いざ、ヴァールスヘ!
「はっ!?」
「あっ! やっと気がついたわね!?」
目が覚めると、リアが僕の顔を覗き込んできていた。って、近い近い!! 思わずアイアンクローをかましてどけてしまう。
「わぷっ!? ちょっと、心配してあげたのにひどくないかしら!」
「あ、ごめんつい」
「つい!? ついで美少女の顔鷲掴みするのかしら異世界人は!?」
「いやあ、僕ぐらいじゃないかな」
「ますます悪いわっ!?」
理不尽な暴力に晒されたリアがうーうー唸っていた。
「それで、今度はどこへ行ってたの?」
「神様に会ってきた」
リアははぁ、とため息をついて頭痛を抑えるように頭に手を当てた。
「あのね、本当は創造神様に会うには普通とんでもなく大規模な儀式が必要になってくるのに、あなたはちょっと隣の部屋に出かけるような感覚で行って帰ってくるんだから……規格外って奴なのかしら」
「まあまあ、そういうな。僕の能力についても詳しく教えてもらえたし、あんた達の世界の状況も理解した。その上で……僕は、あんた達の世界を救うことに協力する」
「え?」
唸っていたリアはポカンとした顔をして、次いでみるみるうちに顔をぐしゃぐしゃにしながらしゃくりあげ始めた。
「ホ……ホントに……? 一緒に来て……くれるの?」
「ああ。どうやら他人事じゃなくなってしまったからな。このままだと僕の世界も危ないし、何より……やっぱ、放っておけないっていうか」
自分でもらしくない、と思うけど。泣きじゃくるリアを見て放ってはおけないと思ったのもまた事実だ。僕は決して良心を持たない冷たい人間というわけではない。
「言ってみれば捨て犬を見捨てるのがしのびないイメージというか……」
「聞こてるわよッ!? 仮にも王女に対してまさかの野良犬!? あなた、ここが王宮だったら手打ちよ、手打ち!」
「うどんかな?」
「意味わかんない言葉で誤魔化さないで!」
異世界コミュニケーションは難しい。
「っと、そう言えばあなた名前はなんて言うのかしら?」
「ごめん、自己紹介まだだったね。僕は加賀理 雅也だよ。リア・テレシーさん」
「特別にリアって呼ぶことを許すわ! 何しろその、これから……ぱ、パートナーになるわけでしょ! ……なってくれるんだよ、ね?」
「うぐっ!?」
リア、そのポーズは卑怯だ。小刻みに身体を震わせて上目遣いに、期待するようにこちらを見詰めるなんて高等テク、落ちないわけが……。
「やっぱやめようかな……」
「な ん で よ !!」
あれ? おかしいな? 僕は考えてる事とは正反対の言葉が口から飛び出していた。
「ま、まあまあ落ち着いて。ところで、僕のチートについてだけど、説明するとこうらしい」
僕は女神様から聞かされた条件をそのまま伝えると、リアも納得できないかのように二人揃って首を傾げる。
「どうしてかしら? どう考えてもあなたの願い、あなたの本心、よね?」
「うーん、女神様はバグった……機能不全を起こしてるのかもしれないって言ってたけど、本当にそうかはわからないみたい」
「え!? 創造神様にも解らないことがあるの!?」
「え? あー、うーん」
どうしよう? 本当のことを話したら彼女の中の信仰心が揺らいでしまうかもしれない。僕は彼女のイメージを崩さないためにも、心の中にしまっておくことにした。
「ご自分でも仰っていたけど、創造神と言えども万能ではないってことらしい」
「そう、なのね……次々と新しい事実が知れてショックだわ」
リアは、疲れたようにぼすっと俺のベッドに腰掛けて親指をくるくると弄び遊び始めた。
「お行儀が悪いですよ、お嬢様」
「あっ! こ、これはクセみたいなもので……城のみんなには内緒にね?」
「それはいいけど、とりあえず僕の能力を使えば戻れるみたいだけど、早速出発する?」
とりあえず体育で使っていたシューズをはいて、準備を終えた僕はリアへとたずねた。
「ええ、もちろんよ! 城のみんなが私達の帰りを心配して待っているはずだわ!」
「あ、ごめんちょっと待って!」
これから、と言う所で水を差された格好のリアは、むくれながら聞いてきた。
「何よ、マサヤ」
「家族に書き置きを残しておきたいんだよ」
「家族……。そっか、あなたにも家族がいるのよね。当たり前……よね」
多少なりとも罪悪感を感じているのであろうリアには気付かないフリをして、僕はそう言えばと念のためにソーラー充電式のモバイルバッテリーも持っていくことにした。書き置きもしっかりと机の上に見えやすく置いている。
「じゃあ、リア。心から願って」
「うん……」
そう促したら、リアは祈りを捧げるようにベッドから降りて膝立ちで両手を組み合わせて、小声で呟いた。
「どうか、お願い……私達を、ヴァールスへと戻して……!」
「ん? これはっ! ねえ、リア! 光ってる、光ってるよ!」
いつものように俺の身体から極光が溢れ出すと、リアは急いで俺の腕を手に取った。
「えっ?」
「ま、万が一にもはぐれないようによ!」
「そ、そう」
僕は、そんなに女慣れしているわけではなかった。というか苦手ですらあったのだから、女子に身体を掴まれただけで心臓が跳ねてしまうのも仕方ない事だと思って欲しい。
「帰るのよ、私の国へ……!」
「いざ、ヴァールスへと!」
そして、僕達の身体は地球から消え去った。
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「ただいまー、お兄ちゃーん!!」
僅かな燐光を残し、その残滓も消えた部屋へと一人の少女が入ってくる。ロングの髪を揺らして、リズミカルにノックをすると同時に、扉を開け放つ。どことなくマサヤの面影も感じさせる美少女と形容するに相応しい、丸くぱっちりとした目に、小顔で小さな鼻に花びらのような唇。通りすがりざまに十人が十人とも振り返るような美少女。彼女の名は、加賀里 咲。いつものように朝の準備が整い、真っ先に愛する兄へと会いに来たのだが……。
「あれ? お兄ちゃん?」
咲は、部屋の中に兄の姿が無いことに困惑する。先程まで誰かと言い争うような声が聞こえていたはずなのに。てっきり電話でもしているのかと思っていたが……。そこで、咲は机の上に置かれているモノに気がついた。
「何これ?」
それはマサヤが残した書き置きだった。最初こそこっそりマサヤの物を読むことにちょっとした悪戯心があった咲だったが、内容を読み進めるに連れ、その顔は見る見るうちに青ざめていく。
「嘘……でしょ? お兄ちゃん、本当は隠れてるんだよね?」
その内容は兄を愛する咲にとっては、到底受け入れられるものではなかった。この後、咲は家の中は疎か町内を走り回って兄の姿を追い求める――。
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次回は明日6時更新です。




