今日も朝からにぎやかに
明けて翌日のこと。僕は日の出とともに自然と目が覚めてしまった。というのも、どうにも身体の感触がおかしかったからだ。動きが制限されているような、柔らかい重みを感じる。
「なんだ……?」
ぼんやりとした頭と目で、周りの状況を確認する。すると右隣にはリアが、左隣にはモモが抱きつくようにスヤスヤと眠っていたのだ。なるほど、それなら納得だ。
「もうちょっと……寝るか……」
「うーん……マシャヤァ……」
「むがが……マサヤ……ですー……」
あー、二人共柔らかくてとても心地がいい。このまま二度寝を……。――待て。待ってくれ。僕は自分の体温が急激に下がって行くのを感じた。
「な、なんで二人がっ……!」
慌てた僕が思わず声を上げてしまい、二人は寝ぼけ眼で僕を見詰めてきた。
「あー、マサヤだぁー。うへへ……」
すっかりとろけた声を出しているリアと、
「マサヤなのですー……? まだ眠いのですー」
子供らしい発言をするモモ。僕は、二人をねるべく優しく身体から引き離そうとした。が、リアとモモはそれに反発するようにますます引っ付いてきた。
「やーだー」
「マサヤー」
一体どういう事なんだこれは!? 天国を味わいながらも、僕は混乱の極みにいた。昨日、ワンダさんの家で案内された客室は二つあったので、僕たちは僕の部屋と、リアとモモの部屋とにわけて眠ったはずなのに!
「二人共、寝ぼけてないで起きて!」
とうとう我慢の限界を超え、僕が大声を出すと二人は若干不機嫌そうにしながらも身体を起こした。
「何よ、マサヤ。まだ朝早いじゃない……ふわあぁ」
「マサヤー、まだ眠いのですー」
「何言ってんの、っていうか何で二人がここにいるの!」
問いただすと、リアが、ああーと何とも気の抜けた声で答える。
「昨日、夜中にお手洗いに行って……モモがいないことに気づいて、マサヤの部屋で見つけたからそのまま一緒に寝ちゃった」
「と、年頃の女の子が男が寝ている所に入り込んじゃいけません!」
「前にも一緒に寝たじゃないの、それに野宿の時はほとんど一緒に寝てるようなものだったし」
何をいまさら、と言うようにリアが溜息をついたが、僕はリア程単純に考えられなかった。
「まあ、モモはまだいいよ。まだ子供だし。でもリア、君は良い年した淑女なんだから、もっと貞淑にだね……」
「マサヤったら、ホントに融通効かないないんだから。いいじゃない、寂しかったんだもの……」
しょんぼりしだしたリアに慌てそうになった時、隣にいたモモがベッドの上に立ち上がる。
「マサヤ! リアだけ仲間はずれは可愛そうなのです!」
「モモ、これはそういう話じゃないんだよ」
「じゃあどーゆー話なのです?」
「えーっと……。困ったな」
「ごまかしてるのです!」
「違うんだよ、モモ。リアも何とか言ってよ!」
後ろを振り返ると、リアが顔を手で覆ってさめざめと泣いていた。
「マサヤがね、私にだけ意地悪するの……」
「嘘泣きやめてっ!?」
「マサヤっ! リアを泣かしちゃダメなのです!!」
「あーもーどうするんだよこれ!」
僕が頭を抱えていると、誰かがノックと同時にドアを開ける。
「勇者様、朝食の用意が……。流石勇者様は、二人同時に相手するとは剛毅ですな」
ドアを開けて入ってきたのはワンダさんだった。彼女は僕たちの状況を見て速攻で誤解をする。
「違うから!? 完全な誤解だから!?」
「ははは、誤魔化さなくとも良いのですよ。勇者様ともなれば、例え何人囲っていたとしても我々は驚きません」
「話を! もっと対話を!?」
それから朝食の席へと移り、僕は延々と誤解を解くのに時間を費やした。ほぼほぼ朝食が終わる頃にようやくワンダさんは納得してくれたが、それはそれでどうなんだというちょっと懐疑的な視線を浴びせて来る。いくら何でもお世話になってる他人の家でそのような事を致す勇気は僕にはない。
「して、勇者様。昨日退治して頂いたドラゴン様の素材についてなのですが……」
「素材? ああ、魔石の事?」
「魔石もそうですが、もしや勇者様はご存知ないのですか?」
驚いたようなワンダさんの反応に首を傾げていると、前面に座っていたリアが教えてくれた。
「あのねマサヤ、ドラゴンの身体は鱗から血の一滴にいたるまで全てが貴重な素材なの。錬金術の材料や、薬、果ては武器防具まで何でも作れちゃうんだから」
「そ、そうなんだ。戦いに夢中でそんな事すっかり思いつかなかったよ」
「モモも素材になるのです?」
怯えたように訊ねてきたモモ。
「怖い事言うね!? 大丈夫だよ、モモは僕たちの家族だし、人間は素材に何かならないよ。……ならないよね?」
「当たり前でしょ。モモ、安心していいのよ」
二人がかりで安心させると、ようやく信じてくれたのか、ほっとしたように朝食の残りを片付け始めるモモ。僕とリアはそんな姿を微笑ましく見ていた。
「さて、その素材についてなのですが。何分勇者様が退治されたので、所有権は勇者様方にあるのです。ですから、今里の者を使って回収はさせているのですが……」
「あ、魔石以外は全部いらないです」
「え!? そんなあっさり!? ドラゴンは貴重な素材になると今お知りになったばかりですよね!?」
驚愕するワンダさんだったが、僕とリアの意見は一致している。
「僕たちはまだまだ旅を続けなければいけません。ドラゴンの素材の中で一番換金率が高くてかさばらないのって、魔石ですよね?」
「それは、そうですが……」
「ですから、この里の復興と防備を固める資金として、また、対魔族連合に参加してくれる条件としてあのドラゴンは差し上げます」
「本当にいいのですか……」
まだ当惑しているワンダさんに、僕とリアは顔を見合わせ、うなずきあう。
「それが勇者の務めですから!」
「誠に、誠に感謝の言葉もございません。誓いましょう、昨夜あなたが持ってきたルイア王国の親書に従い、我らダークエルフは今、この時を持ってルイア王国に帰順すると」
「いいんですか!」
「はい。里の者も勇者様が使いとしてやってきた事なら反対はしますまい。何しろ昨日の戦いは皆が見ていたのですから」
そうして、ダークエルフの里はルイア王国へと併合され、その戦力も大幅に増強されることになった。これで僕たちの役目もようやく終わった。そう思った瞬間のことだった。不気味な声が邪魔をしてきたのは。
「そいつぁちょっと困りますなあ」
「誰だ!?」
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