生まれ変わったら・・・?
新作です。
のんびり気ままに更新予定です
お初にお目にかかります、フィレンサ王国の第三王女、カミーラ・フィン・フィレンサと申します、十五歳でした。ベッド上からの挨拶で、誠に申し訳ございません。
王女とは言っても、私の事を知る国民はそう多くないでしょう。別に毛嫌いされているとか、妾腹の子供という訳ではございません。生まれつき体が弱く、ふとした事で体調を崩す事が多いせいなのです。生まれたばかりの頃は誕生パーティーで上級貴族の方々とお会いしたそうですが、ここ数年は王宮主催のパーティでも年に一度出席する否か、という所でした。
「カミーラ様、本日はお体の調子はいかがでしょうか?」
朝になると専属のメイドが必ず現れ、体調の確認をしてくださっていました。体調が良い時は庭園の散歩が出来ましたが、悪い時はベッドに寝たままか、医師の診察が必須という状態です。王家の義務全う出来ない私にも敬意を表してくださるのは、有難いと思う他にありませんでした。
何故全て過去形か、でしょうか。それは私が既に、この世にいない為です。気が付いたら私は、眠るように死んでいたのでした。いつかこの体質が治ると信じ、政治や経済学、貴族としてのマナー講習も受けておりましたが、その成果を見せられないままに。
お父様、お母様。私は二人の娘として生まれ、幸せでした。お姉様、あまり無理を言って殿方を悲しませないでくださいね?せめて、上姉様が花嫁となる姿だけは、見たかったものですが・・・。
五年後、フィレンサ王国のとある貴族に、一人の女の子が生まれました。伯爵位を持つその家では大騒ぎとなり、国中の貴族が祝いと挨拶にやってくる事態となりました。中には、それまで一切の交流を持たなかった相手も。
「ディアンサは将来、どんな大人になるのかな?」
憔悴しきった男性が、生まれたばかりの赤子を見下ろしていた。ディーン・フロイド・マーネイン、マーネイン伯爵家の当主であり、赤子の父親でもある人物だ。子爵位を継いだのが十八歳、そこから数年で伯爵位へと昇りつめた人物でもある。戦場で数多くの武勲を立て、部下からは戦鬼と恐れられる存在───なのだが。緩み切った頬も垂れ下がった目も、そういった精悍さは感じさせない。
そもそも、ディーンは未だ二十代後半という年頃である。にも関わらず、何故そこまでの戦果を挙げたのか。それはマーネイン子爵領が、敵国との境にあった為である。
フィレンサ王国は元々、和平を重んじる国家だった。戦争ではなく会談で、会談よりも不可侵条約を、と戦に至る前段階で事を収めるという国柄であった。
それを一方的に破り始めたのが、隣国のサーフェイス国だった。長年の友好国であったその国も、国王が代わるにつれて好戦的に、野心的になっていった。そこで目を付けられたのが、土地も産物も優れていたマーネイン領だったのだ。
「全く、碌な戦術も無いくせに、毎年毎年懲りずに!第一小隊は森を迂回して背後へ、騎馬隊は陽動と遊撃に別れて散開!犠牲は出すなよ、こんなので死んでも栄光の地へは行けないぞ」
文字通りに毎年、定期的に行われる侵略戦では、一人の犠牲も出していない。それを評価されたディーンは、二十代で陞爵するという歴史的快挙を成し遂げたのだった。第三王女の崩御が国中を覆い、国民が悲観的になっていた、という事も重なっていたのだが。
「セバス、セバスはいる?」
初めまして、ディアンサ・クロード・マーネインです、七歳です。あら、数年前にカミーラ・フィレンサと名乗った覚えがあるのですが、どういう事でしょう?窓の外にはいつか見たお城があり、お屋敷に飾られた肖像画の方々は、何度かお見かけした覚えがあるような・・・?
体が自由に動きます、走っても息苦しさはありません。これはもしかして、夢なのでしょうか?それならば、覚めてほしくないのですが。
「お嬢様、危ないですから、御屋敷内を走るのはおやめ下さい!あとセバスは今、旦那様と会議の真っ最中です」
お付の侍女に、腕を引かれて止められました。室内を走り回るのがはしたない事は、重々承知しています。でも嬉しいんです、とても楽しいんです!前はベッドに寝たきり状態だったのですから、尚更なのです。