一人目との会話
3話目があまりに短かったので、2話目に合成しました。
ブックマークいただいた方がいらっしゃるようで恐縮です・・・
結局僕は勇者姉さんと連絡先を交換し、仕事に向かった。
そして今日、僕は勇者姉さんと居酒屋にいる。
「いやー私、転生して5年くらいたつし、今更もうガイドいらないんだけどね。
君に会う前日、夢で神様に『明日ガイドに会えるよ』って言われたからさぁ、
どんな人かなぁとか
ちゃんとわかる目印あるのかなぁとか
思ってたんだけど、わかりやすい目印だったから声かけておこうと思ってさ」
「はぁ・・・そういわれても僕はガイドとかよくわからないんですけど・・・」
僕はごく当たり前の受け答えをする。
そこに頼んでいたビールがきたので、とりあえず乾杯する。
「そうなんだ。
なんかお告げとかなかったの?
あ、そうそう私、佐倉ツバキっていうんだ。君は?」
僕のことなんかお構いなしに、勇者姉さん改め佐倉さんはビールを飲んだ。
「深山です。
お告げとか神様とかそういったものは何もないですけど・・・」
僕は焼酎の水割りを飲む。
ビールの、というか炭酸が苦手なので、だいたい一杯目は麦焼酎の水割りを頼む。
大半の人が「とりあえずビール」を頼むので原材料だけでも合わせようと思っているのだ。
焼酎はロックだと、アルコールの香りが強すぎて飲みにくいのだが、水割りにすると麦や米といった原材料の香りがしておいしい。
「そうかぁ、あんまり他の世界には干渉できないって言ってたからなぁ・・・」
佐倉さんは二杯目を頼んでいる。
どうも酒好きのようだ。
「飲むのが好きなんですね」
当たり障りのない話を振ってみる。
「うん。ここは何でもおいしくていいよね。
人は死ににくいし、食べものは何でもおいしくて、娯楽も多い。
いいものが庶民でも手に入れやすい金額で売っていて、店舗も豊富で入りやすい。
ここに来たときは感激したよ。」
そうか。佐倉さんは勇者だったんだ。
「前にいたところは、どんなところだったんですか?
やっぱり魔物とかドラゴンとか退治するんですか?」
「うん。まぁそうだね。
私のいたところは、人は簡単に死んじゃうし、生活環境も良くないし、封建社会で命じられれば、無理そうな依頼でも受けなきゃいけないこともあったよ。
私は結構有名な勇者でさ、そこそこ功績もあったしね。」
「へぇ・・・その無理目の依頼を失敗してこっちに来たんですか?」
「・・・いや。ちがう・・・」
豪快なイメージの佐倉さんが、初めて口ごもった。
そりゃそうか。
「す、すいません・・・無神経なこと聞いてしまって・・・」
現実味のない会話に、つい無神経なことを聞いてしまった。
ゲームの話でもしてる気分になっていたのだ。
「あ~・・・気にしないで。無神経とか思ったわけじゃないから。
勇者らしくない理由で、こっちに来たからあんまり言いたくないんだよね」
佐倉さんは苦笑いでそういった。
「いえ。どちらにしろ不用意な質問でした。すいません」
僕が再度謝罪する。
・・・
気まずい沈黙。
僕はツクネに手を伸ばす。
ここは佐倉さんおすすめの焼鳥屋で、突き出しの煮浸しがおいしい。
焼き鳥は単品もあるが、僕はおすすめ5本セットで、佐倉さんはお勧め10本セットだ。
僕が今食べているツクネは軟骨が入っていて、味も食感も好きな感じだ。
「うまいでしょ?ツクネ」
佐倉さんが言う。
「もう一軒おいしい焼鳥屋があって、どっちに行こうかいつも悩むんだよね~
もう一軒はカウンターだけの小さな店だから、今日みたいに連れと話があるときは、こっちのほうがいいんだけどね。」
「カウンターだけのお店なんて、高そうですね」
このお店は庶民的だ。
雰囲気は雑然としていて、壁には店主の趣味だと思われる競馬のポスターが所狭しと貼ってある。
客は半分くらい常連だろうか?
それほど上品な雰囲気ではないし高級な店でもないが、チェーン店よりは高い。
ざわざわしていて、他の人が何を話しているのか聞こえない程度に席が離れてる。
入り口付近にカウンターがあり、防煙ガラス越しに焼いているところが見える。
「いやーそっちのほうが安いよ。
一人でやってる小さい店だから、すぐ満席になっちゃうけどね。
難点は酒の種類が少ないくらい。
狭くて客と店主の距離が近くて、客同士も話したりするから、こういう変な話をするには向いてないんだ」
今度その店を教えてもらう約束をして、その日は家へ帰った。