久しぶりの社交界 終
連続更新二話目。次話は近々で・・・。
本当に遠慮無しでした・・・。収入や支出の記載方法から始まり、税額や率の決定法、果ては土地登記の調査手段まで根掘り葉掘りと問い詰められました。
それらの調査には、幾つかの隠し玉と呼べる手段を用いています。実際の所、国内における識字率は高いとは言えません。読み書き計算をしっかりと行える人材は、官僚の中でも一握りにすぎないのです。
用意したのは、数字を記入するだけの調査用紙です。木版に鏡写しで文字を刻み、羽根ペン用の墨を付けて紙へ押し付けます。そうすれば浮き彫りにした文字だけが紙へ写り、あっという間に量産が出来てしまうのです。国王家や貴族が使用する花押と同じ原理ですね。
それを使用人や雇った領民に持たせ、現地で聞き取り調査を行ったのです。読み書きには不自由しても、数字の記載だけならば大抵の人が出来るのです。それを纏めるのは私達の仕事でしたが、全員が同じ形式で調査をしているので、手分けすればある程度の時間がかかるだけで済みました。・・・セバスを無理にでも借りておくべきでしたね、あれは。何人かは書類怖い、追加憎いと呟きながら死んだ目をしていましたし。
「調査に関しては、以上の通りです。その地に住んでいた住民に任せる事で責任感を持たせ、今住んでいる場所にはどれだけの人が共に暮らしているのか、全員が把握出来るようにしたかったのです。資産に税をかけたのは、もし大地主のような人がいれば、そちらから徴税する方が、再分配もしやすかった為ですね」
実は結構いました、大地主。畑や山を所有していて、他の家族にそれらを貸し与え、そこでの収穫から自分らの税を納めるという。しかも報告していた収穫量はかなり低く見積もっていたので、質が悪いのです。調査結果では、報告にあった量の全体で倍近い収穫見込みがありました。遡っての徴収はしませんが、次は無いときっちり追い込みをかけてもらっています!
「なるほど。文字を読み書き出来ずとも、数字だけならば一般庶民でも十分に出来る。いやはや、子爵様は目の付け所が違う。よろしければこの手法を、他にも紹介してよろしいですかな?」
はい、どうぞご自由に。その程度で発展に貢献出来るのならば、私に否はありませんので。というか、未だに誰も思い付かなかった方が不思議です。
ようやく財務局の人からも解放され、パーティ会場に戻りました。それはいいんですが・・・。何故お父様とお母様がこちらに?さっきまではいませんでしたよね?
「ディアンサー、会いたかったわよー!」
顔を合わせるなり、お母様に抱きつかれました。なんでしょう、軽く既視感が・・・。あ、今が良い機会です、あの事を相談してみましょう。
「お久しぶりです、お父様。少々ご相談したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なるほど、庶民に読み書きを教えたい、それについて予算や人員確保の算段をつけたい、と」
前々から考えていたのですが、やはり一般市民にも読み書き計算が出来た方が、後々の為になるのでは?その為に領主である私が出来る事は何かと考えていたのです。
幾つかの案は出ましたが、実現しやすく安全なのは、王都の学校だろうと思います。貴族の嫡子が通う所で、読み書きではなく社交界での礼儀作法や派閥抗争の縮図を学ぶ、どうしようもない所です。設立当初は、その頃だけはもっとマトモな場所だったのですが。何処ぞの伯爵家が、校内に派閥関係を持ち込むからあんな事に・・・。
話は逸れましたが、私の構想としては各町村に施設を用意し、教師となる人員を数名配置したいのです。一人では休みが無くなる上に、教える際も効率が悪いので。領主邸で行うという案もありましたが、遠い所では馬車でも半日はかかるので、徒歩圏内ならば領主邸、他は新設するか元ある物を改修して使用します。予算案は通っているので、後は人員を集めるだけだったのです。
「ふむ。確かに領民らも読み書きが出来れば、法の制定や税に関しても説明はしやすいか。ところで、これを王国全体で共有する予定はあるか?」
「もちろん、そのつもりです。まずは領地で結果を出し、それをもって陛下へ稟議を上げる事となるでしょう。領民の間でも既に勉強したいという声も多くあり、完全な失敗で終わる可能性は低いですが」
考えておこうと言い残し、お父様は去っていきました。これで私の主な用事は終わりです、参加者の皆様に軽い挨拶をして、さっさと帰りましょう。という訳でお母様、早く離してください。




