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流石のドラゴンの子

 出発の日。いつもの朝食が出てきて、僕はちょっと安心感を覚えてしまった。もうこの王都が第二の故郷とも感じてしまう。

 

「本当に今日出発されてしまうんですね……」


 マールさんが配膳してくれながら、悲しそうに呟いた。あれだけ心配してくれたいい人なのだから、余り悲しい別れにはしたくないのだが、行かないという選択肢がない以上気休めを言うぐらいしか出来ない。

 

「僕、この宿好きですよ。だからまた王都に立ち寄ったら必ずここに顔を出します。なのでそんなに悲しまなくてもまた会えますよ」


「マサヤさん……」


 心なしか彼女の目が潤んでるような……あれ、ここって元気に送り出してくれる場面じゃないの?

 

「私、待ってますね! ずっと来てくれるの待ってます!」


「あ、はい」


 凄い気合のこもった言葉だったが、僕に返せる言葉は一言だけであった。そしてリアがまた何かぶつぶつ言ってる。


「また現地妻……」


「ごはんおいしーのですー!」


 モモは可愛いなあ。

 

 

 眠れるにゃんこ亭を後にした僕達は、一度モモのギルドカードを発行するために冒険者ギルドへとやってきた。

 

「マサヤさん!? それにリア様も!! 帰ってらしたんですね!」


「お久しぶり? です、アルノさん」


「帰ってきたわよ、みんな!」


 和気あいあいとしていた酒場の空気が凍っている。そんな中笑顔で空気読まないリアはかなり肝が据わっている。


「もうちょっとで国王様からギルドに緊急以来でお二人の捜索が出される所だったんですよ」


 苦笑しながら、持っている依頼用紙をペラペラと振ってみせるアルノさん。っていうかあの人何してんの……どれだけ娘が可愛いんだよ、強権発動してるんじゃないよ。

 

「今日来たのは、この子のギルド登録をしてほしいんです」


「は、はじめましてなのです!」


 ここに来るまでの道々で、初対面の人には挨拶をすることを教えたのだが、早速実践してくれたようだ。アルノさんもにっこり笑顔で応えてくれる。

 

「はい、はじめまして。私はアルノです」


「モモはモモと言うのです! よろしくなのです!」


「よろしくね、モモちゃん」


 美女と美少女のやり取りにギルド中がほんわかとした空気に包まれる。


「ギルドカード? を作りたいのです!」


「はい、それじゃあ……えっと、モモちゃんは字は書けるかな?」


 背の低いモモにわざわざ目線を合わせてくれるアルノさん。そのおかげでカウンターに胸部が圧迫されて……まあ、その、非常に眼福です。

 

「おっぱい魔神」


「!?」


 リアに酷いこと言われた!? 地味に傷ついていると、モモが元気いっぱいに答える。


「おとーさんに教わったので読めるし、書けるのです!」


「ププッ、どこかの誰かさんと違ってモモは優秀ねー」


 ここぞとばかりに引き合いに出してくるリア。

 

「仕方ないじゃないか、異世界から来たんだから! それにしてもモモ、字が書けるなんて凄いね」


「何を書くのです?」


「それじゃあ、名前と年齢、性別を書いてくれるかな」


「はいなのです!」


「それから次はね……」


 カウンターが若干モモに取っては高い位置にあるため、背伸びして書きにくそうにしながらも一生懸命項目を埋めていくモモ。

 

「出来たのです!」


「はい、ありがとう。じゃあこれで手続きを……えっ?」


 モモから紙を受け取ったアルノさんは、その内容を見て驚いているらしい。しまった、何か常識外れな事を書いてしまったのだろうか?

 

 

「あ、あの。モモはまだ子供なので変な事を書いているかもしれませんけど――」


 僕がフォローしようとしたが、アルノさんは困ったように首を振って紙を見せてくれた。

 

「いえ、記入項目自体に問題はないんです。問題は文字の方で……これ、上位古代語で書かれてるんです。私は書類仕事を受け持つ関係上読めはするんですが、こんなに綺麗に書けるなんてモモちゃんは何者なんですか?」


「いっ!?」


「あちゃ……」


 僕とリアが固まる。そうか、ドラゴンから文字を習ったんだから古代の言葉になっても不思議ではない。しかし現代語で項目が書かれているのに、モモはそれも読めるのか?

 

「あ、あの。実はちょっと特殊な環境だった子で、余り深く詮索されるのは困るんです……」


 困った僕は正直に言えないと答えた。すると流石にこういうイレギュラーには慣れているのか、アルノさんは解りました、と一言だけ返して無事に紙を受理してくれた。リアと二人でほっと溜息をつく。

 

「モモ何か間違えたのです?」


「いや、モモは凄いなって話だよ」


「モモすごいのです? おとーさんにも褒めてもらえるのです!」


 一瞬だけ、僕とリアは固まった。だが、すぐにモモに心配をかけまいと笑顔で頷いてあげる。

 

「うん、モモのお父さんはモモの事を自慢出来るよ、絶対」


「うれしーのです!」


 リアが若干泣きそうになっているが、なんとかこらえて笑顔を維持している。僕はこの時ばかりはリアを褒めてあげたくなった。

 

「はい、お待たせ。モモちゃんのギルドカードが出来たわよ」


「やったのです! うれしーのです、おにーさん! モモのギルドカードなのですー」


 自慢げに見せてくれるモモの頭を撫でながら、彼女のカードの詳細を確かめる。自己申告とはいえ一つの目安になるだろうから、ステータスを確認していく。

 

「えっ」


「どうしたの、マサヤ」


「スキルに“ドラゴンブレス”ってあるんだけど」


「得意なのです!」


 ぎょっとしてリアと二人でモモを凝視する。あれ? この子捨て子で人間のはずだよね? 人間でもドラゴンブレスって吐けるの?

 

「おとーさんに万が一の時に使いなさいっておそわったのです!」


「マジか……」


「ひょっとしたらモモが私達の中で一番強かったりして」


「やめて! それ自動的に僕が最弱になるから!」


 リアの一言に割と冗談ではない悲鳴を上げて、モモの末恐ろしさに戦々恐々としていた。


次は9時に投稿します

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