第七話「起点を探して②」
わたしとクロウは一階に移動した。
魔力の探知を行いながら、各部屋を回っていく。
食堂に来ると、そこにはシャルティアさんがいた。
「兄さんにルベーリアさん、二階の捜索はもう終わったんですか?」
「ああ、収穫はなしだけどな。そっちはどうだ?」
シャルティアさんは、小さく首を横に振った。
「残念ながら、なにも……」
「そうか……よし、ここからは三人で探すぞ」
わたしたち三人は、まだ調べていない場所を巡っていく。
そうしてすべての部屋で魔力探知をした結果――
「一階にもなかったですね……」
ぽつりと、わたしはそう零す。
「そうだな」
「残るは地下……ですね」
シャルティアさんが言った。地下っていうと、シャルティアさんが眠っていた棺の間だよね。あそこになら、なんとなく封印の起点がありそうな気がする。雰囲気的に。
「地下か。どっちから調べる?」
クロウの言葉に、わたしは首を傾げる。
「棺の間以外にも地下に部屋があるんですか?」
「ん? ああ、地下倉庫がある」
わたしが口にした疑問に、クロウが答えてくれた。
なるほど、地下倉庫か。そっちも怪しい気がする。
「……よし、まずは棺の間から行ってみるか」
地下への階段を下り、棺の間にやってくる。
「じゃあ、さっそく魔力探知を……」
「ちょっと待て」
意識を集中させようとしたわたしを、クロウが制止した。
「どうかしました?」
「一応、忠告してやろうと思ってな」
「忠告……ですか?」
なにをだろう。
「ここでの魔力探知には、細心の注意を払ったほうがいい」
「細心の注意、ですか?」
「たしかに、そうでしょうね」
シャルティアさんも、クロウに同意する。
そう言われても……具体的になにをどう気をつければいいんだろう。
「いまいち理解してないって顔だな」
クロウがニヤリとする。
ええ、そうですとも。理解していないですとも。
「説明してもらえますか?」
わたしは素直にそう進言した。
「いいだろう。さて、ここにはなにがある?」
なにがって……わたしは改めて室内を見渡す。
「棺がありますけど」
というか、棺しかない。あとは松明もあるか。
「そう、棺だ。中に吸血鬼が眠っているな」
「はあ……」
要するになにが言いたいんだろう。
「眠っている吸血鬼たちの魔力に呑まれないよう、注意しろってことだ」
「あまりに濃密すぎる魔力を探知すると、身体や精神になんらかの害を及ぼす可能性がありますからね」
シャルティアさんがそう補足する。
「な、なるほど……それは怖いですね」
「やめておくか?」
クロウがそう訊ねてくる。
「別に、お前が必ず魔力探知をしなきゃいけない訳でもないしな」
たしかに、そうだ。わたしが見つけやすいかもしれないってだけで。
でも――
「……いえ、やります」
わたしはクロウにそう告げた。この状況を早くなんとかしたいし。
「そうか……じゃあ頼む。くれぐれも気をつけろよ」
「はい」
返事をしつつ、わたしはクロウの顔をまじまじと眺めた。
「なんだ?」
訝しげに、クロウが眉を寄せる。
「いえ、なんでもありません」
慌てて、目を逸らす。
クロウって意外と優しい性格しているのでは……なんて考えてしまった。
本人に言ったりしたら怒られそう。
……さて、早く封印の起点を見つけないとね。
わたしは意識を集中して、魔力探知を開始する。
その瞬間――
「……っ!」
棺から噴出した大きな魔力の渦に襲われる――ようなイメージが脳裏に浮かぶ。
例えるなら、とんでもない強風にあおられる感じ……だろうか。
「く……っ!」
わたしは必死に堪えて、封印の起点……光属性の魔力がないか探る。
すると……
「あっ!」
わたしは思わず声を上げる。
「どうした?」
「なんか、微かにだけど光属性の魔力を感じたような……」
「本当か、どの辺りだ」
クロウが身を乗り出す。
「そ、それが……なんだか、少し離れた場所からみたいで、ぼんやりとしか……」
「大体の位置もわからないのか?」
「はい……すみません」
「……ふむ」
クロウは顎に手を当て、考え込むような仕草をする。
「少し離れた場所か……」
「兄さん、もしかしたら」
と、シャルティアさんが口を開く。
「ああ、おそらくそうだろうな」
微笑み合う美形の兄弟たち。わかってないのは、わたしだけらしい。
「よし、とにかく行ってみるか」
なんだかわからないまま、棺の間から移動することになった。




