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王妃は王よりも強し

「ほえ? じゃなくて。僕は使い物になるか分からないなら、最初はリアが前に出るしかないでしょ?」


「なるほど! 確かにマサヤはひょろひょろだものね!」


 イラッときたがとりあえず言わせておく。


「うん、だからリアが鍵になってくると思うんだ」


「そうでしょうそうでしょう、何しろ私は選ばれしヴァールスの勇者なのだから!」


 腰に手を当てて胸を張るリアの胸部に思わず目線が行きかけたが、玉座の方から殺気を感じ取り慌てて視線を逸らす。


「まあ異世界の勇者と言っても、幼い頃から特訓をしてきた私にマサヤが敵うはずないものね!」


「特訓? 王女様なのに?」


 普通は社交界用の訓練をするのではないかと思ったら、王様が僕の顔を見て察したのか事情を説明してくれた。


「リアは生まれる前から聖教会による神託で、勇者となることが運命づけられていたのだ。その為、女らしいことは何一つしてやれず、こんな風に育ってしまって……おお、可哀想なリア!」


 王様はくくっなんてうめきながら顔を手で覆ってるが、隣にいる王妃様は涼しい顔だった。


「アナタ。リアの頭の具合は生来のものですよ。実の母親の私が言うのですから間違いありません。後、アナタがダダ甘やかして育てたの原因の一つということをお忘れなく」


「……マルガリタ、もうちょっとこう、オブラートに包んだ物言いってものがあるんじゃなかろうか」


「え? 本音で話しても良いのですか?」


「いや、やめてくれ!? 私の心に重大な傷が残ってしまいそうだ!?」


 王族とは大変なものなのだなあ、と僕はのんきな感想を抱いた。

 

「じゃあ、リアはかなり強いんですか?」


「そうよ! 何しろ私はこの国一番の騎士団長にも負けなしなんだから!」


「創造神様のご加護のおかげであろう、リアの膂力は子供の頃には既に並の大人を超えていた。どんな攻撃を仕掛けようとも、その体に傷一つつけられず、その力であらゆる防御を粉砕するのだ」


 我が子を自慢出来て大層満足げな王様に、僕はしばし考えてから口にした。


「それって防御する技能が無くてただ力任せに相手を叩き伏せてるだけなんじゃあ……」


「しっ! マサヤ殿、それは言ってはなりません!」


 デクスタさんに小声で叱責され、僕は口をつぐんだ。やっぱり脳筋なんじゃないか、この勇者。

 

「マサヤ殿!」


「は、はいっ!」


 王様らしい威厳に満ちた声で名を呼ばれ、僕は思わず居住まいを正す。


「リアは見ての通りの子だ。色々学ばねばならんことも……かなり、あるだろう」


 親の贔屓目で見ても残念なところは否定できないようだった。

 

「だからこそ! 常識人としてのマサヤ殿のバックアップを期待する! 二人で力を合わせ、魔族を討滅せしめ魔王を打ち倒すのだ!」


「おまかせを、陛下! このリア・テレシー、使命を果たすまで都には戻らぬ心構えです!」


「えっ!? いかんいかん、それはいかんぞ! たまには顔を見せに――いや、状況報告に来てもらわねばな!」


 いきなり親バカが炸裂している。本当にここの王族は大丈夫なのだろうか。宰相のアルマドさんもうんざりと言った顔で首を振っている。


「それでは王への謁見はこれにて終了ということでよろしいですな陛下!」


「何を言っておるのだアルマド宰相、まだリアが帰ってくる頻度という重要事項を決めておらん――ぐふっ!?」


 世迷い言を抜かす王様に我慢の限界を超えたのか、王妃様が王様の首を一閃して無理矢理黙らせた。そして何事も無かったかのように後を引き継ぐ。


「陛下は少々お疲れのご様子。それではふたりとも、危険な旅になるでしょうが私と約束してください。必ず、生きて帰ってくると」


 ここは早い所事態を収拾した方が良いと判断し、王様が目覚める前にと素早く約束を取り付ける。


「王妃殿下、必ずや役目を果たし、そのお約束をお守り致します!」


「無論、私も約束するわお母様!」


「ここでは王妃と……はぁ、まあいいでしょう。旅の資金をこれへ」


 ジャラ、と重そうな音を立てた袋が二つ用意され、何故か両方とも僕の前へと置かれる。


「あの……?」


 意図が解らずに王妃殿下を見上げると、彼女は頭痛をこらえるように眉間に皺を寄せて答える。


「リアにお金を持たせる無謀さをアナタなら理解出来るのではなくて?」


「なるほど、了解致しました!」


「えっ!? ちょっと、お母様、マサヤ、どういうことよ!?」


「君の今後のお金の管理は全て僕が担うということだよ」


「なんでよ! 普通こういう場合それぞれが持つべきでしょう!?」


「王都を出る時にすっぴんで旅の始まりなんて僕はごめんだぞ」


「くぅーっ!! 私をバカにしすぎよ!! お母様、何とか言ってやってください!」


「マサヤ殿、リアの事をよろしくお願いしますね」


「はい」


「何でお母様までマサヤの味方なのよ!? おかしくない、アルマド!!」


「自分の弱点を知るのも大切な事ですぞ、王女殿下」


「味方がいないわっ!」


 とにかくまだぎゃーぎゃーと騒ぐリアを半ば引きずるように引っ張っていき、僕たちは謁見の間を後にした。そこへデクスタさんが近寄ってくる。


「マサヤ殿、王女様はほとんど王都の外へと出たことがありません。いわば世間知らずなのです。どうか、よろしくお頼み申します」


「あのー、僕が異世界人だって解ってもらってます? 世間どころか世界知らずですよ、僕」


「それでも王女様よりはマシなのです!」


「デクスタ! あんた覚えてなさいよ!!」


 リアの恨み言を華麗にスルーして、デクスタさんは旅の助言をくれた。


「お二人はまだまだレベルが低い状態にあります。ひとまずは冒険者ギルドへと行き、そこで旅のノウハウやサバイバル術等を学ばれると良いでしょう」


「いやいや、いくら勇者だからって王女様が荒くれ者達が集まっていそうな冒険者ギルドとかマズイでしょ。それとも、僕の想像と違って極めて平和的な場所なんですか?」


「いえ、マサヤ殿のイメージ通りですね。ただ、心配はいらないかと……」


 歯切れの悪いデクスタさんだったが、それ以上にいい指針があるわけでもなし、僕達は結局の所冒険者ギルドへと足を運ぶのだった。


次回は6月11日AM6:00更新です。

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