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泣く子には勝てません

「それで?」


「えーと……?」


 僕と謎の美少女――自称異世界の勇者、リア・テレシーは何故か正座で対面に座りながらにらみ合い……というより一方的にジト目を向けられていた。僕としては彼女が土足なのが非常に気になるのだが、そんな事はもちろん伝わるはずもなく、出てきた第一声が先の言葉である。


「ここは一体どこなのかしら?」


「はあ、僕の家の、僕の部屋です」


「へあっ!? と、ということはここは異世界なの!? そう言えば見たこともないものばかりだわ!?」


 今更そこに気付いたのか。という心の突っ込みも抑えていると、彼女はやおら立ち上がり窓にへばりついて外の景色を目を輝かせて覗いている。僕の家は都心の高台にあり、眺望はとても良かった。そのため、ビル群や電車、車が行き交う姿などの姿がよく分かる。


「す、凄い建物の数……それにあの道を走っている馬のない馬車は何なの? すごい速さだわ! 大蛇みたいな箱に人が飲み込まれていくし……あれは魔物なの!?」


「あれは全部この世界の移動手段だよ。魔物じゃない……っていうか、魔物っているんだ」


「当然でしょ? え? ちょっと待って、こっちの世界には魔物いないの?」


 目を白黒させているリアに、僕はうなずいた。

 

「少なくとも空想上の生き物とされているね」


「なんということなの……それじゃあこの世界は楽園なのね!?」


「……魔物はいないけど、人同士の争いはあるよ」


 その事実は、彼女にも身につまされるものがあったのか、ストンと肩を落として、小さく呟いた。

 

「そう……。そうよね。私の世界も、魔族がいなかったらどうなっていたことか……」


 魔族。魔族までいるのか、向こうの世界には。


 リアは気を取り直したように、或いはわざと話題を変えるように再び窓に張り付いた。


「あの建物、王城より高い塔が立ってるわ!?」


「ああ、それはスカイツリーだね」


「こっちの世界は凄いわね! あれは神の御業なの!?」


「いえ、普通に人間が作ったものだけど」


 その瞬間、シュバッと音がする程高速で顔をこっちにむけて


「凄いわね!」


 またシュバッと顔を窓の外へとやる。正直に言ってテンションが爆上がり状態の彼女の相手をするのはほとほと疲れる所業だった。

 

「って、ちっがーう!! 私は異世界観光しに来たんじゃないわっ!!」


 これも一人ノリツッコミというんだろうか? バンバンと僕のベッドを叩いて(ホコリが舞うから止めて欲しい)主張する。

 

「あなた、早くわたしと一緒にヴァールスに帰るのよ!」


「嫌だよ、戦いなんて僕には関係無いのに!」


 僕はただの高校生、それも若干運動不足気味なもやし寸前の身体をしている。お世辞にも切った張ったの世界で活躍できるとは思えない。


「何を言っているの! 創造神様が選ばれたあなたには義務があるの! こうしている間にも、魔王軍は無辜むこの民を傷つけて、苦しめて侵略してきているのよ!?」


「だ、だったら君は勇者なんだろ? 一人で立ち向かえばいいじゃないか!」


 多分、僕の言っている事は男としては最低なんだろう。しかし考えてみて欲しい。いきなり見も知らぬ世界の為に命をかけろと言われて、はいそうですかとはならないと思う。

 

 そんな僕にとうとう呆れてしまったのか、顔を真っ赤にして彼女は怒り出した。


「いいわよ! 意気地なし! 異世界の勇者がこんなへっぽこだなんて思わなかったわ! 私一人でも、世界を救ってみせる!」


 ふんっと顔をそむけて、彼女は腕組みをしながらイライラとした様子でチラチラとこちらを伺ってくる。しかし、僕にはその視線の意味が解らなかったので素直に聞く事にした。

 

「まだ何か?」


「何か? じゃないでしょう! あなたが連れてきたんでしょ!? さっさと私をヴァールスに戻して!」


「どうやって?」


「えっ……」


 二人の間を気まずい沈黙が流れた。すると彼女は更に美人が台無しになるほどの怒りを見せて怒鳴った。

 

「だってここはあなたの世界なんでしょう!? あの時、確かに莫大なマナがあなたに吸い込まれていたわ! 知らないなんてことないでしょう!?」


「でも、知らないものは知らないんだ!」


 僕の言葉が嘘ではないと彼女の頭に染み渡っていくように、みるみる顔を青ざめさせてへたりと座り込んだ。

 

