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プロローグ

 魔王城の最深部。灯りは落ち、城内はグラグラと揺れて壁一面に沿って並ぶ書物は散らばり、魔王の使っていたデスクが倒れる。

「うぐ……」

魔王はジリジリと後ろに下がるが、壁にぶつかり退路が断たれる。横目でチラリと後ろを見ると、豪勢な額縁に覆われた白黒の自画像がかかっており、それを見た魔王は苦々しく笑った。

 尚も勇者の突きつける大剣は魔王の首元にゆっくりと近づいている。

「もう諦めてくれ! 僕だって本当はこんなことしたくないんだ」

勇者が大剣にぐっと力を込めると、刃に刻まれた刻印が強く光り出した。

 照らし出された魔王の顔は厳しく、黒い魔力が目の周りから滲み出ている。

「何故やりたくないのにお主はこの様なことをした? どちらかと言えば不意打ちは魔王のすることじゃろ」

かっかっかと魔王は乾いた笑いを零すが、勇者は沈黙を貫く。

「そっちでは勇者と呼ばれとるそうじゃな。その名に恥を付けてまですることじゃったか?」

「……国のためだ。国が護れるなら、勇者なんて居なくても問題ないのさ。さて、もう時間が無い。降参しないのか?」

更に大剣を突きつけ、魔王の首筋からは血がツーと流れ落ちる。


 城が綻ぶ音がしんとした部屋中に響き渡る。

 魔王が唾を飲み、答えた。

「わしは生憎お主とは違って諦めが悪いのじゃ!!」

腕で大剣を振り払おうとするが、それを読んでいた勇者が先に大剣を首に突き刺した。

 しかし、大剣は壁に当たったように弾かれて、勇者は仰反る。魔王の首にはいつの間にか黒い煙が巻かれていた。

「くくく、まだ遊べるようじゃの」

人差し指を回して首と同じ禍々しい煙を出す。しかし、息が切れていくに連れて煙は途切れ途切れで弱々しくなっていく。

「……魔力切れの様だな。これで終わりにしよう」

勇者が大剣を真上に振り上げた。

「――モーメント、サンダァアア!!」

数秒後、大きな音に続いて雷が天井を突き破り、魔王の頭上に降りかかった。一瞬の出来事に反応すらできずに足掻く間もなく雷を浴びる。


 煙が晴れると、魔王は未だ悠然として立っていた。目立った傷は見られず、天井だった破片がパラパラと虚しく振っているだけだ。

「なんだ、この程度か?」

埃を払ってニヤニヤと笑いかける魔王に対して、勇者は哀しい顔で見つめながら答えた。

「二度と会わないことを祈っている。もっと良い時代になっていると良いな」

勇者の言葉に反応するかのように、魔王の周りにいくつもの光の粒が現れて体のあちこちに溶け込むように入って行く。それに伴って徐々に全身が光り出し、へたりとその場に尻餅をついた。魔王は、微かに震える自らの両手を見ながら叫んだ。

「なんじゃ、これは? 身体が動かぬぞ!」

勇者は何も喋らない。ただただ魔王を厳しい目で見下ろしていた。

「答えろ! 勇者よ! 何故このような……」


 魔王は全てを言い切る前に深い深い眠りについてしまった。

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