久しぶりの社交界
「そうだった、これを渡さなければな」
国王が渡してきたのは、一枚の羊皮紙でした。紋章登録申請書、と書かれていますね。・・・あ、すっかり忘れてました。
「やはり忘れていたようだな。宰相が困り果てていてな、直接向かうならとおど───もとい、渡してこいと言ってきたのだ。いやはや、融通の効かん奴だ」
宰相・・・ああ、あの片眼鏡の方ですね。王女時代からでも面識があまりなく、細かくは覚えていませんが。
紋章登録とは、貴族家全てに義務化されているものです。馬車への掲示や礼服にこれを模した物を付ける事で、誰なのかが分かりやすくなる、という程度なのですが。
王都では特に、似たような型式の馬車が多い為、この紋章がある事で取り違えを防げるのだそうです。最も、最初はその目的で始められたはずですが・・・。
「紋章院からは、実家と似通う物は避けてほしい、という言伝を受けている。独創性に富んだ物を期待するぞ、ディアンサ・マーネイン子爵」
そう言い残して、国王は部屋を出ていきました。忘れた訳ではなく、あからさまに残していったもう一枚の封書を残して。
手紙の内容は至極単純で、夜会が隣のブルムント公爵領で行われるから参加せよ、というものでした。そういえば、以前の借りはまだ返していませんでしたね?これをチャンスと見るべきか、それともまた罠が仕掛けられている、と警戒すべきか・・・。両方でいきましょう。警戒しつつ、チャンスがあれば仕返しです。嵌められた分はきっちりお返ししなければ、女がすたりますからね!
同封されていた招待状を持って、出陣です。恋人や婚約者はいないので、護衛としてゼノアとコンラッドを連れてきました。ゼノアは執事の地位にあるのですが、護身術に長けているのです。女性陣からの弾除け?何のことでしょう、私には分からないです。
コンラッドは領地で雇った騎士階級で、元は傭兵でした。数十人規模の盗賊団を一人で壊滅させたという実力者ですが、怪我が原因で引退を考えていたんだとか。そこを一本釣りで釣り上げ、領軍の指揮官に据えたのです。軍と言っても、まだ総勢五十名という小規模な自警団擬きですが・・・。元は農民ばかりですが、優秀な指揮官のおかげで、そこらの盗賊や野盗ならばものともしないという位に育ちました。
まだ未成年の為、護衛を連れていく事に関しては異論が出ませんでした。ふふふ、これも作戦のうちなのですよ。公爵、獅子身中の虫という言葉はご存知ですか?知らないのであれば、今日理解するが良いのです。それとお父様、よくも娘を売り渡してくれましたね・・・?さあ、仕返しの時間です。
会場に入ってみれば、とても公爵家とは思えない程に質素な空間が広がっていました。貧乏性という訳ではなく、落ち着いた雰囲気の場所です。何故でしょう、初めてなのに妙に居心地の良さを感じるのは?
「小さなレディー、お気に召されましたか?」
「閣下、お久しぶりでございます。ええ、とても心地よい場所で、初めて来た場所とは思えないです」
公爵が言うには、この部屋にある調度品は全て、東方の島国で作られている物なんだそうです。長い交易路を経て売れ残った物が持ち込まれるそうですが、その大半を購入するのが公爵家かその縁戚なんだとか。・・・それにしては、綺麗に纏まっていますよね?あ、縁戚達も同じ種類で纏めたいから、互いに連絡し合って交換している?ですよねー。
因みに、売れ残りを買取るのはまた来させる為で、場合によっては金品以外に情報交換でも取引が成立する、という事もあるそうです。互いに持つ独自技術もある為、近々技術交流を目的とした使者の行き来もあるんだとか。あれ、もしかして仕返しするより、それに便乗する方が美味しいのでは?ゼノア、コンラッドに連絡をお願いしますね。せっかく仕込んだ悪戯ですが、今回はやめておきましょう。後は素直に、久しぶり夜会を楽しんでおきます。




