第六話「起点を探して」
インバーテッド家の屋敷は広い。
起点の捜索は、手分けして行う流れになった。
わたしは屋敷に詳しくないので、クロウと一緒に行動させてもらう。シャルティアさんは、一足先に捜索へ向かった。とりあえず、クロウとわたしもサロンを出る。
「さて、ルビィ」
「はい」
「自慢じゃないが、この屋敷は広い」
「そうみたいですね」
だから、手分けして封印の起点を探そうという話になったのだし。
「正直、闇雲に探すのは効率が悪いとは思わないか?」
「まあ、それは……思います」
「というか、面倒だろう」
それは、さすがにぶっちゃけすぎなのでは……
「そこでだ、ルビィ」
「なんでしょうか」
「お前、なにかこう封印の起点を感知できたりしないのか」
え? もしかして丸投げ?
「……感知と言われても、具体的にどうすればいいのかわからないですよ」
「なに? お前、年齢はいくつだ?」
「はい? ええと……」
ルベーリアって……たしか、十七歳だっけ。
「十七です」
「当然、魔法学校には通っているはずだな?」
「は、はい……」
この世界では貴族の子供は、基本的に魔法学校に通っている……みたいな設定だったと思う。だからクロウは「当然」とつけたのだろう。
「十七ってことは……魔力の探知ぐらい教わっているだろう?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。
魔力の探知? なにそれ?
そんなの知らな……待ってよ。『わたし』は知らなくても、『ルベーリア』は知ってるのかも。
前世の記憶を取り戻したわたしには、転生してルベーリアとして生きた十七年間の記憶もきっちりとある。
ただ、その記憶には蓋がされているような感覚があって、深く思い出そうとしないといけない。
えーと……探知、探知、魔力の探知……
『ルベーリア』の記憶を探ると、すぐに答えが浮かび上がってきた。
魔力の探知とは、読んで字のごとく。
意識を集中して、周囲にある魔力の反応を探知することだ。
魔法を使う者にとっては、わりと基礎的な技術で……ん?
「あの、魔力探知なら、クロウ様もできるはずですよね?」
「当然だろう。とはいえ……さっきから試しているが、それらしい反応は今のところない」
じゃあ、なんでわたしに振ったんだよ。
「ならどうして自分にって顔をしているな」
「う……」
わたしはクロウから顔を背ける。
考えていることが表情に出やすいって、昔からよく言われるんだよなあ……。あ、この昔っていうのは「わたし」としての昔だ。なんか、ややこしいな。
「聖女の封印が解けるお前なら、俺よりも聖女の魔力を感じやすいんじゃないかと思ってな」
「な、なるほど……」
「だから、やってみろ」
「……わかりました」
ちょっと自信ないけど、わたしはルベーリアなんだ。
魔力の探知ぐらいはできるはず。……たぶん。
わたしは深呼吸して、目を閉じた。
意識を集中させて、周囲にある魔力の反応を探る。
すぐ近くに、闇の魔力……これはクロウのかな。
他にも色々と、小さな魔力の反応を感じ取れたけど……
「ええと……なんだか魔力の反応がいっぱいあって、よくわからないんですけど……」
わたしは両目を開き、クロウにそう告げる。
「あー……この屋敷には魔法道具もあるからな。小さい反応は全部、無視しろ。それから封印の起点は、たぶん光属性のはずだ」
たしかに、聖女の魔力だもんね。
「この近くにはない……と思います」
「よし、なら移動だ」
クロウとわたしは、屋敷内を歩いて回る。
二階の部屋を一通り回ったけど、封印の起点は発見できなかった。
「ありませんね」
「そうだな……俺たちも一階に下りるか」
一階はシャルティアさんが捜索している。なにか見つけたりしてないかな。