26 記念日
「はいやぁ!」
パカラッ、パカラッ!
僕は今草原に来て、松風を走らせている。
本当はすぐにネズミ狩りに行きたいところだが、松風は1日1回走らせないと、馬小屋のなかで暴れてしまう。
ヒステリーを起こした女子のように暴れて柵を壊してしまった事もある。
朝一に草原まで行って帰って来るだけで、お昼近くになってしまう。
それだけではない。
夜寝る前にブラッシングしてあげなければならない。
松風が暴れた日の夜
僕は機嫌の悪い松風を落ち着かせるためブラッシングをした。
5分くらいして馬小屋を出ようとしたら、また暴れだす。
仕方ないのでブラッシングを再開したのだが、どうにも機嫌が治らない。
色々試してわかったのだが、松風に対して甘い言葉を囁きながら1時間以上ブラッシングをしないといけないらしい。
おかげで僕の稼ぎは急激に減った。
「そろそろいいかな、松風?」
「ヒヒーン、ブルルル(そうね、今日のデートはこんなものかしら。次はもうちょっと遠くに行きたいわ。泊まりがけで!キャッ!!)」
満足してくれたようだ。
草原を見渡すと、馬狩りが再開されたようだ。
捕まった馬達が1本の縄で結ばれて連行されている。
「ヒヒーン(姉御!助けて下さい!捕まっちやいました!)」
「ブーブルルル(は?そんなの自己責任でしょ!バカで弱いあんた達がいけないのよ。私とご主人の時間を邪魔しないでくれる?)」
「ブル、ブルル(そんなぁ!いやだぁ!俺は姉御の初めてを貰うまで死ねないんだぁ!)」
松風と連行される馬達が会話しているようだ。
「ごめんな松風。お前の仲間だろ?俺がお前を連れ出したせいで…」
(気にしないでご主人。私はあなたのもの。あなたのためなら、私は修羅にだってなれるわ。)
「今日は18匹か…」
ネズミ1匹銅貨7枚なので、稼ぎは金貨1枚、銀貨2枚、銅貨6枚である。
冒険者ギルドのセルフレジで報酬を貰う。
冒険者カードには1万2千6百ポイントが加算された。
今日は銀貨8枚近くの赤字である。
貯金はまだ残っているが、そろそろ対策を練らなければいけない。
「ねぇ」
今日は松風と僕が出逢って1ヶ月記念日だ。
昨日ブラッシングしながら、松風にプレゼントするって言ってしまった。
「ねぇって」
エイオンの日に買えばポイント2倍なのだが、あいにく今月はもう終わってしまっている。
「ダイ!私を無視するなんて、あんたいい根性してるわね!!」
「あ、マイさん。お久しぶりです。初めて僕の事、ダイって呼んでくれましたね。」
マイさんからは、あんた呼びしかされた事がなかった。名前を覚えられていないと思ったのだが、少し安心した。
「あんた、殺されたいの?」
マイさんが怒った。
しかも、マイさんの背中には大きな剣が背負われている。
やばい、今日はストレス解消の日だッたようだ。
「ちょっと、落ち着いて下さい。僕が悪かったです、ごめんなさい。」
僕は九十度にお辞儀した。
気持ちはこもってなくても、このお辞儀を見た人は反省してると受け取ってしまうだろう。
「そこまで深いお辞儀する人、ミロ以外で初めてみたわ…」
当たり前だ。僕はミロさんのお辞儀を見て部屋で練習したのだ。
「それで、僕になんの用です?」
「あんた、この後暇よね?夜ご飯食べに行きましょ。そこで話すわ。」
「あ、ごめんなさい。今日はもう予定入ってまして。」
「なに?それは私の誘いより大事な予定なの?」
メッチャ怖いが、ここで引いたら松風が暴れてしまう。金欠の僕には馬小屋の修理代を払う余裕が無い。
「はい。今日は記念日でして。プレゼント買ってすぐに帰らないと行けません。」
「えっ?」
「その相手って…おんな?」
マイさんの瞳が揺れる。
「そうですよ。」
松風はメスだ。
「あんた…あんな約束させておきながらっ!」
言いながらマイさんは僕に近づいてきた。
そして、僕はほっぺにグーパンされた。
僕はギルドの外まで吹っ飛んだ。
「もう、知らない!!」
マイさんは走って帰ってしまった。
「えー……」
僕、何かした?
「ブブルル(ちょっとご主人!怪我してるじゃない!!誰!?こんなことしたの!私が蹴り殺してあげる!!)」
松風は僕の頬をペロペロ舐めて来る。
優しさが伝わってきた。いい子だ。
「ありがう、松風。ちょっとマイさんを怒らせちゃって。ほら、僕達が出逢った日にいた桃髪の女の子。」
「ヒヒーン(あの女ね!!殺す!!人の男に手を出しやがって!!)」
松風が暴れだした。
「ちょっと松風、落ち着いて!今日は僕達の記念日なんだから。新しいブラシ、買ってきたんだ。これで今日は長めにブラッシングしてあげるね。」
「ブル…(ご主人!愛してるわ!私、あなたの子を産むわ!今から子供を作りましょう!!)」
松風がお尻を向けてきた。
僕は尻尾もブラッシングしてあげる。
「ブフル(ああん、焦らさないでよ。早く、入れてよ。)」
松風がお尻を振る。喜んで貰えたみたいだ。
ああ、生活が不安だ。