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ありえない方向から社会復帰した。  作者: 水鳴諒(猫宮乾)
――第六章(大蛇)――
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■23:日本防衛



「久しぶりだな、隅州」

「青海くんも――あ、サンジェルマン様?」

「青海で良い。結城もそう呼ぶし。な?」

「――まぁな」


 入ってきた青海くんと結城くんが、僕の前に立った。二人とも私服だ。いいや……私服と言って良いのか分からない。青海くんと――ギルは、二人とも、首元がブカブカのハイネックのコートのような上着を着ているのだ。お揃いには見えないが、よく似た形である。もう少し体に密着していたら、基督教の牧師さんの服に似ているかもしれない。もしくは……軍服だろうか。騎士だったか。こう、海外の……と、考えてみるが、上手く出てこない。色は、青海くんが青に近い黒、ギルが紫に近い黒である。


 一方の結城くんは、一見シャツと普通のボトムスなのだが、よく見ると、茨木や八巻さんと同じ紋章――世界貴族使用人連盟のマーク入のネクタイをつけているのだ。


 凛は白衣を着ている。その下は私服であるが、白衣だ。一番目をひく。こうなってくると、完全に私服である僕が逆に浮いている気がした。


「ま、とりあえずみんな座れ」


 ギルがそう言うと、茨木と八巻さんも含めて、全員が座った。最初結城くんが気まずそうにしていたが、青海くんが席に促したのである。


「「「「「「あ」」」」」」


 僕以外の全員の声が揃ったのは、その直後のことだった。

 何事だろう? 首を傾げた僕の前で、八巻さんが最初に右手で口を覆った。顔面蒼白である。続いて結城くんが険しい顔に変わり、唇を噛んだ。その反応に驚いてから、僕は茨木を見た。茨木は非常に真剣な顔をしていて、少しだけ目を細めているが、一見すれば無表情である。青海くんがその時腕を組んで、ちらりとギルを見た。ギルだけは先程までと変わらない表情で、テレビのリモコンに手を伸ばしている。そして電源を入れた。


『――繰り返します。グリード王国からのミサイル攻撃を確認しました』


 そのニュースを見て、僕は首をひねった。確か……北欧に出来上がっている国だったはずだ。深刻そうな表情で、アナウンサーがニュースを繰り返している。避難指示だ。


「どうするんだよ、ギルベルト?」

「ん? 何がだよ、伯爵」

「だから侯爵になったって言ってるだろ?」

「伯爵はお前のあだ名だ。そう捉えてくれ」


 青海くんとギルの自然なやりとりと、ニュースの映像が合致しない。


「――日本に力が集中しすぎているから、というのが理由の一つかな。今、ギルベルトさんもサンジェルマン様も琉唯様もいるし……元々クリストフ伯爵と宋伯爵家も介入してたし……そこに凛も凛様になったし、Aランクだけでも凛と梓くん、俺、茨木さんも世界貴族側から日本に来てる状態になったわけだからね」


 八巻さんが両腕で体を抱き、震えるように口にした。


「それだけじゃなく、勿論、保証人になったスミス氏の反応を見たいってのもあるだろうけどな――さて、結城。帰ろうか」

「なっ、青海……待ってくれ、着弾したら……」


 青海くんの腕を、結城くんが引いた。


「だからだろ。着弾したら、最悪日本本土の表面から生物がいなくなる。逃げるぞ。これは『命令』だ」

「っ」


 その声に、結城くんが硬直した。


「凛、享、俺達は非常時の場合の予定通り、富士山を保護しつつ南極に逃げるぞ」

「ギルベルトさん……け、けど……」

「……うん。樹海の保護は任せて」


 ギルの言葉に八巻さんは顔を引きつらせ、凛は小声で答えた。

 ――え?

 僕は焦った。慌てて茨木を見る。


「ね、ねぇ? これ、さ……やっぱり、自衛隊の人とかが打ち落とすの?」

「――内部にウイルスが仕込まれているミサイルが現在では一般的ですので、打ち落とす行動はあまり取られません。撃ち落とした瞬間、最寄りに待機している敵のF型表現者のフォンスでウイルスが拡散されるためです」

「じゃあどうするの?」

「多くの場合、ミサイルを消失させる処理が行われます」

「消失……? あ、フォンスで?」

「ええ」

「じゃあ誰かが消失させるって事だよね。びっくりしたぁ……」


 僕がそう言って胸を撫で下ろすと、室内に重い沈黙が溢れた。


「え……?」


 その反応に混乱して声を出すと、青海くんが僕を一瞥した。


「ミサイルを打ってきてるのはSランクの能力者だ。世界貴族の爵位は能力順――つまり、俺、ギル、お前以外は、ミサイルを消失できない。そういう現実があるから、国がひとつ出来上がってる」

「っ」

「かつ、俺とギルの場合、やつが作り出したミサイルは、目視しないと消失させられなかった。何やらフォンスの科学化実験を行ってるらしいんだ。理由は今、解析中だ。お前、ここから、指パチンとかで、ミサイル消せるか?」

