのだろうかと考えた。


 二階の奥の大広間に入ると、絨毯替わりに高級そうな帯が幾重にも床に転がされていた。突き当たりには四つの屏風があり、それぞれの台座の前には、振袖を着た少女二名と、水干姿の少年二名が佇んでいる。華族風――誰が考えだしたのかは知らないが、言われてみると、お雛様に見えなくはない。四人は膝をついて、僕に対して深く頭を上げている。


 僕は茨木に促されて、用意されていた自分の台座に向かった。別に僕は、お雛様風の服装ではないが、気にせずに、靴を脱いで座ってみる。そばには茨木が立った。


 一番左に座っている女の子が、旭峰舞佳ちゃんと言う。長い飴色の髪を、いつもは二つに結んでいるのだが、今日は後ろでひとつにまとめていた。赤い着物だ。その隣に座っているのが、春咲可憐ちゃんという。こちらは桃色の着物だ。舞佳ちゃんと可憐ちゃんが、今後は、日本華族の旭峰家と春咲家の当主となる。


 続いて男の子は、一番右に座っているのが、真倉詩信くんで、彼は現在、お内裏様というよりは、陰陽師のコスプレをしているように見える。詩信くんの横に座っている最後の一人は、鴇瀬実継くんで、こちらも陰陽師風だ。僕が来る直前まで、二人はフォンスの具現化能力を駆使して、式神らしきものを出現させて、陰陽師ごっこをしていたらしい。仲が良いのは結構だ。


 舞佳ちゃんもそれに参加していた気配がある。可憐ちゃんだけが、大人しく、僕と茨木を待っていたようだ。そうした空気をフォンスで読み取り、僕の肩の力もようやく抜けた。


「茨木、彼らを認定するよ」

「かしこまりました」


 僕はたった一言、それだけ告げれば良かった。四人はそれを聞いた時――驚く程安堵しているように見えた。少しは彼らも不安を覚えていたらしい。その後僕達の前には、食事が用意されたので、学校の話などを聞きながら、親交を深めた。


 あと数日で、彼らは高等部の一年生になるそうなのだが――こんなに幼いものなのだったかと感じてしまう。二十七歳にして十七歳に怯えていた日々が懐かしい……。四人は全員、持ち上がりで進学するそうだった。だから、外部入学生が楽しみだと笑っていた。僕は何度も「優しくするんだよ」「お弁当を一人で食べていたら声をかけてあげようね」と口にし、隣にいる茨木に噴出されたものである。


 食後、記者会見と世界中継が行われることになったので、僕達は用意された会場に向かった。全て蓮くんが手配をしてくれていて、大勢の祝福客で溢れていた。僕は突き刺さってくる視線に顔を背けたくなったが――今では、もう目を逸らさないようにしている。茨木が一歩後ろにいる事を確認してから、人々に姿勢を正してくれるよう声をかけた。皆が頭を上げる。そこで僕は、新たに任命した、旭峰・春咲・真倉・鴇瀬の各家を日本華族として紹介し、僕が後ろ盾になった事を公言した。彼ら四人は、深く頷き社寺をそれぞれ述べて、新当主として、家が興った礼を僕に述べた。


 クリストフ伯爵家傘下、宋伯爵家傘下の華族達も顔を出し――少なくとも表面上は、新しい風を祝福してくれた。順風満帆な門出の夜、そう感じながら、僕は星空を見上げた。


 こうしてこの日から――僕の配下の日本華族が誕生したのである。





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