■31:十年
僕と茨木が恋人になって、もう十年目を迎えた。僕達は、この期間に、色々な所へと出かけたし、沢山の思い出を築いてきた。今でも僕は、この幸せが信じられない。もうすぐ大晦日である。茨木と僕は、庭を眺めながら、禊について話し合っていた。大掃除も元々は神道の行事であったのだろうかというような、そんな会話だ。
この十年で、僕は少し神話や宗教に詳しくなった。やはり、恋人の好きなものは、気になる。最近では、茨木も時々、自分の研究について話してくれるようになった。それも僕は嬉しくてならない。茨木が研究者であると知ったのは、比較的最近である。
僕は硝子に映る自分を見た。相変わらず、十七歳時点から、変化が無い。
そう考えて――今の凛は、十年前の自分と同じ歳だと気がついた。
「凛は元気かな?」
「ご連絡致しますか?」
「後でしてみるよ。そういえば、凛って、いつもギルと一緒にいるよね」
「ええ。世界貴族使用人連盟としても、お二人には適切に使用人と行動を共にして欲しいと何度も申し上げているのですが……」
茨木が溜息をついたので、僕は慌てた。茨木が困っているならば、力になりたい。
「そうだったの? 僕から話そうか?」
「――いえ。人の恋路を邪魔してはならないと申しますので」
「恋路?」
僕には、何の話か分からなかった。
そのため――数日後、凛に連絡をした日、僕は驚愕した。コスモスでの連絡を打ち切った後、すぐに茨木の元へと走った。
「茨木、大変だよ!」
「どうかなさったのですか?」
「凛が、凛が、凛が! ギルベルトを好きだと言うんだ。どうしよう!? つ、付き合っているらしいんだ……!」
「――ええ、そのようですね。私の方にもギルベルト様から煩い程の惚気が飛んできましたので、遮断させて頂きました」
「信じられない。男同士なのに……僕のせいかな? けど、僕は茨木の事が好きだ……凛は、関係ないって言っていたけど、そうかなぁ? うわぁ……僕、どうしたらいいかな?」
「実際に無関係だと存じますよ。何せ凛様は、私がまだギルベルト様にお仕えしていた頃から、ギルベルト様の事が好きでいらっしゃいましたし」
「へ?」
「私に、コスモスで感情を読めないようにする方法が無いかとお尋ねになられたので、理由を伺ったら、ギルベルト様に好意を知られたくないからだと仰っておいででした」
懐かしそうな茨木の声だったが、僕は目を見開いてしまった。一体それは、何年前の話なのだろうか。凛は、ま、まだ……子供だったんじゃないのだろうか? ギルは、子供に手を出したのだろうか!? 僕がこのように大混乱していると、茨木が吹き出した。
「そんなにご心配なさらなくとも」
「けど、凛はまだ十……いや、二十……あ、二十七歳だ……こう考えると、子供じゃなくて、大人なんだけど……」
「私達が付き合い始めた時、琉唯様は二十七歳でしたね」
「そっか。こう考えると……別に凛は子供じゃないんだけど、で、でも! 僕の中では、なんというか、幼いんだよね……うわあ……ギル、酷い事しないかな?」
「酷い事?」
「うん。凛を泣かせるような事があったら、僕はギルを許せる気がしない。決して僕はブラコンでは無いんだけど……なんていうかさ、そういう感覚って無い? 保護しなきゃというか、守らなきゃというか」
拳を握りしめて力説した僕を見て、茨木が片手で口元を覆った。
「では、ギルベルト様に釘を刺してはいかがですか?」
「う、うん!」
その後僕はギルに連絡を取り、「大切にしないとどうなるか分からない」と必死に伝えた。するとギルはただただ笑っていた。不甲斐ない気持ちでいっぱいである……。
夜――僕は、その時もまだ悩んでいた。
「はぁ……茨木、僕は凛の事が心配だよ」
「――妬けますね」
すると茨木が、僕の首元のリボンを解きながら、揶揄するように笑った。最近では僕も、ドレスコードがある場所に行く機会が増えたため、シャツとジャケットの事が多い。紐リボンが、床に落ちる。茨木は、続いて僕のシャツのボタンを外した。上から一つ一つ、丁寧に。その後は、ベルト、下衣、と、次々と脱がされる。
十年前の僕だったら、人に着替えさせられるなんて、恥ずかしくて無理だっただろう。だが今は慣れてしまった。――寝巻きへと着替える前に、押し倒される事にも。抱きしめられてから、寝台に押し倒される。
こうしてこの夜も体を重ねた。
翌朝、茨木の腕の中で目を覚ました僕は、溜息をついた。
「どうかされましたか?」
「うん。茨木はどうしてこんなに魅力的なんだろうと考えてたら、思わず溜息が……」
「――もう、別の心配事は吹き飛びましたか?」
「え? ……あ!」
凛の事を思い出して飛び起きようとした僕を、茨木が腕で囲った。
ギュッと僕を抱きしめながら、茨木が言う。
「私も琉唯様が魅力的な理由を考えたいので、もう少しこのままでいさせて下さい」
「茨木……」
それから僕達はキスをして――もう一度、交わった。こういう朝は、よくある。




