■18:教育
その後、家で過ごすようになった僕は、自室にテレビのモニターを設置した。もっと社会を知ろうと思ったのである。テレビに社会が映っているかは分からないが、何も知らないよりは良いだろう。
僕がソファに座ってテレビを見ている間、茨木は後ろに立っている。今は違うが。なんというか、以前とは異なり、最近は室内に居る。そして適宜ニュースに解説を入れてくれたりするのだ。
――変化は、室内に居るようになった事だけではないけれど。
今はテレビに、華族派への独立派の暴動のニュースが流れている。これには日本華族が派閥を超えて共闘しているらしい。華族派目線の報道である。僕は、結城くんの家族である総理大臣の顔を、このニュースで初めてまともに見た。あれ? とすると、凛も首相の血縁者という事なのだろうか? 世間とは、狭いような広いような……。
「テレビ、消しましょうか?」
「へ?」
僕が首を傾げると、溜息混じりに、茨木が指を鳴らした。パチンと音がした時には、テレビも消えていた。
「集中なさって下さい」
「……っ、あ、う、うん。ごめん」
謝りながら、僕は必死に考えないようにしていた温度を感じる。
茨木が、僕を後ろから抱きしめている。体温になれろと言うことらしい。
僕は茨木の胸板に背を預け、腕の中に収まりながら、茨木が好きだなぁと思った。
「今度は何を考えているんですか?」
「え」
「心ここにあらずですね」
「茨木の事を考えてたんだよ」
僕が素直に答えると、茨木が硬直した。そして顔を背けると、目を細めた。
「どこでそういう殺し文句を覚えたんですか」
「へ?」
「無自覚ですか……まぁ良いでしょう」
「ねぇ茨木……」
「なんですか?」
「挿れて」
思わず僕は口にしてから、両手で顔を覆った。恥ずかしいが、僕の体はもう覚えてしまったのである。童貞だった僕にとって、他者との間で生まれる快楽というのは、虜にならない方が無理な代物だったのである。
「それは、ご命令ですか?」
「う……」
「どうなんです?」
すると茨木が、すっと目を細めて僕に言った。指の合間からその表情を見て、僕は泣きたくなった。最近、茨木は僕に、こう聞くのだ。つまり――命令すれば、茨木は僕とSEXしてくれるという事だ。僕はいつも、上手くこの問に答えられない。茨木が嫌ならば、無理にはと思うのだ。けれどじわりじわりと体は、情事を思い出して熱くなる。
しばしの間、そんな僕を見ていた茨木は、それから嘆息した。
「まぁ望みを口に出来るだけ、進歩しましたね」
「……茨木、早く」
「仕方ありませんね」
僕にはその声が非常に冷たく思えて、落ち込んだ。だが――直後茨木が喉で笑って僕を抱きしめるようにして押し倒した。
「ついつい虐めたくなってしまうのは、私の悪い癖です」
「!」
そのまま唇を貪られてから、僕は快楽に飲まれた。
――フォンスのおかげで、いつも僕達は、清潔である。
事後、僕はソファの上でぐったりしながら、茨木を見た。手袋をはめている茨木を見る度に……世界は本当に奇想天外だなと思う。まさかこんな日が来るとは、思ってもいなかった。
茨木がテレビの電源を入れた。何気なく見ると、既に時刻が三時間も経過していた。
前は横たわって一日が過ぎていったのだが、その時とは違い、密度の濃さで時間が経つのが早い。傍から見ていたら、僕は家でテレビを見たり、長閑なものなのだろうが……僕にとっては濃いのである。
「スミス様、招待状が届いております」
「誰から?」
「クリストフ伯爵家より、夜会のご案内です」
「蓮くんから?」
「はい。先ほどの暴動のニュースの関連でしょう。正式に、スミス様に、この国の保証人となって欲しいという依頼だと考えられます」
「僕にそんなのできるのかな?」
「スミス様が、なさりたいのであれば」
「……」
「判断がつかないのであれば、材料を集めるために、夜会に顔を出してみるのは、悪い事ではないでしょう」
「――茨木も一緒に来てくれる?」
「ええ、勿論です」
茨木の手に、一通の手紙が現れた。封筒を受け取りながら、僕は蝋印を初めて目にした。家紋の模様がある。
「行ってみようかな」
「では、手配をしておきます」
こうして、僕は久しぶりに外出する事が決まった。




