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交渉成立。強敵でした。

 お父様はどうやら、直轄領の一部を分割譲渡されたそうです。最初は戸惑っていましたが、領地に関する資料を見て納得したようです。どうやら、目を引く産物が殆ど無く、収益性で見るとあまり良い土地だとは言えないようで・・・。まさかと思いますが、読まれていたなどという事はありませんよね?あの様子からでは考えすぎかもしれませんが、一応注意しておくとしましょう。

「で、国王陛下とはどんなお話をしたのかな?」

 バレてました・・・。それもそうです、お父様だけ別室で私が謁見の間に残れば、何かがそこであったと考えるのが当然です。徹底的に誤魔化すか、本当の事を話すか・・・。ちょっと考え物ですね。

「はい、私には国内外に示せる実績が無いという事で、叙爵をお断りさせていただきました。そうしたら、ならば五年以内にその実績を作ってみせよ、という話になりまして・・・」

 嘘は言ってません、嘘は。ちょっと話の筋を入れ替えて、誰が言ったのかを隠しているだけです。話が飛躍する?そんなもの、因果関係をちょっと弄れば誤魔化せます。お父様が深くツッコんで来る可能性は低いでしょうけど。

「社交の場への顔出しはしておらず、お嬢様を知る者はそう多くありません。その状況で叙爵を受けたとなれば、上級貴族をはじめとして、国内の貴族からは穿った見方をされかねませんね」

 流石セバス、私と同じ思考のようです。王太子の愛人候補なんて噂、十歳の私には全くもって要らないものですよ!

「爵位など、正直に言えば要らないのですが・・・。国王陛下からのご命令とあらば、無下に扱う訳にもいかず。ならばいっそ、本気を出してみようと思った次第です」

「お待ちください。お嬢様には、何かしら誰もが認めるだけの成果を上げる、それだけのご用意があるのでしょうか?」

「一応だけれど。先日見た各領地の資料で気になる点が幾つかあって、それらを全部まるっと解決!ってしてしまえば、誰も文句は言えないはずなのよ」

 セバスの質問に、ちょっと慌ててしまいました。考えていた質問の一つではあったのですが、もう少し後で出てくるかな?と思っていたので。ぐぬぬ、優秀すぎですよ・・・。

「私は気付かなかったのですが・・・。具体的には、どういった内容でしょうか?お嬢様を疑う訳ではありませんが、領地経営に関しては私も無関係ではないので、聞いておく必要がございます」

 一番気になったのは、王国西部の領地です。妙に商業作物の作付面積が広く、食料品の供給が不足しがちになっていました。元々その地方は織物業が最も普及しているのですが、それにしても多すぎるのです。原因は想像が付くんですけどね?

「ノイールの織物、特に良質の綿は国内外を問わずにとても需要のある逸品です。茶葉や菜種類の生育に丁度良い気候なので、元々そういった類の農家は多く存在しています。ですが、ここ数年ではそういった市場向けの作物が増え、一般的な食料品が減らされているのです。依って食料品は他領から買い上げる他無く、財政が悪化しています。最初は微々たるものだったようですが、今年の報告と見比べれば、明らかに違ってきています」

 今回の報告と数年前の報告書を並べると、一目瞭然です。代官もですが、何故お父様方は気付かなかったのでしょうか?放置した後に残る問題としては、とても大きな物なのですが・・・。

「庭師のボリスからも聞きましたが、茶葉や綿花の類は、他の作物と違って土地を荒らす性質があるようです。根をとても深くまで張り、かなりの養分を必要とするのだとか。そういった物を育てた後でいざ他をとなれば、かなりの労力と時間を必要とするでしょう。手を打つのならば、早くに行わなければいけないのです」

 推測通りに事が進めば、大体三年で変化が見られ、五年でほぼ元通りになると思います。即効性のある方法だけで組んでいますが、中長期で見るならば他にも手は考えてあるのです。王女時代に培った知識は伊達じゃありません。

「いや、それでも・・・。セバスはどう思う?」

「現時点では問題は起きていません。しかし、お嬢様の仰る通りならば、後々に問題が起きる可能性は否めません。冷害や水害、大規模な飢饉が起きてしまえば、輸入による食料確保は破綻してしまいますから。専門家と共に領地を訪ね、現地視察を行うのがよろしいかと愚行致します」

 やはり、前のようにはいきませんか・・・。確かにこれはその場で終わる事ではなく、年単位で時間を必要とします。失敗すれば国王陛下から賜った土地や民を壊滅させてしまいますし、伯爵家の名誉は地に落ちてしまうでしょう。短絡的に動ける事ではありませんね。

「そうすると、ディアンサの案を即座に採用するのは厳しいと?」

「ええ。確かに領地の経営状況は僅かずつ、確実に悪化しています。ですが、現時点では飢饉や冷害の予想は出ておりません。綿花や茶葉は外貨獲得に良い作物ですし、まずは現地確認を───」

「ですから、それでは遅いと言っているのです!土を耕し種を撒き育て、収穫に至るまでにどれだけ時間がかかるか、セバスは知っていて?早い物でも一年、種類によっては年単位で時間が必要になるのよ。領地で飢饉が起きた時、人々が頼れるのは保存食しかない。でもそれが領地に無く、購入するには資金が必要。でも資金は綿花や茶葉、織物を作るしかない・・・。お腹が空いている時に辛い農作業は、民にとってこの上ない負担となるでしょう。そういった物を軽減させるのが、私達貴族の使命ではなくて?」

 頭が良い分、セバスは堅いのです。貴族生まれでは農業経験が無いのも仕方ないですが、心と目線だけは彼らに寄り添っていなければならないのです。

 話し終えると、二人共に固まってしまいました。あ、大声を出しすぎたかもしれません。え、そうじゃない?何はともあれ、急ぎ商業作物の減反と食料作物の作付、長期保存が可能な食料品を買い増しする事が決まりました。問題が民達の間で広まらない内に解決する、これも為政者の責務なのです。

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