国王と密談。計画通り・・・。
王女様に続き、王妃様にまで抱き締められてしまいました。ちょっと懐かしい匂いがして、嬉しく思います。あのー、そろそろ離してもらえますか?苦しいです。
「この事を知っているのは、国王陛下と御家族だけです。お父様にもお母様にも、未だ話しておりません。そして私からの要求は、ただ一つです」
爵位の授与を、あと五年だけ待ってほしい。私が望んだのは、ただそれだけです。何故そんな事を望むのか?さっさと叙爵を受けて、安定した暮らしを手に入れるべきでは、ですか。そのような事をすればどうなるか、少し考えれば分かる事です。
まず今の私は第三王女ではなく、単なる伯爵家の一人娘です。歳は十歳になったばかりで、社交界にも顔を出した事はありません。国内外に示せる実績も無く、そんな小娘がいきなり爵位を受けたらどうなるでしょう?
まず貴族家からは、非難が殺到する事間違いなしです。そんな小娘に爵位が付くのならうちにも、というのもあるでしょう。
滅多に戦争を行わないこの国では、論功行賞で叙爵という事も殆どありません。お父様のように国境線付近に領を持つ貴族が、何らかの事情で陞爵する程度でしょうか?
「もしそうなれば、王家の信用は失墜します。フィオール帝国の例を出すまでもなく、民の信頼を失った国がどうなるか、国王陛下であれば十分にご理解頂けると思います」
フィオール帝国は、理不尽すぎる増税と圧政を行った為に崩壊、周辺国家に吸収された国です。貴族は免税、一般市民に年六割もの税を課せば、暴動が起きるのは目に見えたでしょうに。国は王の為にあり、民も王の物などと言っていた王家ですし、そうなるのは時間の問題だったのですが。
「五年以内に、誰もが認める成果を出してみせましょう。陛下はその時に、成果に相応しい爵位を私へ与えられるよう、お膳立てをしておいてほしいのです」
実を言えば、その為の作戦も既に出来上がっています。前に領地に関しての資料を見た際に、幾つか良さそうな場所を見繕っていたのです。領地の収益を持ち直し、発展させる事。それ程分かりやすく、かといって簡単ではない功績などそう無いでしょうから。後は、陛下がこれに乗ってくれれば良いのですけれど。
「はははは、まさかそのような提案をされるとは!いや、間違いなく私の娘だ!」
大笑いされました。家族しかいないとはいえ、国王がそれ程まで大声で笑っていいのでしょうか?ほら、王妃様もキョトンとした顔ですよー。
「いや、覚えておらんのも無理はない。半分寝惚けている時に聞いた事だったからな。十歳の頃だったか、誕生日に欲しい物は無いか、聞いた事があるのだよ」
あー、思い出しました。ベッドの上での生活で、お父様が横に付き添ってくださっていた頃ですね。宰相が苦い顔をしていた気もしますけど。
「お前は笑って、直轄領の経営状況と民の生活の現状が知りたい、そう言いおったのだ。領地経営の事など、まだ勉強し始めたばかりの娘がだぞ?流石の私も呆れてな、体調の良い時のみという条件で外出を許したんだったか」
「そういった事もありましたね。当時はいくら体調が良くても、王城の外へは出られませんでしたから。外出をお許しくださった事、とても嬉しく思いました」
王妃様達の顔に、薄らと涙の跡が見えました。完全に計画通りです、ここまで上手く進んでいいんでしょうか?今なら国そのものさえ手中に出来そうです、やりませんけど。