その6
焦って走って転びそうになりながらベンチへと戻ると、(フラグなんて)ないです。という雰囲気で冬花ちゃんは1人でスマホを見ながら足をブラブラさせていた。俺の事に気付いたのか、ちょっとビックリした表情を浮かべた後、スマホを鞄に仕舞った。俺が必死な形相で走って戻って来たから驚かせてしまったのだろうか。
「はぁ、はぁ、ゴメンね、お待たせ」
「いえ、大丈夫ですよ。それより何で走ってたんですか?」
「え? あ~、ゴメン。実はミルクティーが売ってなくてさ、どうしようか迷ってたら時間掛かっちゃって。カフェオレとお茶と買ったんだけど、どっちがいい?」
うん、嘘は言っていない。迷って(SNSアプリを通じてフォロワーさんにアドバイスを貰って)いたら時間が掛かっちゃった。それとセルフフラグ立てしちゃったからね、もし怖いお兄さんとかに声掛けられてたらと思うと走らずにいられなかったんだよ言わせんな恥ずかしい。
でも、もし本当に怖いお兄さんだとか、チャラい男にナンパされてたとしたら、俺は一体どうしていたんだろうか。逃げる? いや、逃げるのはさすがにないだろうけど、素直に立ち去ってくれる事を願って恐る恐る声を掛けるくらいの事が出来ただろうか。
あ~、今日に限らずこれから冬花ちゃんと一緒にいる時には、そんないらない心配をする必要があるのかな。周りの目を気にして、見えない敵と戦わないといけないのだろうか。
「柊人さん?」
はっ! またマイナス思考の海に浸っていた!!
「ご、ゴメン! ちょっと考え事してた!! え~っと、どっちがいいかな?」
「お茶の方を貰っていいですか? 私コーヒーはどうしても苦手で」
良かった! 選んでもらって良かった!! 人のアドバイスは素直に聞いておくものだね。
「それで、考え事って何を考えていたんですか?」
ベンチに座り、カフェオレのキャップを開けて口を付けると冬花ちゃんから質問が飛んで来た。
ぐびりっ、カフェオレを飲んで時間を取る。素直に君がナンパされていたらどうしようかと思っていたとは言えないよ絶対。クールビューティな彼女も好きだけど、そんな彼女に責め立てられるのはSAN値がどんだけあっても足りない。
「もしかして、私の告白にどう返事しようかと迷ってますか……?」
そうだね、そっちも迷ってる。いや、迷ってない。答えはイエスだ。イエスだけど、イエスと答える覚悟が出来切っていない。
冬花ちゃんと付き合うという事は、彼女を守るっていう事だ。
冬花ちゃんと付き合うという事は、彼女の隣で歩く俺も見られるという事だ。
冬花ちゃんと付き合うという事は、オタクな自分を知られるという事だ。
彼女を守れるだろうか。
彼女の隣に立つ資格が、今の俺にあるのだろうか。
彼女はオタクな俺を知っても、引かないだろうか。
「私は柊人さんの事が好きです。多分、これからもっともっと好きになって行くと思います。今日初めて会った私の事を、まだ柊人さんは好きだと思えないかも知れませんけど、いろんな私を知ってほしい。いろんな私を柊人さんに見てほしい。一緒にいろんな事を見たいなって思うんです」
恥ずかしそうに顔を伏せてから、少しズレた眼鏡をクイっと直しながら俺に向き直り、冬花ちゃんは俺の目を見つめる。そして、初めて彼女の声を聞いた時と同じセリフを口にする。
「好きです、付き合って下さい」
「よろしくお願いします」
花が咲いたように、冬花ちゃんはとっても可愛い顔で笑って見せた。信じられないだろ、これ、俺の彼女なんだぜ……。
それから俺達は、普段どんな事をしているとか、大学と高校での話とか、俺のバイトの話とか、休みの日に2人で何をしようかとかを話した。正直俺はまだまだ冬花ちゃんを前にして緊張している。でもいつかは慣れると思う。そして、この気持ちは絶対に忘れないでおこうとも思う。
目が合うだけで、冬花ちゃんが笑うだけで、こんなにも胸が苦しくなる。切なくなる。嬉しくなる。愛おしくなる。
