プロローグ - 事が間違っている明白に
その日は何の変哲もない平凡な日だった。
いや、友達が自殺して沈んだ雰囲気のせいで平凡ではなかったのか。
少なくとも何奴かの頭は壊そうとしたんだから。
少なくとも私は悲しかったようだが,その記憶もぼんやりしていた。
ここに来て10年も経ったからか。
昼休みにベルが鳴る時間に合わせて登校し、教室のドアを開けた瞬間、
時間が止まったような感覚に襲われ、気づいたら見慣れない天井が見えた。
慌てて立ち上がって周辺を見回すと、床に横になっていた人たちがそろそろ立ち上がり始めたが、違和感が感じられた。 みんな西洋人だった。
状況を理解できず、しばらく呆然としていたら、誰かが謹厳な低音で話しかけた。
「ようこそ、英雄たちよ。 私はロンバルディアの王アルベリックと申します。」
声が聞こえた所を見渡すと壮年の元気がなさそうな男が王冠をかぶって玉座に座っていた。
「はぁ…これはどういうことだ…」
「ムカつく、ここはどこ?」
「やった!来た来た、異世界召喚!」
みんながざわめき声を無視して周囲を見渡し,状況を把握しようとした。
倒れていた私たちを中心に両側に重甲を着た騎士たちが立ち並んで私たちを見下ろしており、自分を王と称したおじさんの右側には意地悪な顔をした老人が、左側にはローブをつけた若い女性が立っていた。
「皆さんが混乱されていたということは、 よく知っています。 私はロンバルディア王国の宰相フェルナンドと申します。 まずは現状について説明したいので、みんな私についてきてもらえますか?」
混乱が収まる気配がないので、老人は手をたたきながら耳目を引いて痰を吐き出す声で言った。
「じゃあ、陛下」
フェルナンドが頭を下げてあいさつすると、アルベリックは面倒くさそうに手を振ってうなずいた。
門番が開けてくれたドアの前に立ち、我々について来いと言わんばかりに手招きしながら先頭に立っているフェルナンドのあとを追いかけ、広い応接間に案内された。
「みなさん、いろいろ質問があると思いますが、座ってお待ちください。」
フェルナンドが言って下女長に目くばせすると、10人の下女たちがすばやく動いてお茶を各自の前に一杯ずつ置いた。
どぎまぎした状況でお茶を飲むこともできず、呆然と座っていること以外にできることがなかった。
「王太女殿下が到着いたしました!」
警備兵がドアを開けて大声で叫ぶと、みんなの視線が集中した。
門から入ってくる女性は誰が見ても神聖なオーラを発しており、ベールを被っているにもかかわらず、きっと美しいだろうと予想される清らかな声を持っていた。 内容がよく思い出せないが、大雑把に説明を聞くと、授業を終えて出ようとした担任の先生を含め、クラス全員28人がここに召喚されたという。
召喚の目的は人類に害悪を及ぼす魔王が生まれ、自分たちの力では対抗できない状況なので、我々に魔王を討伐することを望んでいる。
成功したらまた地球に返してくれるんだって。
異世界から召喚すれば神は特別な力を与えることができるが、対話が通じないため志願したここの民たちを憑依召喚させたという。 おかげで私は、ぼさぼさした赤い髪と赤い目の女になった。
基本的に目鼻立ちははっきりした西欧的な顔型なので、栄養状態が改善されれば美人ではないかと思う。
お互いに元々の顔を知らないから一人一人
あいさつをして再び顔を慣らすようになった。
「ハイネです。よろしく」
淡々と自己紹介をして椅子に身を任せると、王太女の反応は微妙だった。 他のメンバーはこういう反応なかったよ?
「ハイ…ネ?」
自分をナイチンゲールと紹介した王太女はなぜ私をあんなに見つめるのか。 妙な親近感があるんだよね....
皆の紹介が終わり、私たちに与えられた職業と潜在能力を調べるために、水晶玉をテーブルに載せた。 手をあげて精神を集中すれば、頭の中に自然と職業と能力が浮び上がる道具だという。
異世界版スカウターかな? それは便利だね。
他の同窓たちは選別の過程で勇士や賢者のようなそれこそ王道的なファンタジーらしい職業を受けた。
先生まで戦士として働いたのに、私は錬金術師を受けた。 戦闘に何の役にも立たない生産職なのに。 ドーピングでも提供して、 ポーション倉庫でもしろってこと? 私は格闘技を習っていた女の子だけど。
それ以来、毎日訓練という美名の下で、本当に歯ぎしりするほどだった。
比喩的な意味ではなく、物理的に。少なくとも自分の体を守らなければならず、「強行軍で持ちこたえるほどの体力をつけることが最低限度の目標だ」とし、「近衛隊長」にこき使われた。
こいつ、ソードマスターって言ったよね? 勇者をもらったやつと訓練で半分殺したのに、なんでこいつが魔王討伐団から除外されたんだ? と思って聞いてみた。
すると、返ってきた返事が情けない。 王家と王様を守らなければならないため、席を外すことはできないという。
賢者受けたやつをいじめていた魔塔主という女も同じ理由で動けないんだって?
