東奔西走あと始末
あの後メッチャ怒られました。そりゃあ家事用魔道具から兵士達の国防に関するものまで一切合切使えなくなるのを教えなかったのは僕達の落ち度だ。
「勇者殿は我が国を滅ぼす気か!!」
「申し訳ございません」
リアと共に土下座する二人。僕らの殊勝な態度に、ようやく怒りが収まったのか、皇帝陛下は大きく溜息をついて、自分を落ち着かせている。
「まあ、良い。いや良くはないが、この件はリイラのものと差し引いて不問とする。それで、具体的にはいつ頃復旧するのかね」
「えー、今回は割と少なめのマナの消費だったので、お昼過ぎには周辺のマナも落ち着くかと思います」
「なるほど。城下は大混乱しておる。すぐに伝令を!」
「はっ!」
皇帝の勅令に兵士が一人、物凄い勢いで部屋を出ていった。これからお触れが出されるのだろう、ひとまずはそれで落ち着いてくれるといいけど。あ、ちなみに影響が出たのは貴族街までらしい。平民街の方まではそれほどの影響が出ていないとかなんとか。だが、それゆえに貴族たちの不満が爆発し矢のような問い合わせが殺到しているのだとか。
「この始末、どうつけてくれるのかな?」
にっこり笑いながら青筋を立てている皇帝陛下に、僕達はどんよりとした面持ちで相対するしかなかった。
「ま、万が一貴族街で何か事件が起こったら私達が対処するわ!」
「えっ、ちょっと待て! リア、何を言い出すんだ!」
慌てて止めようとするも時既に遅し、しっかりその言葉を聞いた皇帝陛下は満足げに頷いた。
「よし、ならば貴族街の揉め事は勇者殿達に任せるとしよう。良いな?」
「よろしくない――」
「よ い な ?」
「了承致しました」
ダメだ、これ絶対断れない奴だ。隣のリアをはっ倒してやりたいが皇帝陛下の御前ではそれも出来ず、僕はストレスで胃がマッハだった。
「大丈夫よ、マサヤ! 揉め事なんてそうそう起きたりしないわ!」
「リアさん、それフラグって言うんですけど知ってますかねえ!?」
「フラグ? 良くわかんないけど、どーんと私に任せなさい!」
あっはっは、とリアの元気な笑い声が謁見の間に響き渡る。僕はこの時嫌な予感がひしひしとしていたが、もうどうにでもなれと投げやりな気持ちで諦めた。リアと付き合っていく上ではこういったトラブルは避けられそうにないと思い知っているからだろう。
そして現在。僕達は貴族街を東奔西走していた。
「リア、西側の伯爵家に泥棒が入ったって!」
「全く、警備増やしたんじゃなかったの!?」
泥棒の追跡をしていたかと思えば――。
「リア、フェイル侯爵とやらが不穏な動き見せてるみたい!」
「まーた闇討ち!? どんだけ澱んでるのよ貴族社会!」
貴族同士のケンカの仲裁をしていたかと思えば――。
「リア! どこかの貴族が内緒で飼ってたモンスターが逃げ出したらしい! 生かして捕らえろだって!」
「バカじゃないの!? その貴族は後で通報ね!!」
ペット(モンスター)探しに奔走していたかと思えば――。
「リア、城門前に集まってる貴族達を散らして来いって!」
「いやいや、それ皇家の仕事でしょ!?」
暴動寸前の貴族たちを無理矢理解散させて――。
「リア、迷子を見つけたんだけど!」
「どうしてこんな時に外を出歩かせるのかしら!? ほーら、お嬢さんはどこの子なのかな?」
「ぶ、ぶれいもの! わたしはきぞくなんだから!」
少女は半泣きでかなり幼いもののプライドが高そうだった。貴族というのは本当だろう、上質な服を着ているのが一目でわかり、金色の髪についているシルバーの飾りなども値打ちものに違いない。だが貴族というのであればリアに敵うはずはない。
「私はテレシー国の第一王女、リア・テレシーよ。さ、あなたのお名前は?」
「えっ!? おとなりのくにの王女……さま?」
予想通りびっくりして目をまん丸にしている。
「そうよ、ライラとも仲良しなんだから!」
「ほんとうに!? ライラさましってるの?」
そして皇家の名前も相当なインパクトを持っているようだ。でも良くよく考えたらリアは自分から名乗ってるだけだし、意外とチョロいなこの子……いや、子供なんてそんなものかな?
「本当よ、だからお名前教えてもらえるかな」
「あのね、わたしブリジット・フェイルっていうの! おとうさまはこうしゃくなの!」
フェイル……? つい最近聞いた名前だなと思ったら、さっきケンカしてた貴族じゃないか……ぐったりした思いを乗せて、僕達はフェイル侯爵の家へ取って返し、家族に大変感謝された。ケンカのゴタゴタの隙を見て勝手に飛び出してしまったらしい。
「本当にこの度は娘が大変お世話になりまして……」
恐縮しきりのフェイル侯爵。さっきリアに(力づくで)ケンカを仲裁されたばかりなので増々小さくなっている。
「いいのよ、これくらい勇者としては当然のことだからね!」
「リア様はおひめさまなのに勇者様なの?」
「そうよ、ブリジット。あなたも立派な貴族になりなさい。そうしたら、困ったときに私達が駆けつけて助けてあげるわ!」
「ありがとう、リア様!」
「本当に、恐れ入ります……」
笑顔で手を振るブリジットに頭を下げっぱなしのフェイル侯爵に見送られながら、僕達はまた騒動の渦中に身を飛び込ませた。
まさに激動の半日だったと言えよう。
それら騒動が収まって、ようやく周辺のマナが回復したらしく、貴族街も平和を取り戻した。僕とリアは城の貴賓室でぐったりとだらしなくのびていた。
「全く、リアがあんなこと言い出すからとんでもない事になったじゃないか!」
「だ、だって――そうするのがいいと思ったんだもん!」
やば、ちょっと言い過ぎたか。リアが目尻に涙を貯めている。
「ご、ごめんごめん、言い過ぎたよ。でもああいう時は事前に僕に相談してからにして?」
「あい、ごべんなさい……」
すでにリアは泣いていた。全く、この泣き虫勇者は……仕方なく、僕は彼女の座っていたソファーに近づき、彼女の頭を抱きかかえてなでつける。
「相変わらず泣き虫だな、リアは」
「ぞんなごどないぼん……」
おもいっきり涙声で言われても説得力がないぞ、リア。
尚、後日談であるがその様子をこっそり見られていた僕らはライラとリイラに何故か責められ、リアにしたことをするように要求された。
何故だ。




