38 メンヘラ
「申し訳ありませんが、明日から少しお休みを頂きたく存じ上げます。」
「え?」
マイさんが不安な顔をしている。
「待って。何が不満なの?直せることなら改善するから。怒らないから、教えて?」
こんな弱気なマイさん今までみたこともない。
「マイさんが悪いわけでは無いんです。僕の不安を解消しに領都に行きたいなって。」
「今の稼ぎじゃ満足出来ない?わかったわ。あなたの食費も松風の維持費も全て私が出すわ。」
「いえ。宿代を出して貰えるだけでも僕は満足しています。そこまでして貰う訳にはいかないですよ。」
このままでは究極完全体ヒモ男になってしまう。
「駄目よ!あなたが死ぬ時、手を握ってるって約束したじゃない!私を置いてどこかに行くなんて許さないわ!!」
「そう言われてもですね…もう決めた事なので。」
ガチャ。
マイさんは部屋のドアの鍵を掛けた。
「この部屋から出たいなら、私を倒していきなさい!」
マイさんが立ち塞がった。
まさか自分の寝泊りする部屋でボス戦が始まろうとは。
「あのー、すいません。ちゃんと戻ってきますんで、許して貰えないですか?」
「いいえ。あなたは死ぬまでもうこの部屋から出ることは無いわ。どうしても出なきゃ行けない時は、あなたを縛り上げて私の監視のもとに外出することになるわ。」
「そこまでします?」
「言ったでしょ?私にとって約束は死より優先されるって。逃げ出したら私、死ぬわよ?」
まさか自分を人質にするとは。
「逃げたりしませんよ。領都の教会に行きたいんです。僕の病気が治ったら直ぐ帰って来ますから、信じて下さい。」
「なによ、そう言う事なら早く言ってよね。」
よかった、許して貰えた。
もしかしたらマイさんはメンヘラなのかも知れない。
しかし、その日は単独行動することは出来なかった。
依頼をこなして大衆浴場に行っても、マイさんは脱衣所の前でずっと待っている。
「おい、どうしたんだよあれ。」
マルフォイさんが僕に話し掛けてきた。
「ああ、僕が逃げ出さないよう見張ってるんですよ。」
「お前なにしたんだよ…」
宿に帰ってからも監視は続いた。
松風のブラッシング中も隣で見ている。
「ブルルル(ちょっと、ご主人との大事な時間を邪魔しないでよ。集中出来ないじゃない!)」
マイさんと松風はにらみ合っている。
魔獣と獣人で通じ合うところでもあるのだろうか。
あ、これは獣人差別的な事を考えてしまった。
「いい?部屋で大人しくしてるのよ?」
「はい。わかりました。」
マイさんの入浴中はさすがに部屋で待たされた。
しかし、南京錠を買って来て外から鍵を掛けられてしまった。
しかし、明日から領都に行くので今日1日の辛抱だ。大したことではない。
翌朝
「じゃあ、領都に行きましょ。」
僕が旅の準備を終え部屋を出ようとすると、マイさんが言った。
「あれ?マイさんも来るんですか?」
「当たり前でしょ?あんたがいないと依頼も受けられないじゃない。せっかくだからついていくわ!」
「はあ、そうですか。」
僕は松風に跨がった。
松風は嫌がったが、マイさんも乗せてくれた。
今日もブラッシング2時間か…