一人目との会話2
さて二度目の佐倉さんとの呑み会。
今回は前回と違うお店。
佐倉さんはこのあたりの呑み屋に詳しいようだ。
赤ちょうちんの懐かしい雰囲気の居酒屋。
「そんなわけで僕は結構悩んでいるんです。
佐倉さんは今の仕事って、どうやって選んだんですか?」
グダグダと愚痴り、僕は聞いた。
「いやー・・・そういわれてもね。
転生したらこの仕事だったから、そのまま続けてるだけだよ。
っていうか、他に何か面白い話ないの?
その後、私と同じような人にあったりとかさ」
さらりと僕の愚痴は流された。
佐倉さんはなんとなく、女性に優しく男性に厳しい気がする・・・
店員さんに対しても女性相手だと、笑顔で「おねがいします」と言うのに、男性だとそっけない。
「ファンタジー世界から転生とか非現実的な人間、そんなにいませんよ」
「あっそう。残念だな。
わざわざ君を案内役に仕立てたんだから、私みたいなやつが、君のところに集まると思っていたんだけどなぁ」
佐倉さんが残念そうにそういう。
「まだ佐倉さんに会って数週間ですよ。
そのうちまた出会うかもしれませんけど・・・」
なるほど。佐倉さんが僕にマメに連絡くれる理由がわかったよ。
僕に興味があったりするわけじゃないんだね・・・
「そうかぁ・・・まぁおいおい、かな。」
残念そうにそう言うと、もつ煮込みに手を伸ばす。
「そういえば、案内役の深山君はどうやって私たちを見分けてるんだい?」
「言ってませんでしたっけ?
ステータスが見えるんです。佐倉さんは職業欄にカッコつきで勇者って表記されてます」
「ふーん・・・ステータスって何が見えるの?」
「種族、職業、レベル、特技、知力、体力が見えます。
種族は動物図鑑みたいな表記で、職業は転職サイトの職業欄みたいな感じですね」
「動物図鑑?人以外も見えるの?」
「そうですね。動植物は見えます」
「動物博士みたいだなぁ・・・植物園とか行ったら楽しそうだね。
あっ!ひよこの雌雄を鑑定する仕事できるんじゃない?」
すっごくいいことおもいついた!って顔だな・・・
「・・・すいません・・・オスメスはわからないんです・・・」
否定する僕が申し訳なくなる・・・
「オスメスは表記されないの!?
昆虫とかオスとメスでだいぶ形状違うやつとかいるのに!
中途半端な動物博士だなぁ」
勝手に期待されて、勝手に失望されたようだ。
そもそも動物博士でも植物博士でもないのだが・・・
「レベルとか知力、体力はどんな感じ?」
「知力体力はその人の万全な状態を100として疲れていたりすると、減るようです。
集中力に掛ける状態になってるとか、そんなことが漠然とわかりますね。」
「レベルって?この世の中でレベルに相当するものってあんまり思い当たらなんだけど?」
あんまり答えたくないからはぐらかしたのに、つっこむんだね。
あんまり空気読まない人のようだ。
「レベルは・・・よくわからないですね。なんか一応数字が出てますよ。」
収入だよ。言いたくないけど。
佐倉さんは20代女性事務の年収として妥当な金額が出てる。
「なにが表示されてるのか気になるなぁ。ちなみに私はいくつ?」
空気・・・読んでくれないかなぁ・・・
僕がどうごまかそうか考えていると、タイミングよく厚揚げがきた。
厚揚げを受け取り、テーブルに置きながら話を変える。
「醤油掛けちゃって大丈夫ですか?」
「いいよ」
佐倉さんの返事を聞いて、僕は佐倉さんが興味を持ちそうな情報を思い出した。
「そういえばこの間、うちのバイト募集に痴漢被害者の子が来ましたよ」
「深山君と私が出会った日のことだね?」
なんだその意味深な言い方。
「まぁそうです。お店の近くの大学の子みたいで。
向こうは僕に気付いてませんでしたけど。」
僕はつづけた。
「特技欄に殺人って出てたんですけど、どう思います?」
「特技殺人・・・結構インパクトのある言葉だね」
そう言って佐倉さんは厚揚げをかじった。
「そうですね。
僕に見えるのってどこまで信用できるのかわからないし、
特技ってだいたい趣味とかその程度のものが表記されていることが多いんですよ。
佐倉さんは山登り・キャンプ、速記速読って出てます。
あ、あと簿記持ってるんですね。」
簿記の資格を生かした転職をしたほうが良いのではないか、などと余計なことは口にしないほうが賢明だろう。
「なるほど。趣味と資格とかそんな感じだね」
「そうです。そこにそんな表記ってどう思います?」
周りに聞こえても支障ないよう、ぼかした聞き方をする。
「確かにそのステータスがどれくらい信用できるかわからないしねぇ・・・
信用できる前提で考えると、特技ってことは1回きりってことはないんだろうな。
複数回・・・何回くらいで特技扱いになるんだろうなぁ・・・?」
少し考えこんだあと佐倉さんは言った。
「その子、調べてみようよ」