その日、異世界に出会う
創作へ少しでも触れようと新作投稿。例によって不定期更新でなろうの肥やしになると思います
我が居城のトイレが異世界に繋がったんだけど。
この短文をSNSにツイートした男は、眼前に広がる光景に絶句した。
絶句しながらもスマホを素早くタップする様はどこか滑稽だ。
「確かに我輩、消臭剤はすみきった森の香りにしていたが……トイレを開けたら異世界の森に繋がるとか意味わからん、なのである」
男の眼前に広がっていたのは、鬱蒼と生い茂る樹々。否、森であった。
少し薄暗いが、少し視線を動かせば陽向も見える。
見たところ普通の森であった。……都心のトイレから繋がっていなければ、だが。
「ふぅむ……我輩の魔法のせいで異世界へ繋がったのであるか?否、ここ二週間我輩は工作室でプラモってた身。魔法なぞ使う暇は無かったのである。となると……やはりこれは外的要因によるものであるな」
一度パタン、とトイレの扉を閉めてもう一度開いても、森は広がったままだった。
「誰だか知らんが我輩のトイレを消してしまうとはけしからんのだ。……仕方ない、一階のトイレを使うとするのだ」
男はため息混じりにトイレの扉を閉めると、足早に階段を降りて行った。元々用を足すためにトイレへ行っていたからだ。
………
「誰がやったか知らんがマジ許せんのである!!」
一階も同じく森へ繋がっていたようだ。
◇
「コンビニが徒歩二分で助かったのである。……さて、どうするものであるか」
コンビニで買ってきた大盛りガーリックペペロンチーノ(ウィンナー入り)を一口咀嚼しながら男は思考する。
都心新築二階建て駅近4LDKのこの物件、結構な額で一括購入してからまだ二年しか経っていないが、住み心地良く購入額以上の満足感を覚えていた。
が、やはりトイレが無いと言うのは問題だ。気軽に用を足せないのは地味なストレスになる。せめて一階か二階、どちらかのトイレは使用できるようにしたい。
「問題は、森トイレが我輩の知る魔法以外の魔法で作用している点なのだ」
こめかみを人差し指で軽くつつきながらため息を漏らす。
紙パックのトマトジュースを一口含んで飲み下し、またペペロンチーノをフォークに絡めて口に入れる。
「この、数千年を生きる我輩ですら知らない魔法とか弩マイナーなのか全く違う論理体系の魔法であるかの二択……異世界である辺り後者なのだ」
大盛りのペペロンチーノをたったの五口で食べ終わった男は次に、焼きうどんのビニールパッケージを引き裂いた。
「やはり……今流行りの異世界転移物をするしかないのである」
紅生姜を絡めつつ焼きうどんをすすり、咀嚼する。それを繰り返すこと三度で焼きうどんは完食された。
「いやー、困っちゃうのである。異世界転移で無双とかちょっと憧れていたのである。何せこの時代、ちょっと暴れようものならネットで世界中に知られてしまうのだ。その点異世界ならどんだけ暴れようと無問題。久しぶりに思う存分暴れてストレス発散とかしたいのである」
コンビニの白い袋からデザートのシュークリームを取り出した男は包装を破ると一口でそれを食べてしまった。
「むふふふ。やはりコンビニのシュークリームは安っぽくもその分大量に詰め込まれたクリームの暴力感が堪らないのである……!そうだ、異世界行くならやっぱりあの格好でないといかんのである」
口元についたクリームを嘗めとると、男は二階にある寝室のクローゼットへ向かった。
「うむ、虫食われはないのであるな」
取り出したるは黒のタキシードに襟の立った裏地が赤の黒のマント。
「吸血鬼たるもの、やはりこの格好でないと笑われてしまうのである」
男がハンガーに吊るされたタキシードとマントをハンガーから外すと、それらは黒い煙となり、次の瞬間、寝間着姿だった男の格好はタキシードとマントを羽織った姿へと変わっていた。
「あとはポマードポマード……ふふん」
一階の洗面台で髪をオールバックにした男は不適に笑う。
「レディパーフェクト……なんちゃって、なのだ」
バサッ、と黒マントを広げつつ鏡に決めポーズを決めた男は鼻歌混じりにトイレへと向かう。
「さあ異世界よ!我輩、ヴライド=テーペス=ドラキリアにひれ伏すのである!!ムハハハハッ!!」
バァン!!と勢い良くトイレの扉を開きながら高らかに宣言した男だったが、
「ハハハハ……は?」
「ふぇ?」
自分を見上げる幼女の姿に勢いは削がれて行った 。
「……何者である?」
「あたし、メリアナ!ごさい!」
「おー、自己紹介できて偉いのである」
これは、現代日本に生きる伝説の吸血鬼ヴライド=テーペス=ドラキリアによる、異世界侵略記!!
「親御さんはいらっしゃるのであるか?」
「うん!ママとパパとおねえちゃんとピクニックに来たの」
「それは楽しそうである。……その三人はどこにいるのであるか?」
「ママもパパもおねえちゃんも、まいごになっちゃったの!」
異世界侵略記!!