僕の仕事
今日は面接がある。
僕は面接官側だ。
面接と言ってもたいしたものではない。
僕の勤務先は、知り合い夫婦の洋菓子屋だ。
二人が数字はあまり得意ではないということで、経理・事務・雑用係として僕は雇われている。
まぁ実際には、就職浪人の僕を雇ってくれるための口実だったと思う。
最初はお互い、そのうち僕が就職するだろうと思っていたのだが、居心地も良く、オーナー夫婦も僕を重宝してくれるので、そのまま働き続けている。
ステータスが見えるようになってからは「人を見る目がある」との誤解により、人事的な仕事も任されるようになった。
店は、オーナーパティシエの塩野さんと、パティシエ見習いのバイト桧山君、販売は塩野さんの奥さんがメインに、バイトの女の子が2人。
そのバイトの子が辞めるので、その子の代わりを募集したのだ。
夕方から三人予定している。
小さな洋菓子屋だけど、オーナーの奥さんがインテリアにこだわりがあり、ケーキの評判も良く、バイト希望の女の子は結構いる。
特に女子を募集しているわけではないが、応募してくるのは9割がた女の子だ。
面接のときには、ステータスを表示させ、のぞかせてもらう。
経験のある仕事、向いている仕事、不向きな仕事が分かるので、これはすごく役に立っている。
面接前に履歴書を確認する。
三人とも大学生だ。
実家が近い子が一人、近所にある学校に通っている子が二人。
一人が何となく見覚えのあるような気がするが、思い出せない。
ステータスは写真や動画などでは見えないので、面接で直接会って確認するしかない。
うちのお店でバイトをする子は、だいたい今回の子たちと同じく、近所に住んでいるか近くの大学の学生だ。
今回辞める子もその大学の子だ。
面接は一人ずつ。
すいている時間にお店の喫茶スペースの一番奥、お客さんに不審に思われないであろう席でやる。
奥さんも少し話をするが、基本的に僕が面接をする。
塩野さんは問題のない子ならだれでもいい、深山(僕)とかおり(奥さん)が選んだ人なら大丈夫
と言ってくれる。
僕の場合、人を見る目ではなくてステータスを見る目があるだけなので、ちょっと後ろめたいけど
塩野さんの役に立てていることは素直にうれしい。
一人目は近所に住む子。
特に問題なし。接客スキルが特に高いわけではないけど、問題のない範囲。
慣れれば大丈夫だろう。
お母さんがお祝い事に買ってくれるケーキが、ウチのケーキとのことでかなり好印象。
二人目は近所の大学に通う子。
この子も特に問題はないが、接客よりデザインのほうが向いているようだ。
かおりさんがインテリアに力を入れているため、この手のデザインに興味のある子も結構来る。
たぶん一人目より二人目のほうが、かおりさんと相性がよさそうだ。
しかし一人目は、お母さんが常連さんっぽいし悩むところだ。
さて三人目。
うんうん。この子も特に問題なし。
居酒屋でのバイト経験ありとのことで、接客で言えば一番向いてそうだ。
でもなんか引っかかる。
対面してみて、やはりどこかで会ったような気がする・・・
履歴書を眺め、紅茶を薦めながら考える。
ステータスをもう一度盗み見る。
職歴も特に問題ない。
種族も職業もカッコ付きの変な表示にはなっていないし・・・
・・・
あ、あれだ。佐倉さんと会った時の痴漢被害者の子。
めそめそしていて、せっかく佐倉さんが捕まえた痴漢も無罪放免にしたあの子だ。
いまいち印象が良くないんだよね。
向こうは僕に気付いてないようだし、彼女はやめて前二人のどちらかにしよう。
僕はそう決めて履歴書を置いた。
その時ステータスバーにある不穏な文字が目に入った。
特技:殺人
うん。この子はなしだ。
平穏にお帰り頂き、お断りのあたりさわりのない電話をしよう・・・
あの弱気な被害者と「特技:殺人」がいまいち、つながらないけど、とりあえずこの子はナシだ。
無事面接も終わり、かおりさんと話す。
「一人目か二人目ですね」
僕が言う
「三人目の子は?結構かわいかったけど」
かおりさんが言う。
「前に彼女が痴漢被害にあっているところに遭遇したんですけど、
ちょっと気弱そうで、接客はむずかしいかなぁと思ったんです」
少しうそを混ぜて僕が感想を言う。
「そう?痴漢にあって毅然としてる子のほうが珍しいと思うよ?
深山君が向かないって言うならやめておくけど、その考え方は良くないと思う」
「すいません・・・」
そんなものか。なんとなく納得いかないけど。
結局かおりさんと話し合い、二人目に決めその日は仕事を終えて帰った。