ティエル女王はちょっと怖い
「僕は外の世界を見てみたいと思う。僕は今までずっと屋敷に閉じ込められて育ってきた。……エルフの貴重な男子だから仕方ないって、言い聞かされて」
トラムスは、言葉を区切るとまだ撫で続けていたモモの手をやんわりとどける。
「でも、それも価値がないって言うのなら……僕は、僕が何のために生まれてきたのかを探しに行きたい」
僕はその言葉に目を見張った。とても十二歳とは思えないような考えに感心する。黙って聞いていたティエル女王も、目を閉じ、立ち上がる。
「……解りました。それではトラムス、あなたが国を出ることを許しましょう。ただし、それは勇者殿達と共にあることが条件です」
「「えっ」」
僕とリアの声が被った。
「そして、そのためには今すぐというわけにはいきません。勇者殿達には、賊を捕まえてもらう約束がありますので。それと折れた聖剣も何とかしてもらいませんとね」
にっこり微笑むティエル女王の圧力に、僕とリアはたらりと冷や汗を流してこくこくとうなずく。
「それで先程言いかけておりました、勇者マサヤ殿の魔法というのは?」
僕は思わずリアを振り返ると、彼女も丁度僕に目を合わせてきた。言うべきか、言わざるべきか――。
しかし、エルフの民族性、そして何よりティエル女王の人柄を信じて、僕は話してみる事にした。その決意が伝わったのだろう、リアはこくりと頷いて僕に任せてくれる。
「解りました、お話しします。但し、この事は他言無用でお願いします」
真剣な表情でお願いすると、ティエル女王は承知したと言うように頷く。
「トラムスも、ここにいるからには仕方ない。絶対に誰にも言わないで欲しい」
「……解ったよ」
二人の了解を得た所で、僕は自分のチート魔法について明かした。反応は二人共同じようなもので、驚きの余り言葉を失っていた。
しばらく無言だった二人だが、先に言葉を紡いだのはティエル女王だった。
「……なるほど、これはおいそれとは話せない能力ですね」
「嘘クセー、本当にそんな力あるのか?」
納得したティエル女王とは逆に、トラムスは俺の力を疑っているようだった。
「トラムス、何なら僕の力で君を女の子にしてやろうか?」
そういうとサッと顔色を変えたトラムスはブルブルブルと震えるように首を横に振り、慌てて言い繕う。
「ほ、本気じゃないよな?」
「ふふふ……」
僕は敢えて不気味に笑って見せて、トラムスをビビらせる。特に意味はない。
『天罰覿面!!』
ビシャン!!と神樹を突き抜けた落雷が僕を襲う。突然の出来事にティエル女王もトラムスも、腰を抜かしたようにへたりこんだ。
「な、何事!?」
牢番をしていた衛士が二人飛び込んできて、現場を見て怪訝な顔をする。それはそうだろう、ティエル女王達は僕を見て腰を抜かしているのに、肝心の僕自身は丸焦げになっているのだから。
「これは――一体何があったのですか、女王陛下?」
「いえ、私にもさっぱり……突然勇者殿が落雷に打たれたのです」
「落雷って、ここ地下牢ですよ……?」
疑いたくはないが、にわかには信じられないと言った顔の衛士達。それも致し方ないことだろう。
「あ、もう危険はないので大丈夫ですよ」
倒れたままの俺が衛士達とティエル女王に話しかけると、彼女達は若干引いていた。
「とにかく、何があったのかは解りませんが、勇者殿が大丈夫というのなら、大丈夫なのでしょう」
そう言ってティエル女王は衛士達を下がらせようとするが、衛士達は引き下がらなかった。
「だ、大体この者たちは聖剣を折った大罪人ですよ!? そもそも私達はここに女王陛下が入るのだって反対して――」
「そのことについては、既に話がついていたと思ったのですが?」
その瞬間、絶対零度の雰囲気をまとったティエル女王。
「も、申し訳ありません!!」
「ご容赦ください!!」
二人の衛士は、ティエル女王の威圧に震え上がり、地面に額をこすりつけるようにして謝罪している。
「解っていただければいいんですよー。ほらほら、あなた方はもう行って、まだ私はお話がありますからね」
威圧を解き、ティエル女王は衛士達を追い払った。女王の威光は絶対なのだということを、僕はこの時初めて知った。
衛士達が下がった後、何事も無かったようにティエル女王は僕に問いかける。
「それでは、その落雷の事も説明して頂けますか?」
仕方なく、僕は女王に神罰の事について説明する。
「そうですか、やはり“あなたも”創造神様の加護を授かっていたのですね……」
「“あなたも”……? それはつまり」
「そうです。加護を授かるのは勇者様だけではない、ということですよ」
そう言って、ニッコリ笑った。
次回は10時更新です