家に帰してやるのを人質に取って子供を搾取する人身売買犯たちと何が違うんだ? 実に立派ですごいロイヤルブラッド万歳、ノブレスオブリージュは安値で放り投げたようだ。
結論は、自分たちの戦力は維持した状態で、他の奴らを捕まえて目的を達成するという下心だった。 魔王を討ったという名誉は、自分たちが持って狩りを終えた後、猟犬はどうするのか。
はい、先生!兎死狗烹の時間です! また元の世界に戻せばいいんですが、戰功を分ける必要もありません! ゴミタイプの異世界召喚だが、選択権もない。死んで来たのではないから帰れるという希望拷問だから、なおさら最低だ。
それでも聖女職業を持つ王太女が旅行に同行したのは幸いだった。継承者が危険な場所に同行するのに王家と貴族議会の不満が多かったが、王国の威名に役立つという王太女の主張に勝つことはできなかったようだ。これだけ自己保身に努める利己的で俗物的な奴らが他にいるだろうか。
ところでこいつらの性向を考えると、継承者を死地に行かせるのは筋が通らないな、なぜだろう? この疑問もすぐに解けた。良くない意味で。
間抜けな同窓たちは仕事が終わったらここに残るという。チート能力でいいようにめちゃくちゃに生きるというのか。率直に言って友達としてあげたくない反吐が出る奴らだからだろう。だから同窓。それ以上でも以下でもない。卒業したら知らないふりをして生きようお願いしたい。
さまざまな情況上、ここに残るのがいい選択ではない。 あんなに厳しく訓練しても、近衛隊長一人も勝てないのに、やりたいように生きることができると思うのはとんでもない。 考えというものをしないのか。
しかし、あえて教えたくはない。 自分の人生なのに勝手にすれば?
3年間トレーニング後に出た初の実戦で先生が死んだ。 あきれるほど簡単に···。 その時ふと気がした ここで死んだらどうなるの?
魔塔主が言うには魂が強制的に返還され地球から目覚めると言った。
おかしい。 お粗末だ。 それでは自殺すればまた帰れるという話じゃないか。 疑問を示したら苦々しく笑いながら、『自分の手で命を絶つことは永眠に入ることだから、余計な考えはダメよ』と言った。
人が死んだのに笑うの? あの死体はきっと君たち国民なのに? 平民は人ではないということか。 悟った。これらは人の命を数字で判断している。 「死ねば帰る」という言葉も嘘である可能性が大きくなった。
仕事が終わったら、成功しようが失敗しようが処分されるだろうという予感が強くする。 逃げることもできないだろう。 魔法でも物理でもしっかり監視しているに違いない。
振り切る力がないから、まずは言われた通りに従うしかない。 そうする過程で犠牲は続き、魔王城に到着すると、残りの人数は私と王太女を含めて6人しかいなかった。
この討伐は明らかに失敗した。 しかし、取り返しもつかない。 前進して全滅するか、魔王の首を取るか、二者択一しか残っていなかった。
魔王城に足を踏み入れると城門が固く閉ざされて帰ることができなかった。賢者はまだ帰還魔法も使えないんだよ。 それなのに、なんで賢者なんだよ。
仕方なく前に進んで、不思議な気分になった。 すごく静かだ。 魔物に遭遇しない. なぜだろう? 背筋に沿って冷や汗が流れ、頭の中で警鐘が鳴り始めた。
勇者が力強く大殿の扉をがらりと開けた。 あんなバカ野郎…。ドーピングしてポーション分けてもらうべきじゃないか。…まだ状況判断できないガキか?
