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第5話

 ハルシウスがルミオを買った日の夜。とある森に一人の男がやって来た。男は小屋を見つけると、周りに人がいないことを確認してノックをするとすぐに入った。

「おい。戻って来たぞ、ばあさん」

小屋では老婆が座って待っていた。小屋の中身はシンプルだ。机と檻があり、机の上には大量の書物と薬品が置かれている。そして檻の中では三匹の犬の魔獣が肉を喰らっていた。三匹が我先にと飛びつき、檻の近くは血が飛び散ってベタベタになっている。男は鼻を摘まんで檻に近寄らないように迂回して老婆のいる机に来た。

「そろそろ来ると思っておったぞ。して、今回は余りものは無しかい?」

男が誰も連れて来てないことを確認して尋ねる。

「ああ、ばあさんが金を貸してべっぴんさんが買って行ったあの坊主が最後の一人だったよ」

「おや、それは残念だったねえ。今回は遊べなくて」

「勘違いするなよ、俺は売れたら売れたで嬉しいぞ。仕事だからな。余った時だけ仕方なくここで動物達と鬼ごっこさせるけどな!」

ハルシウス達に見せた時と同じように口を大きく開けてはっはっはと笑ってみせる。無邪気な笑顔はより一層狂気さを強調していた。

「折角買った森なのに、勿体ないのう」

「そうだぞ。婆さんの方が使ってて、これなら金を貰って良いんじゃないか?」

老婆は笑顔のまま黙る。

「……おっと、いつものお礼をするのを忘れとったわ。この森を借りて研究させて貰ってるからのお」

そう言って思い出したようにぽんと手を叩き、茶を準備し始めた。

「おいおい。気が利くじゃねえか、ばあさん。今回の所は無しにしといてやるか!」

そう言って二人は目を合わせて笑った。

 男はずずと出された茶を飲む。

「おお、美味いな! これは」

「お主にこれが分かるとはのう。高級品じゃぞ。ローズリーとワンダ、それに――」

そこで男は思い出して、遮るように尋ねる。

「そういや婆さん、高級品で思い出したが、お宝集めなんて趣味があったんだな」

「――ムルミールじゃ。」

同時に、男はばたりと倒れる。必死に老婆の方に顔を上げた。

「ヨク利くでショ、これ。あと、お宝集メはワタシの趣味ね」

そう言って老婆が顔中に爪を立て、血を流しながら皮膚を剥ぐのをうっすらと眺めて行きながら、男は意識を失った。


 数時間後、男は目を覚ますと椅子に貼り付けにされていた。来ていたはずの衣服も全て無くなっている。目の前に立っていたのは老婆では無く、一人の女だった。

「おい! どういうことだ、説明しろ!!」

「説明も何も要らないよ。私が聞きたいのはおばあさんの研究内容について。最近何してたかとか分かる?」

「そんなの知るか! 早くこの縄を解け!!」

「知らないか。じゃあ『無限の書』は分かる?」

プリシラは一枚の絵を見せた。どうやら一冊の文庫本大の薄い書物のようで、色んな角度から描かれている。表紙には檻から顔だけ覗かせた、角の生えた悪魔のようなものが写っていた。しかし、男は絵に一切目を向けず、睨んでわめき続けている。プリシラは紙を持ったまま耳を塞ぎながら、小さい声で男の耳元に囁いた。

「教えてよ。おばあさんみたいになりたくないでしょ?」

「ああ? 何を言って……」

すると、一匹の犬が噛み切れなかったのだろうか、何かをペッと口から飛ばした。コロコロと音を立てて男の足元に転がり、ピタリと止まる。男が凝視する。白くて小さい石の様だ。よく見ると、今までにも吐き出していたようで、足元にいくつか散らばっていた。

 男がプリシラに向かって顔を上げると、プリシラは自分のくちをいーっと開けて見せ、指差した。

「これ」


 男は再び気絶してしまった。プリシラは男の頬をペチペチと叩く。

「おーい。ああ、もうダメかもこれ。まあいっか、今回は完全に失敗しちゃたな。……はい、お前ら餌だよ。最後の晩餐が不味くてごめんね。でも君たちもこのままにも出来ないから。また明日ね」

そう言ってプリシラは小屋を出て行った。

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