素人の張り込み(二人)
さて翌週。
佐倉さんと僕は二人で公園にいる。
佐倉さんは背が高く凛々しい見た目なので、はたから見ると僕が従者のように見えるだろうな
と思う。
僕は「大人しそう・優しそう・いい人っぽい・ぼんやりしてる」と言われる外見なので・・・
張り込みは、一人と二人では全く違うんだなぁとつくづく思う。
まずトイレなどのちょっとした休憩。
一人だとその間の動きが見えないので、先週は苦労した。
暇つぶしに本を読んだり携帯を見たりするのも危険だ。
その間に見逃す。
二人なら暇なら話もできるし、交代で休憩をとることもできる。
張り込みは一人でするものではない。
そして今日はちゃんと目的の彼女を尾行できている。
よかった。これで来週以降の僕の休日は、無駄につぶされなくて済む。
「深山君、声を出したり大げさな反応をせずに聞いてもらいたいのだけど。」
佐倉さんがそう前置きをして言った。
「どうやら私たちにはお仲間がいるようだよ。
左前方。グレーのスーツにスニーカーの特徴のない男、あの人ずっと一緒だ」
僕は指示された男性を見る。
「まだ結構人通りありますよ。仕事帰りでたまたま同じ方向なんじゃないですか?」
少し控えめな声で答える。
「いや。公園でも何度か見た。」
佐倉さんが断言する。
「あの人も彼女を付けてるってことですか?」
「かもしれない」
「ストーカー、とか?」
「どうだろう?
ストーカーの厳密な定義がわからないので、何とも言えないけど、恋愛感情があるとは思えないな」
「なぜそう思うんですか?」
佐倉さんはちょっと考え込んで答えた。
「なんとなく。勘かな?あの人は彼女を好きではないような気がする」
佐倉さんは前世で、恋愛に節操がなかったようだから、恋愛関係には敏感なのだろうか?
僕には全くわからない。
駅から離れ、だいぶ人が減ってきた。
道には、彼女とスーツの男性と僕らだけになった。
僕らは少し離れて、隠れるように付けていくが、男性は特に気にする風もなく普通に歩いているように見えた。
その時、男性が歩くスピードを少し上げポケットから何か出しながら、彼女との距離を縮めていく。
「逃げろ!」と叫ぶ佐倉さんの声と「危ない!」と叫ぶ僕の声が重なる。
彼女は逃げ、男は一瞬戸惑う。
佐倉さんと僕は男に追いつく。
「なんで君までこっちに来るんだ!彼女を追えよ!」
佐倉さんは男を抑えながら言う。
「無理です!僕が女の子を追いかけたりしたら、警察呼ばれます!」
僕が弁明する。
「だからって君の腕力で、この人取り押さえられるのかよ!?」
佐倉さんが怒鳴る。
確かに僕には誰かを取り押さえるなんてことはできないだろう・・・
言うとおりだが、もう彼女の姿は見えない。
佐倉さんが盛大にため息をつき、男を引っ張り起こした。
「さて。興味本位で申し訳ないけど、話を聞きたいな」
男は黙っている。
「野次馬根性で駅からあなたたちを付けていたんだ。何となく不穏な感じがしたからね。
警察じゃないから安心していいけど、私の好奇心を満たしてくれないなら、このまま警察に連れて行くよ。」
佐倉さんは男の腕をつかんだまま、さらりとした口調で脅した。