一人目との出会い
電車に乗る。
通勤電車だ。
初めのころは面白かったステータスバーだが、数日すると飽きた。
つまらないのだ。
これがテストだったら、ラッキーだ。
カンニングし放題なのだから。
だけど僕の人間観察は趣味だ。
正解を知りたくて、想像している訳じゃない。
何となく非日常を味わうというか、他の人生を妄想して楽しむ、そんな趣味なのだ。
ステータスバーのおかげでその趣味は台無しにされた。
電車の中での暇つぶしもできなくなり、ぼんやりとしかし転ばぬようしっかりと立つ。
ぼんやりしてる僕の目端に、不審なおじさんと女の子が写る。
ちかんだ。
あー・・・朝から元気だなぁ・・・女の子嫌がってるよね・・・
声かけるにはちょっと遠いし・・・
おじさん僕より強そうだし、弁もたちそうだし・・・
僕がそんな風に躊躇していると、隣に立っている女性と目があった。
彼女は頭上をチラっと見て、また僕の顔を見た。
僕に注意しろ、ということだろうか・・・
と思ったら違ったようだ。
彼女は「すいません」と声をかけ、人と人の隙間を移動し、おじさんの腕をねじり上げた。
「次の駅で降りて警察に、ご一緒しましょう」
当然おじさんはあたふたとしている。
「な、なんだおまえは!」
「まぁ誰でもいいじゃないですか。
そこにいるお嬢さんも一緒に来てね。」
そして僕のほうに振り返り
「君もお願い。見たよね」
という。
「あ・・・はい・・・」
まぬけな返事をしながら僕は、気になる表示に気付いてしまった。
この勇敢なるお姉さんの職業が「事務員(勇者)」というへんてこな表示なことに・・・
僕たちは勇者姉さんの言いなりに次の駅で降りた。
おじさん(ちかん)女の子(被害者)勇者姉さん(事務員)僕(ケーキ屋勤務)の四人。
ケーキ屋勤務とはいえ僕は事務方なので、通常の会社員と似たような勤務時間だ。
店に電話し、すでに出勤しているパティシエ見習い君に遅刻すると伝言をお願いする。
勇者お姉さんたちも会社に連絡したようだ。
結局警察にはいかず、駅員さんに話を聞いてもらい解散した。
被害者の女の子が、めそめそしているだけな上、警察は怖いからいやだ、と言い出したせいだ。
おじさんは勇者姉さんに、悪態をつきながらイライラとした速足で立ち去った。
ふいに勇者姉さんが僕に話しかけた。
「君の連絡先を、聞きたいんだけど」
「・・・」
不審気な僕を見て、勇者お姉さんはつづけた。
「君、案内人でしょ?異世界転生者の」
聞き捨てならない不可解な内容だ。
「・・・なんですか?それ?」
単語の意味が全く理解できない。異世界転生って最近はやりの小説のこと?
全く理解できない僕に、勇者姉さんは言った。
「あのね。君の頭に旗が立ってるの。
『異世界転生ツアーin Japan ガイド』って」