その2
朝起きてすぐにスマホに手を伸ばすのが最近の習慣になってしまった。SNSアプリの検索欄には予測入力で彼のIDが表示される。そのIDで検索をするとすぐに彼のアカウントへと飛べる。フォローする必要はないなぁと思っている。
彼はこれぞ大学生という感じで夜遅くまで起きている事が多いみたいで、何と昨夜は動画配信をしたらしき投稿があった。さすがに顔を出してはいないよねとそのページへ飛んでみたけど、公開はされておらずライブ配信があった事だけがそこに表記されていた。
なのちさん・改さんは昨日のライブ配信を見ていたんだろうか。2人は彼と実際に会った事がなさそうだけど、少なくとも声は聴いているみたいだ。対して私は顔は知っているけれど、彼の声を聞いた事がない。
何となくモヤモヤしながら身支度を整えて、ダイニングへ向かった。
「今日は塾の日よね?」
「うん、だから帰るのは9時前くらいかな?」
塾へは自分が行きたいから両親に申し出て通わせてもらっている。
私は進学したい、でも行きたい大学も学部も決めていない。高校卒業までもう1年を切った。このまま社会に出るのは早いと思いつつ、なおかつ今すぐにでもどんな職業に就きたいのかを見つけなければという焦りも持っている。
現状の志望大学については、高校の担任の先生が私の現在の学力で無理のない大学をチョイスしてくれている。私の思っている事を全て理解してくれているので、とても頼りになる先生だ。その担任の先生からのアドバイスを塾の担当に伝え、適切な指導をしてもらっている。
なりたい職業を定めれば、自ずと行きたい大学も学部も決まる。もし進路を定めた時に、行きたい大学に行けるだけの学力がなければ話にならない。だから今はとにかく勉強をする。そんな時期だった。
いつのも時間に電車へと乗り込み、彼の姿を確認する。今日は少し車内が混んでいる為か、手すりに寄り掛かってデレレテをしているようだ。
今朝感じたモヤモヤは何だったのだろうか、そう考えながら鞄からスマホを取り出してSNSアプリを立ち上げる。彼の投稿を眺めると、今朝読んだ内容から変化がないようだった。
と、そのタイミングで変化が。チラッと見ると彼がデレレテを止めてSNSへと移行したようだ。スマホの持ち方で分かる。デレレテは画面を横にして両手でプレイするリズムゲームだから。
誰にも言っていないけど、私も彼の投稿で気になって最近デレレテをプレイするようになった。アイドルを育成するプロデューサーとしてプレイするリズムゲーム。楽しい。彼へ同僚申請したいと思っている。でも彼のプロデューサーIDが分かるような画像付きの投稿でもない限り、申請のしようがない。
橘は俺の嫁@デレレテP:しまった、今日サークル費払う日なんだった! 油食う金しか持って来てねぇ
サークル? 彼はサークルに入ってるのか。大学に入れば学部と学科、そして専攻を決めた上でなおかつ入りたいサークルも選ぶのか。彼はどこの大学に通っているのかな。それと油を食べるって何の事だろう?
な2の3ち@小説家になりたいな:橘きゅんは油そば好きだなw
Mt.フォーチュン改@デレレテP:止めれw 朝から腹減るだろうがwww 文字でも飯テロ禁止!
どうやら油とは汁なしラーメンみたいな油そばの事らしい。ラーメンか、確かに想像しただけでお腹が減って来る……。飯テロ、許すまじ!
と思っていると、彼がそのラーメン屋のサイトを投稿した。すぐにリンクを飛ぶと、すごくおいしそうな油そばの写真があった。でも私が注目したのはそこではない。そのラーメン屋さんの住所だ!
橘は俺の嫁@デレレテP:キャンパスから近いんでよく行きます!
決定的な発言が来た。このラーメン屋さんの近くにキャンパスがある大学、2件。でも彼は農業って感じじゃないしこっちだろう。
彼の通っている大学を特定、俗にCHARMと呼ばれる有名私学のうちの1つだ。何と、学校の担任からとりあえず志望校としてオススメされていた大学に入っている。学部は私が理数系が得意だからという理由で理工学部だ。
気になって理工学部のキャンパスを調べてみると、え……? 彼が通っていると思われるキャンパスと一致した。
橘は俺の嫁@デレレテP:J4では油行く、で油そば食べに行くって意味で通じますねw
Mt.フォーチュン改@デレレテP:サークル内の隠語www
J4……、って何だろう。彼の入っているサークルみたいだけど。気になるととことん気になる性格なので、彼の大学名とJ4を合わせて検索をする。すぐに「情報技術研究会とは」いうサークル紹介のページが出て来た。
新入生の皆様も理工系学部へと進学されたからには、
必然的にパソコンに触れる機会が増えるかと思われます。
パソコンに少しでも興味のある方、我こそはハッカーであるという方、
これを機会に情報技術研究会に入って、様々な人と語り合い、
他の人の考えに触れたり自分の考えを高々と主張したりしながら、
Diamond Cut Diamondなサークル活動を行いませんか。
理工系学部、該当のキャンパスには理工学部しかない。理工学部かぁ、どんな事を勉強する学部なんだろう。
そんな事を考えているうちに、彼の通うキャンパスに近い駅に到着した。スマホ画面を見ながら電車から降りようとして、前に立っているおばさんとぶつかる彼。小さく会釈をして、そのままホームへと降りて行った。
もしかしたら来年の今頃、彼と一緒にこの駅で降りるかも知れない。そんな想像をして、少しむず痒くなってしまった。
次話は明日7時に投稿予約済みです。
合わせて、よろしくお願い致します。
誤字修正致しました。
Mt.フォーチュン改@デレレテP様、ありがとうございます!