「冬花ちゃん、さっきまだ俺は冬花ちゃんの事好きじゃないかも知れないけどって言ったじゃん。あれさ、違うよ?」
「え? 何ですか突然」
ホントだよ、何言い出すんだよ俺。自分でもビックリだわ。でも言いたいんだ、聞いてほしいんだ。俺の気持ちを。
「俺さ、もう冬花ちゃんの事、好きだから。大好きだから。大切にしたいって思ってるから。だからさ、俺は変わろうと思うんだ」
うん、と声なく冬花ちゃんは頷く。その先にある俺の言葉を、黙って待ってくれる。
「店でさ、こんな俺が兄だと思われてしまって申し訳ないって言ったじゃん。その時冬花ちゃんは怒ったけど、あれは俺の本心なんだ。だから正直迷った。冬花ちゃんの事好きだけど、俺なんかが冬花ちゃんの隣にいてもいいんだろうかって悩んだ。でも好きなんだ、冬花ちゃんの事。だからさ、だったら変わればいいんだって、今は思うんだ。冬花ちゃんの隣に堂々と立てる男になろうって」
すごいね、人を好きになるって自分で思ってる以上に変わるんだ。どもる事なく、冬花ちゃんの目を見ながらこんなセリフがすらすらと出て来る。聞いてほしい、聞かせたい、俺の覚悟を知っておいてほしい。そんな気持ちが止めどなく溢れる。溢れるまま垂れ流し、冬花ちゃんに伝える。
またカフェオレに口を付けてから、続ける。
「好きだって言ってくれてありがとう。好きな人の悪口を言うなって怒ってくれてありがとう。お蔭で自分の事、好きになろうと思えた。冬花ちゃんにもっと好きになってもらいたいって思えた。本当にありがとうね」
黙ったまま何度も頷く冬花ちゃんの目には、うっすらと涙が溜まっている。はぁ、こんなに可愛い女の子を泣かせてしまった。泣かせてしまったからには、責任を取らないとな……。
「これから、ずっとずっと、よろしくね?」
うっすらと暗くなって来た公園を後にして、俺達は電車に乗った。冬花ちゃんの降りる駅に着くまでずっと握りっぱなしだった手。手と手が離れて、バイバイして、ふぅっと小さく息を吐く。ため息ではなく、幸せな気持ちがほんの少し漏れ出しただけ。
俺にしては久しぶりにスマホを取り出し、SNSアプリを立ち上げる。タイムラインを追うと、あの後2人はなかなか投稿しない俺にいらぬ想像を働かせ、今頃2人でホテルでしっぽりとかまたバカな話で盛り上がっていたようだ。
橘は俺の嫁@デレレテP:彼女とのデート終わりました
な2の3ち@小説家になりたいな:へぇ~、彼女とデートね! うらやまけしからん!!
Mt.フォーチュン改@デレレテP:爆発爆発さっさと爆発!!
橘は俺の嫁@デレレテP:彼女はいいぞぉ
な2の3ち@小説家になりたいな:幸せそうで何よりw
Mt.フォーチュン改@デレレテP:彼女のどんな所が好きなのかkwsk
橘は俺の嫁@デレレテP:え~? 好きなのに理由って必要ですかぁ~?
自分で投稿しといて笑ってしまう。好きな理由はもういっぱいあるけど、一つ一つ数えながら挙げて行きたいけど、140文字という文字数制限に引っかかってしまうから書き切れない。すごくシンプルにパワフルにハートフルに言うと、好きだから好き、という一言に収まってしまう。ワンダフル!!
好きなのに理由なんてないんだな、知らなかったよ。
オッサン2人はまたあの子のいいねの話で盛り上がってる。確認すると、俺の投稿にも誰が押したか表示されないいいねがあった。ま、あの子からの祝福だと思っておこう。
これからどんな楽しい事があるのか分からないけど、自信を持って冬花ちゃんが好きだと言えるようになろう。自分の事を好きだと言えるようになろう。
冬花ちゃん
あぁ冬花ちゃん
冬花ちゃん
大好き!!!
この小説は続きますが、ここで一旦物語の区切りとなります。
今後物語を書き進める参考にさせて頂きますので、よろしければ現在の評価・もしくは感想を入れて頂ければ幸いです。
次話は明日7時、ではなく本日の12時頃に手動で投稿する予定です。
引き続きよろしくお願い致します。




