ケーキ屋さんへ行く
新しいバイトも入り、特に問題もなく順調なある日、僕はオーナーである塩野さんのお使いでケーキ屋にいる。
塩野さんは月に一度、僕にケーキを買いに行かせる。
話題の店・新しくできた店・塩野さんのお気に入りの店
今日は塩野さんのお気に入りの店の一つ。
ここに来るのは2度目。
パルフェが人気の店で、平日でもにぎわっている。
塩野さんとかおりさんが休みの日に来た時には、満席でパルフェ食べられなかったそうだ。
今日も満席。
席がいて開いていればパルフェを食べて帰ろうと思っていたので、残念だ。
塩野さん、かおりさん、桧山君は1人3つ。
今日はバイトの女の子はいないので、僕の分を1つ。
10の生菓子と、休憩室に置く日持ちのする焼き菓子を購入。
「なるべくいろいろな種類」と言う三人の要望に沿うよう1種類1つずつ。
月に一度のこの日、9つのケーキをつつきながら、三人は色々話し合う。
塩野さんも桧山君も、研究熱心というより、本当にお菓子が大好きな人だ。
おいしいケーキを真似しようとか技術を研究しようというよりも、純粋においしいケーキが嬉しいという表情でケーキについて話している。
就職先がなくて塩野さんにお世話になっている僕としては、その光景はとてもうらやましいものだ。
塩野さんのおかげで僕はおいしいケーキ屋さんをたくさん知っているし、色々なケーキを食べているが、残念ながら僕の舌は、塩野さんや桧山君のように繊細ではない。
「おいしい」ハードルが低すぎて、大半のものはおいしく食べられる。
それはそれで幸せなことなのだけど・・・
そしてそれほど打ち込める仕事があるってこともうらやましい。
やっぱり就職活動を再開したほうがいいのだろうか。
このまま塩野さんのお世話になり続けてよいのだろうか。
とはいえ、就職するとしたらどんな仕事を探したらいいんだろう?
ステータスは「その人の顔が8割以上見えている状態」でないと見えない。
写真や動画、鏡に映った顔、ではNG。
生身のその人を見ないと、見えないのだ。
つまり自分のステータスは見えない。
せっかく向いている職業が分かる能力があるというのに、自分の適性はわからないのだ。
僕の好きなもの、得意なことで仕事になりそうなもの・・・あるだろうか?
ぼんやりと店内を見渡す。
平日の昼過ぎ。
店内にいる人たちは、ご近所の主婦層が多いようだ。
(これはステータスを見たのではなく、単純な推測だが)
僕の頭上を不自然に見る人がいないところを見ると、転生者はいないのだろう。
僕には頻繁に連絡をくれる友人もなく、特技もない。
仕事にしたいほど打ち込めることもない。
会計が終わり店を出て帰る電車の中でも、欝々と自分現状を振り返る。
ため息をつく僕のコートのポケットから、振動が伝わる。
携帯だ。
見ると佐倉さんから「また呑みに行こう」というお誘いのライン。
いいですね!行きます。
人と話したい気分だった僕は、即座に返信したのだった。