ドアが開いた内部を確認した瞬間、がっかりした。 うん、これ終わった。 帰れない。
ホールの内部がいっぱいになっているのは魔物でもなかった。 これは明らかに悪魔たちだ。 魔物もまともに相手にすることができず死んでいったところで、悪魔にはどんな手を使って勝てようか。
数十匹のインプが一度に飛びかかり、前にいた4人を文字通りずたずたに破った。 対処する暇もなく···。
ハイネと王太女にインプたちが迫ってきて、「あ、もう死ぬのか」と思った時に異変が起きた。
「聖霊よ敵対者を滅ぼしてください! ルアフ(Ruwach)!」
王太女がスタッフを持ち上げて床に撮りながら叫ぶと、目もあけられないほどの光が四方に広がり、真っ赤な目に飛びついていたインプたちが灰となって消えていく光景を目撃するようになった。 一頭や二頭ではない。 広いホールにいっぱいあったものが、すべて消えた。
明らかに異常事態だ。 こんな力があるのにどうして今まで使わなかったんだ? どうしてみんな死んで行くように傍観したんだ? 攻撃手段はなく、回復だけできたのではないのか?
混乱と驚愕のまなざしで王太女を見つめると、視線が合ったため、小さく首を横に振った。 意味がわからない。
そして前兆もなく急に体が浮き上がる感覚を感じて壁にぶつかった。
呼吸が苦しい。 口外から金切り声がして呼吸がとれない。
あ、これは肺が壊れたのか。
視野が赤く曇っている。 これは目が壊れたのか、頭から流れた血なのか。 わからない。頭の中に霧がかかっているようだ。
今どんな状況だったっけ? 耳鳴りがし、周辺で何が起きているのかも判断がつかない。
とりあえず立ち上がらないと。 バランス感覚が言うことを聞かない。 生きて帰らないと。
左手で地をついて立ち上がろうと試みた。
「あ…あっ!!」
激痛に悲鳴がおのずと出て、息をのんで血が出るほど唇をかみしめた。
苦痛のもとになった左手を見下ろした。 あるべき身体の末端部分がなくなった。 手首からきれいに切られた手。 周辺を見回してもどこに行ったのか分からない。
王太女も壁にぶつかって倒れた状態だ。 何があったの?
なぜこうなったのかを把握するために、ゆっくりと周囲を見回してみると、遠く視野に入るものがあった。 玉座に尊大な姿勢で座っている魔王が。
「対話する必要もない」ということか、問答無用で魔法を飛ばしたようだ。 何の魔法かも分からなかった。
ゆっくりと玉座から立ち上がり、とぼとぼと近寄りながら首をかしげる魔王を眺めていると、まだ生きているのが不思議なようだ。
フードをかぶせられたため顔は確認できなかったが、体型を見ると女らしい。 最後の決定打を食らわせるかのように右手をゆっくりと持ち上げ、詠唱する魔王に素早く追跡のポーションと煙幕のポーションを投げつけ、王太女の方に体を転がした。
座っていた場所に火の玉が飛んで爆発し、魔王は追跡のポーションに当たって煙幕のポーションで視界が制限された。
追跡のために使うポーションだが、逆に位置を探して逃げる用途で使うのも楽だ。 もしここを生きて出て行ったら、逃げてうまく隠れて生きなければならないんじゃない? 生きて帰る確率は極度に低いが、万一にでも保険は必要だから。
小柄の王太女ぐらい持って逃げられると思って、きしむ体で走って行き、身を持ち上げようとした瞬間、再び異変が発生した。
「緊急事態発生。 適合者に命を脅かす衝撃が加えられました。 数分のうちに生命活動の停止が予想されます。 能動防御システムおよび修復に入ります。」
王太女の体が空中に浮び上がり、高底なしの声で話し、温かくほのかな後光が広がり始めた。
お腹から腸が出て、口から血をたらたら流しながら 無表情で話すのが
それこそホラーなのに…。もうすぐ死にそうなのに頭が追いつけないことばかり起きている。
「天の高いところで祝福された第2経典12位の御前天使、風を司り、絶対者の右方に位置する力天の首長よ、現現せよ! ベネディクティオ·サンティシミ·サクラメンチ·ラファエル(Benedictio Sanctissimi Sacramenti Raphael)。」
詠唱を終えると、王太女を中心に暖かい光が流れ出し、傷がすべて修復され始めた。 王太女を捕まえていたハイネも効果があったのか、傷が消えた。
切られた左手を除いて、手が再び生まれないようだ。 回復される主体がハイネじゃないからかも。 傷が埋まって出血過多で死なないだけでもいいんじゃない?
