28 お食事会
「まさか、そんなにお金に困ってたとは…知らなかったよ…」
僕たちは今、大衆居酒屋の無我夢中に来ている。
なんでも創業千年の長い歴史を持つ店らしい。
しかし、味は普通だ。
「ええ。思ったより馬を飼うのにお金と手間がかかりまして…」
2人がかわいそうな目を僕に向けて来る。
「あの時の報酬、やっぱり分けようか?少しは生活の足しになると思うよ。」
2人がいくら貰ったかは知らない。
しかし、1度断わったものを今さら貰う訳にはいかない。
「いえ。あの話はもう済んだ事なので。」
「そうか…」
「じゃあ、私の宿に来れば良いじゃない。」
マイさんはお酒を飲んで、顔が少し赤くなっている。
「マイさんの宿は安いんですか?」
後で知ったのだが、僕が借りている宿は高い方らしい。
冒険者ギルドの前にあるのだから当然かも知れないが、最初はお金に困っていなかった為、気にせずそのまま借り続けていた。
「私の宿は、月極めで金貨30枚よ。」
僕が借りている宿は、1泊銀貨8枚だ。30日泊まると、金貨20枚と銀貨4枚、僕の宿より高いじゃないか。
「いえ、その。今の宿の方が安いんで。」
でも、宿を変えるのも有りかも知れない。今度安い宿を探してみよう。
「は?なんでもう1部屋借りる必要があるの?私の部屋に来ればいいでしょ?」
「ホワッツ?」
何を言い出すのだ。
この女、大分酔っているみたいだ。
「ルームシェアか。それはいい、なんなら僕の宿でも……ごめん、僕の宿は無理っぽい。」
マイさんがアナさんを睨みつけている。
マイさんは怒るとたまに黒目が縦に細くなる。
おそらく獣族の特徴だろう。
「あんた、私と約束したわよね。あんたが死ぬとき、私が手を握ってるって。同じ部屋ならいつ死んでも問題ないでしょ!」
マイさんが優しいのか優しくないのかわからない発言をした。
「でも、女の子と一緒に住むのは、どうなんですかね…?」
「は!?何?あんたお金に困ってるんでしょ?」
僕は考えた。
安い宿に移り住めば、もしかしたら赤字スパイラルから抜け出せるかもしれない。
「そうでもないですよ?」
僕はマイさんに断りを入れた。間違いが起きて病気をうつしたら大変だ。
「それに、私に死ぬとき看取って欲しいんでしょ?」
この世界に来てから僕は独りぼっちだった。
しかし、今は松風がいる。
僕が死ぬ最後の日まで、松風と共にいたい。
なので、死んだ後に松風の面倒をみて貰えればそれでいい。
「そうでもないですよ?」
僕は答えた。
「は!?あんた本気?私と一緒に住めるのよ?ほら、私って結構可愛いでしょ?」
「そうでもないですよ?」
あっ、流れでつい言ってしまった。
マイさんは可愛い。
「あんた、殺すわよ…」
「すみません、マイさんは可愛いです。」
「そりゃそうでしょ。私のお母さんは傾倒の美女って言われてたんだから。私が可愛くないはずないわ!」
傾倒とは…確かにマイさんは可愛い。大学のミスコンでグランプリをとれるくらいには。けど、そこまでのものか?
もしかしたら獣族と人族では醜美の基準が違うのかも知れない。
「じゃあ、明日の朝あんたの宿に行くから、ちゃんと必要な手続きを済ませておくのよ?」
「これまた急ですね。」
「善は急げっていうやつよ!」
果たして善なのか?
「ところでさ、ダイ君の病気って、何なんだい?言いづらいなら構わないけど、もしよかったら教えてくれないかな?」
マイさんには知られたく無いが、アナさんになら教えてもいいかな。
「マイさん。出来れば、耳を塞いでください。あと、口を見て言葉を読み取るのも無しで。」
「なんで私だけ教えてくれないのよ!?あんたのこと、私が看取るのよ!!」
「だからこそ、です。」
エイズだと知られたら手を握って貰えないかもしれない。
そもそも部屋に泊めて貰えるかも怪しい。
マイさんがちゃんと耳を塞ぎ、目を閉じるのを確認すると、僕は念のため口を手で隠してアナさんの耳元で伝えた。
「ゴニョゴニョ…」
「ぷっ、はっ、はははははは!!!ダイ君、キミ、本当に面白いね!!」
「笑い事じゃないんですけど!」
マイさんがアナさんの笑い声で目を開けると、頭に?を浮かべてこちらを見ている。
「まあ、その病気は大丈夫だよ。今はマイも居るからね。今度教えてあげる。」
まさか、この世界には治療薬が存在しているのか?
それから少ししてお開きとなり、僕は少しの希望を胸に宿に帰った。
「ご感想、お待ちしております。」ミロ