勇者の素質、10段階評価2。
10年前くらいに思いついたネタをもったいない精神で書き起こしてはみたものの、プロローグ部分のみで力尽きました。続きはない。暇つぶしの妄想のネタ程度にお楽しみ下さい。
勇者―――という言葉を聞いて、あなたはどんなものを想像するだろうか?
多くはきっと、心躍るような、手に汗握るような、そんな冒険譚を思い浮かべるのだろう。もしくはその物語の主人公を。剣をはじめとした武技に優れ、あるいは希少か高度な魔法すら使うことができ、他に類を見ない素晴らしき武器防具を纏い、個性的でありながら頼もしい仲間を率い、彼らを指揮して導く判断力・決断力をももつ……そんな才溢れた者を。
しかして、それは「物語」であるからこその存在である。当然だ。そんな者がごろごろいたんじゃあ普通、世の中確実に混沌と化している。
何故かって? よく考えてみろ、目的もなく力だけ持つ者がいたら恐れるのが人間という生き物だ。臆病だからな。無いはずの目的を「まさか自分たちを害するのではなかろうか?」と勝手に妄想して思い込み、やられる前にやれ、を起こす人間というのは悲しいかな一定数は必ず存在するものだ。
……うん。そう思っていたんだけどなあ。
現実としてこの場に立ってなお、認識の違いによる違和感と、己の才能を理解した上での場違い感に、現実逃避してしまうのは無理もないと思う。
いや、まあ、自分の考えの方がこちらでは異質であることは解ってはいる。上手く飲み込めるかどうかは別問題だというだけで。
「次、ハンノ・ハインミュラー!」
「はいっ」
名を呼ばれたことで思考を現実へと引き戻し、姿勢を正す。列から一歩前へ出ると、周囲の視線が容赦なくグサグサと突き刺さった。純粋な好奇心からのものもあるが、大半は嘲笑と侮蔑、猜疑心を含んでいる。
……可能であれば逃げ出したい。いや、無理だから此処にいるんですけどね。
「貴殿のノイシャッフェン王立学園・勇者養成学科への入学を許可する」
「ありがとうございます」
必死に表情を変えないように努めながら、声を絞り出す。
驚いたことにこの世界、勇者という存在を養成する教育機関が存在するのである。初めて聞いた時に思わず聞き返した俺は悪くないと思う。そらそうだろうよ、人類を滅ぼそうとする魔王とかが存在するなら、対抗手段として才能あるものを養成しようというのは解らなくはない。が、有り難くも悪の魔王は存在しないのだ。
他国との戦争もなく、平和そのものである。にも関わらず、勇者などという強大な力を持つ存在を養成しようとする……俺からすれば狂気の沙汰なのだが、俺以外には当然だという、この違和感。
そんな認識の齟齬を抜きにしても、正直に言って俺は勇者とかいう柄じゃない。むしろ目立ちたくないからモブでいい。なんで普通に文官科とかじゃ駄目だったんだろうか。そうしたら、卒業後は次期当主になる兄上の補佐ってことで領地に引っ込むなりできたのに。
そもそもだ、柄じゃない以前に能力の問題がある。何故、試験に受かってしまっているのだろうか。なんたって俺は……―――
「なお、配属は第3クラス。入学試験評価は……2、だ。精進しなさい」
「……はい」
勇者の素質、10段階評価2の、完全に落ちこぼれである。
主人公は落ちこぼれから最強に成り上がったりはしません。本人の基本スペックは永遠に微妙なままです。代わりに周囲の人間が規格外なタイプ。
……実は、主人公の特殊能力は仲間の成長をやっべぇレベルで引き上げるというものです。ただし懐に入れた相手に限る。他にも能力を足そうかと妄想したら、テンプレ愛され系になりそうだったのでそれはつまんねぇなってボツりました。続かない理由はそのへんもあるのかも。