「じゃ、じゃあヴァールスは……お父様やお母様、城のみんな……臣民達はみなどうなるの……? ヴァールスで魔王に対抗できるのは勇者だけなのに……」


 その呆然としたような呟きに、さすがの僕も少し冷静になって考えてみた。確かに、あの時僕は“自分の世界に”“帰りたい”と願ったら、それが叶ったのだ。……結果的に彼女も巻き込んでしまったようだけど。

 

「うっ……ぐすっ……うわああああん!!」


 突然大声で泣き始めた彼女に僕は大慌てだった。さっきまでの凛とした姿や怒りの姿などふっとんでしまうくらいみっともなく鼻水までたらしてなきじゃくっている。


「わっ、ちょっと待って! 泣かないで!」


「もう帰れないんだあああああああ!! ヴァールスは終わりなのよおおおおおお!!」


 非常にマズイ、このままではご近所様に通報されてしまう!

 

「解った、解ったから! 何とか一緒に帰る方法探そう!」


「うわああああああん……。…………ホント?」


 ぶんぶんぶん、と高速で頷く僕に、彼女……リアはぐしぐしと顔や鼻をこすって拭い始める。

 

「ほら、これで拭きなよ」


 僕がボックスティッシュを差し出すと、彼女はそれをおっかなびっくりちょんちょんと指先で触ったかと思うと、恐る恐る一枚引き抜いた。引き抜いたはずなのにまた新しいティッシュが顔を覗かせているのを見て、彼女はぱあっと顔を輝かせる。

 

「ナニコレ! 凄い! マジックアイテムなのかしら!? 無限に柔らかい紙が出て来るわ!」


 すると彼女はまるで猫のようにシュバババとティッシュを引き抜きまくって部屋中にばら撒いてくれやがった。


「あははははは! たーのしー!! ……あら?」


 当たり前の話だが、僕の部屋のティッシュはマジックアイテム等ではなくむしろリサイクル資源である。紙がなくなり穴を開けているだけの箱を覗き込んで、彼女は僕にぐるっと向き直る。


「ねえ! このマジックアイテム壊れたんだけど!」


「マジックアイテムじゃない!? もう、こんなに散らかして……」


 僕はぶつぶついいながらこれはタダの紙であること、後それでその顔を拭うべきことをこんこんと説明すると、リアは恥ずかしそうにしながら何枚かのティッシュで顔を拭った。僕はその間にすっかり床を覆ってしまったティッシュをまとめてゴミ箱に放り捨てる。そして、あらためて彼女とまた対面に座って正座しながら今後のことを考えてみることにした。

 

「それで、ヴァールスに戻る方法なんだけど……」


「うんうん!」


 ぐぐっと前のめりになって頷いているリアの期待の眼差しが辛い。


「えーっと」


 僕は間をもたせる為に必死に頭を捻った。何か、方法があるはず――。何故か根拠もなくそう思える。僕は、自分自身がどこかしら変質してしまっているような気がしていた。


「……」


 固唾かたずを飲んで見守るリアを横目に、僕はうんうん唸って、もしかして、の可能性を口にする。

 

「あの、自称女神様? にもう一度会えないかな。そしたら、解決方法も知ってるかもしれないし」


 リアは一瞬ぽかんとした顔をした。これはもしかしてやってしまったかと後悔し始めた時、バンっと床を叩いたリアにビクッと身体を震わせる僕。

 

「どうして気付かなかったのかしら! そうよ、創造神様に聞いてみればいいんだわ!」


「えっ、やっぱり神様って本当にいるの……?」


「あったりまえじゃない! 創造神様は私達の世界ヴァールスを作り上げたとーっても偉大なお方なのよ!」


 まるで自分のことのように得意げに語るリアに、僕ははあと気の抜けた返事を返すしか出来なかった。

 

「何よ、やる気がないの!?」


「あ、あるよ!」


 リアの目がうるっとし始めたので僕は泣かれる前にさっさと実行してみることにした。とはいえ神様を呼び出す作法なんて知らない。なので適当に手を合わせて目をつぶり、願いを口にした。


「神様、どうかお願いします、ヴァールスに帰る方法を教えてください!」


「……あんた、アホなの? 神降ろしの儀式もナシに呼び出せるわけ……」


 泣き虫勇者にバカにされ、自分でもやっぱりダメかなあと思ったその時、僕の身体からまた転移した時のように光が体から溢れ、天井を貫き天高くまで伸びていった。

 

「この莫大なマナは、あの時と一緒……!」


 リアの声が掠れていき、僕はふわふわとした不思議な感触に包まれてまた何処かへと飛ばされてしまった。

次回は6月9日AM6:00更新です。

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