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第四話「棺の間」

 クロウに連れられて、屋敷の中を歩いていく。

 わたしたちが今いるのは、屋敷の二階だ。しばらく廊下を進んで、階段から一階へ。またしばらく廊下を歩いてから、階段で地下に下りる。

 短い階段を下りきるとそこは、ひらけた空間だった。広さは……学校の教室ぐらい。

 暗くて、空気は冷たい。わたしの前を行くクロウが、指をパチンと打ち鳴らす。

 すると、部屋の壁に等間隔で設置されている松明に明かりが灯った。

 どういう仕組みだろう……ちょっと気になるけど、それより……


「ここは……」


 松明の明かりに照らされた部屋の全景を目にし、わたしは立ち止まる。クロウも足を止め、こちらを振り返った。


「棺の間だ」


 クロウは短く、そう口にする。

 名前の通り、部屋には十二の黒い棺桶が並んでいた。そのうち一つは蓋が開いている。蓋の表面をよく見ると、『クロウ・インバーテッド』と刻まれていた。


「もしかして……」


「ああ、この棺は俺たち吸血鬼が『永い眠り』につくための棺だ」


 やっぱり。吸血鬼といえば棺だよね。

 ……ここにある棺すべてに、吸血鬼が眠っているんだろうか。


「ここにある棺は、ほとんど空っぽだけどな」


 わたしの疑問を見透かしたかのように、クロウは言う。


「完全に消滅してしまった奴もいれば、ここじゃない場所で眠っている奴もいるし、行方がわからない奴もいる。まあ、色々だな」


 どこか影を感じさせる表情で、クロウは語る。


「それはさておき」


 クロウは、すぐ近くの棺に歩み寄った。

 お前も来い、と手招きする。

 躊躇いつつ、わたしもクロウの横に並んだ。

 棺の蓋には、『シャルティア・インバーテッド』と刻まれている。

 あれ……シャルティア? どこかで聞いたような名前だな。

 うーん……どこでだっけ……


「これには、俺の弟が眠ってる」


 わたしが思い出そうと考えていると、クロウがポツリと言った。


 弟……シャルティア……わかった!


 シャルティア・インバーテッド。クロウ・インバーテッドの弟。

 棺の中にいるらしい彼も、『サント・ブランシュ』に登場するキャラクターだ。

 役柄としては、クロウと同じく主人公たちと敵対する吸血鬼だけど……兄のクロウよりも早く物語から退場してしまう。

 なぜかというと……


「弟……シャルティアは、あの聖女の生まれ変わり……たしかプリムラとか言ったな。あいつに封印されてしまったんだ」


 そうそう、たしかそうだった。

 というかゲームの主人公、そういえばプリムラって名前だったね。

 わたしはデフォルト名でプレイしない派だから、すっかり忘れていた。

 クロウが棺の蓋を押し開ける。

 中に眠っているのは、金髪の青年だ。

 うん、たしかシャルティアは、こんな見た目だったと記憶している。

 クロウの弟だけあって彼も美形キャラで、兄ほどじゃないけど人気があった。

 ただ出番が少ないせいか、わたしの印象にはあんまり残っていなかったんだけど。

 ごめんなさい、シャルティアさん。と、わたしは心の中で謝っておく。なんとなく。


「というわけで、ルビィ」


「はい?」


「ちょっと試してみてくれ」


「なにをですか?」


 いや、本当に。説明不足にも程があるよ。


「あー……とりあえず、シャルに触れてみてくれないか」


「は、はぁ……」


 シャル、というのはシャルティアさんの愛称かな。

 わたしは、おずおず手をのばし、棺に横たわるシャルティアさんの肩に触れてみた。

 その途端、シャルティアさんの身体がビクンと大きく痙攣したような動きをする。


「え、なに、こわっ……!」


 ホラーのような光景に驚いたわたしは手を離し、棺から後退った。

 その拍子に、わたしの背後に立っていたクロウにぶつかってしまう。わたしはクロウを見上げ、頭を下げた。


「ご、ごめんなさい」


「……思った通りだ」


 わたしがぶつかったことなど気にもせず、クロウは不敵な笑みを浮かべていた。

 視線はシャルティアさんが眠る棺に向けられている。


「なにが思った通りなんですか?」


「見てみろ」


 クロウはシャルティアさんが眠る棺を指さした。


「え?」


 わたしは言われた通り、棺に視線を戻す。

 すると……棺の縁を、青白い手が掴んでいた。なになに、なんなの。またもやホラーな光景だよ。

 そのままゆっくりと、棺に横たわっていた青年が上体を起こす。


「う……ここは?」


 金髪の青年――シャルティアさんが口を開いた。


「私はたしか……聖女に封印されて……」


 柔らかくて甘い感じの声質だ。

 シャルティアさんは、呆然とした表情でこちらに視線を巡らせる。そしてクロウの姿を捉えた赤い双眸が、大きく見開かれた。


「に、兄さん?」


「よう、シャル」


 軽い調子で、クロウはシャルティアさんに手を上げてみせる。

 なんだかよくわからないけど……もしかして、わたしが封印を解いたの?

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