その1
新章開始です。
通い慣れた通学電車の中、今日もあの人の顔を見て安心する。名前は知らないけれど、彼の考えている事はだいたい分かる。今はスマホゲームのスタミナを消費している最中で、もう少しするとSNSアプリを立ち上げて、会った事もない人達と他愛もない話題で盛り上がるのだろう。
私は鞄からスマホと取り出して、SNSアプリを立ち上げる。
私の通う女子高はいわゆるお嬢様学校と呼ばれる学校で、周りからは校則が厳しいのではとかスクールカーストがあるんじゃないかとか言われるけれど、全くそんな事はない。
進学・就職共に力を入れている学校で、今時スマホを持って来てはなりません! なんていうお堅い教師もいない。むしろ積極的に時代の波に乗るべきだという校風で、情報系の選択授業では簡単なスマホアプリの作り方を教えていたりする。私は取ってないけど。
Mt.フォーチュン改@デレレテP:今週も土日出勤で軽く14連勤突破だぜ!
な2の3ち@小説家になりたいな:辞めちまえそんな会社。独立独立さっさと独立ぅ!
社会人も大変なんだろうな、と思いながら投稿を眺める。
彼、そして彼が改さん・なのちさんと呼ぶ3人を私はフォローしていないので、会話を追うのは結構大変だ。時々会話が飛んでしまい、そして突然その会話の続きが復活するという謎の現象が見られるので、多分この3人は本当に人に読まれたくない話題になったら鍵を掛けたアカウントへ移行して会話を続けているのだと思う。
時々そのアカウントの切り替えに失敗しているのを見かけて確信した。さすがに鍵付きのアカウントまでは把握出来ていない。
最初は普段学校の友達とのやり取りに使っているアカウントを使って会話を読んでいたけれど、今は誰もフォローしていない・誰からもフォローされていない鍵を掛けたアカウントを使って会話を読んでいる。自分でも思うけれど、結構趣味が悪い。
それでも何でそんな事をするかというと……。
橘は俺の嫁@デレレテP:社長、雇って下さい! 週休4日でボーナス年3回でおなしゃっす!!
彼の事が好きになったからだ。
キッカケは、たまたまだと思う。
その日、私は家にスマホを置き忘れてしまった。今時女子な私は、読みたい小説は電子書籍としてスマホに入れているので、文庫本などの時間を潰す物を持っていなかった。電車の中では勉強をしたくないので、参考書や勉強に関する物を出すつもりもなかった。
ぼーっと外の景色を眺めていた時、たまたま座席にいた彼のスマホ画面が目に入った。決して覗き込んでわざわざ見た訳ではない。
SNSアプリで誰かとやり取りをする彼。スマホをフリックしたり、アプリを切り替えてブラウザで画像検索をしてSNSに投稿したりと、無表情な割にはとても楽しそうにしていると感じられた。そしてすごく気になった。彼はどんな会話をしているのだろう、と。
画面が見えているものの、詳しい内容までは読み取れない。ダメだろうと思いつつも、彼のアカウントIDだけを凝視して鞄を開き、手帳にメモを取った。帰ったらフォローしてみようかな、と何気なく思っただけだった。
十分何気なくないでしょ! 華の女子高生(笑)がストーカー行為って!! と思い返してぞっとする。
学校の授業を終えて家に帰り、自室のベッドに置きっぱなしだったスマホを手に取ってSNSアプリで彼のアカウントを検索する。すぐに見つかった彼のアイコンは、よく見ると可愛らしい女の子の二次絵だった。
私は小さな頃からアニメや漫画が大好きで、両親や兄もそんな私を否定しなかった。
「やりたい事をする前にしなければならない事をしろ」という我が家の家訓にさえ反しなければ、頭ごなしにダメだと言われる事はなかった。
だから、彼が使っているアイコンがすぐにデレレテと呼ばれるゲームの物だと分かったし、それを使う彼に対して引いてしまったりという気持ちも特になかった。あぁ、こんな感じのキャラクターが好きなんだ、程度だった。
さて、自分の普段使っているアカウントでフォローしようかなと思いつつも、彼のタイムラインを追って読んでいると、どうやら彼は複数のアカウントを使い分けているのが読み取れた。大学の友達用・趣味用・デレレテ用。私がメモしたIDはデレレテ用兼改さん・なのちさんとの会話用だったみたいだ。そしてなおかつ、3人だけで会話するようの鍵アカウントがあると思われる。
そうか、そんな使い方をしようと思った事がなかったので思い付かなかった。けれど、用意したメールアドレスの数だけSNSアカウントが作れるというのはちょっと考えれば分かる事だった。
よし、じゃあメールアドレスを取得しようとしたところで、学校の友達からスマホに着信。今日の宿題についての質問だった。
そうだ、我が家の家訓はやりたい事をする前にしなければならない事をしろ、だ。先に宿題をしなければ……、そう思い友達と通話しながら宿題を進めているうちにメールアドレスを作るという事を忘れてしまっていた。そしてその日はいつも通り夕食を摂り、お風呂に入って髪を乾かし、コテンとベッドで寝てしまったのだ。
この章は冬花視点でお送り致します。
よろしくお願い致します。