「生命維持に問題がないことを確認。 対敵者が残っているため安全な場所へ移動します。 テレフォルタチオン(Teleportation)。」
強烈な光に包まれる瞬間、浮遊感を感じながらまるでジェットコースターのように体がスッと下がる感覚が終わると、視野が明るくなった。
周辺を見渡すと、見慣れた風景だった。 あれほど厳しく訓練していたロンバルディア王城内の大練武場だった。
「適合者と親友の安全を確保。メディアレボトゥム(Mediale Votum)の起動を終了し、休眠いたします。」
まるで糸が切れたマリオネットのようにぱたっと倒れる王太女を抱いて席に座り込んでお腹の中に入ったことを吐いた。 空間移動のためか、同窓たちが引き裂かれて死ぬことを見たからかもしれない。
ところで私がいつから王太女の親友だっけ? 違うと思うんだけど。それほど縁は積んでいないと思う。 もちろん命が維持できるようにしてくれたことについては大きな借金をしたと思う。
そんなことができるなら借金を返していかなければならない。 魔王討伐に失敗した以上、今後どうなるか分からないが…。
口の中の苦い水を吐き出して涙をふいた. これからが肝心なところだ。 報告しなければならないから。 ため息をついて王太女を助け王城に向かった。
大殿に捕縛されたままひざまずかれ、玉座の取っ手を指でポンポンとたたきながら苦心するアルベリック王の処分を待つ時間が永劫のように感じられた。
拉致され酷使されてもこのような扱いをされるとはあまりにも不合理なのではないかと思うが、ここでは貴族と王が食物連鎖の最上位にある。
戦闘職業も持てない弱者に異世界から来たというが、平民であるうえに望むことも果たすことができなかった。 答えは分かりきっているよ。
「はぁ…魔王を討つこともできず、よくも帰ってきたな! 仲間はみな死んでいったのに…。皆の手本にならないハイネ,斬首刑を言い渡す、最後に言い残す言葉はあるか?」
謹厳なふりをしておぞましいことを言うアルベリック王の声を聞くと、ああ、やっぱりこうなるのか。 予想通りに流れると、かえって言葉がないという気がするだけだ。
「少々お待ちください。 陛下、 発言をお許しください。」
隣に一緒にひざまずいていた王太女が震える声で口を開いた。
「ゆるす。」
「ハイネは最後の最後まで私を安全に連れてくるために苦労しました。 それを勘案して許していただけませんか。」
「ふむ……。」
王太女が哀切な声で告げると、アルベリック王はため息とともに悩みに陥った。
「この討伐失敗の責任は私が負います。 継承権を第1王子ドミニクに譲ります。 そして、私を幽閉してください。」
「ふむ……!」
王太女の「爆弾発言」に首が折れないかと思うように、王太女を見て王を見た。 本来なら王が許さなかったのに顔を見ることは死ぬ罪だが、現在の状況がそれだけ衝撃的な発言なので誰も気にしなかった。
それで見た。 この低劣な寸劇の理由を、私たちはただ政治的に利用されただけだと理解してしまった。 いや、理解できたのだ。
「王太女がすべての責任を負って手本を見せるために、自ら選択したことだ! これにより、王太女は幽閉し、ハイネは本国から追放することにする。」
玉座からすっくと立ち上がり宣言するアルベリック王には悩みもない。 自分の娘をこんなにも簡単に手放す。 王族とはこういうものか。 幻滅が感じられ、吐き気がする。
「ハイネ、大変だと思いますが、生きてください。 お願いします。少しでも幸せになってください。」
王太女の水気あふれる声を聞くと、思わず涙が出る。 一体私が何をしてくれたから私にこんなによくしてくれるのだろうか。
「もしもまた会うことになったら私を友達としてみてください。 そして名前で呼んでください。 ナイチンゲールだって。」
ベールがながれながら、王太女の顔を初めて見た。 柔らかく流れた銀髪に涙がいっぱいの目には赤金オッドアイ。 きれいな顔が感情に込み上げて歪んでいても、女性も惚れるほどきれいだった。
一連の状況が終わり、すぐ城門の外に追い出された。 無一文で。どうやって生きていけばいいか分からないが、救われた命だ。 生きていかなければならない。
約10分歩いて後ろに回り、夕日が沈むロンバルディア城を眺めながら、先ほどのことを考えた。 ナイチンゲールが譲位すると言った時に王とフェルナンド宰相の顔を、そして魔塔主の姿を見て知った。
王は満足な笑いを、フェルナンド宰相は卑劣な笑いを、魔塔主は魔王にばらまいた追跡ポーションの跡を持っていた。
これはすべて第1王子ドミニクの王位を継承する権力争いに過ぎなかった。 すでにナイチンゲールを王太女に冊立した以上、大事故を起こして自ら退くようにするしか方法はなかっただろう。 それこそ悪鬼たちだ。
わずかその理由で私たちを呼び入れて犠牲にさせ、ナイチンゲールを幽閉したのだ。
どうせ天涯孤独に縁故もなかった身なので、帰りたいという思いは大きくない。王太女を、 いや友達を救出しなければならない。 何年かかってもそうすると誓った。
そして、その誓いは意外と早く成し遂げることができた。