「えっ」


 僕はうろたえて、テレビを見た。上空を飛んでいるミサイルを目に焼き付ける。

 その状態で、目を閉じた。すると、目の前にミサイルがあるように感じた。

 右手を持ち上げ、僕は必死で念じた。


「ミサイルよ、消えろ!」


 そして指をパチンと鳴らした。瞬間――全身から膨大な力が抜ける感覚がした。こんな経験は初めてで、何が起きたのか分からなかった。ぐらりと視界が歪み、瞬きをしたら反転している天井を見ていて、僕は受け止めてくれた茨木の腕の中にいた。


『繰り返します――ミ、ミサイルが、消失いたしました。消失を確認しました。現在政府は、世界貴族使用人連盟に問合せを行い――』


 続いてテレビの音声が耳に入った。それを聞いた瞬間、完全に僕の体からは力が抜けた。


「消しただと!? え!?」

「――ほう。さすがだな、スミス氏」


 青海くんとギルの声がする。なんだか熱いのに寒いという不可思議な感覚が、僕の体を包んだ。目眩がしていて、汗をびっしょりとかいている。一体、何がどうなったんだろう。


「琉唯様、大丈夫ですか? 琉唯様?」


 焦ったような茨木の声を聞きながら、僕は眠るように意識を落としたようだった。



 目が覚めると、僕は自宅にいた。周囲は暗くなっている。まだ体は悪寒に襲われている。震えながら、同時に酷い喉の渇きを覚えて、僕は手を伸ばした。


「琉唯様?」

「茨木……喉渇いた」

「これを」


 茨木は僕が起き上がるのを手伝ってくれて、それから水の入ったグラスを口元に当ててくれた。ゆっくりと僕は飲み込む。それから、ぐったりと寝台に倒れ込んだ。全身が重い。まるで風邪をひいたみたいだと気付いて――ああ、熱があるようだと理解した。


「……F型表現者も風邪ってひくんだね」

「風邪ではなく、膨大なフォンスを一気に放出した結果、体に反動が出て、熱を出しておられるのです」

「反動……今までは、そんなの無かったんだけど」

「それほどの力を使ったという事です――貴方のおかげで、多くの人間や動植物が救われました」

「……うん」


 頷いてから、僕はまた眠ってしまったようだった。

 ただ一瞬のことのように感じて、次に目を開けた時には、もう朝だった。

 隣に茨木がいない朝は久しぶりだと思いながら起き上がると、茨木は椅子に座って目を閉じていた。うとうとしている姿など、初めて見た。ずっと付いていてくれたのだろうか?


 そう考えながらベッドから降りると、茨木が目を覚ました。


「琉唯様……? 琉唯様っ、目が覚めたんですね。良かった……本当に良かった」

「ついていてくれたの?」

「ええ。この三週間というもの、気が気ではなくて」

「――三週間?」


 何の話だろうかと考えていると、足早に歩み寄ってきた茨木に、正面から抱きしめられた。その腕のぬくもりが僕は好きだと改めて思った。


「三週間ずっと目を覚まさなかったんです、琉唯様は」

「え?」

「もう、ギルベルト様の家に伺ってから――二十日以上が経過しているんです」

「そんな……」


 僕の背に茨木の腕が回る。僕は俯いて、額を茨木の胸に押し付けた。


「一ヶ月の記念日が過ぎちゃったね」

「――もうすぐ、二ヶ月目の記念日があります。何よりも、琉唯様の目が覚めて、本当に良かったです。私は、貴方が無事ならば、それが一番です」

「有難う」


 本当に心配してくれているのが伝わってきた気がした。無性に嬉しかった。僕も茨木の背中に腕を回してみる。そうしてしばらく二人で抱き合っていた。


 それから向かった食事の席では、家中の他の侍女・侍従といったお手伝いさん達や、シェフさんなども、僕の回復を本当に喜んでくれた。僕としては、目を閉じて開けたら三週間が過ぎていたような感覚だったから、少し不思議である。その後入浴し、出てからは部屋で水を飲んだ。そうしながら、何気なくテレビをつけた。


「ねぇ茨木」

「どうかなさいましたか?」

「僕の無事を喜んでくれたけど……僕は、またこの国に何かがあったら、守りたいと思うんだ」

「……――そうですか」

「茨木に喜んで欲しいからとかじゃなくて、僕も茨木と一緒にいられる今が好きだからだよ」

「……」

「僕は、力不足で、また茨木に今回みたいに迷惑をかける日が来るかもしれないけど」


 流れてきた地域のほのぼのニュースを眺めながら、僕は呟いた。すると茨木が、僕を後ろから抱きしめるようにして、僕の頭の上に顎を乗せた。


「世界貴族使用人としては、正しい御心に感銘を受けます」

「そんな、大げさな――」

「ですが、恋人としてならば、ついさきほど目が覚めたばかりの、能力を使いすぎた恋人の口から、また意識不明になるかもしれないといた趣旨の言葉を聞きたくはなかった」

「っ、茨木……」

「二度とこういった事が無いよう、十分に配慮してフォンスをご使用下さい。どれだけ心配したと思っているんですか」

「う、うん! 有難う!」


 そんなやりとりをしてから、僕達は久しぶりに口づけをした。




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