その8
「泣くなよ冬花。落ち着いてからでいいから、何でああなったのか、あれからどうなったのかを教えてくれない?」
柊人さんが優しく私を気遣ってくれる。痛い思いも、怖い思いもしただろうに、それでも私の事を気にかけてくれて、怪我はないかと心配してくれる。怖い思いをさせて悪いと謝ってくれる。
そんな柊人さんが大好きで、だからこそ辛い。私は最初の第一歩を踏み外していたんだ。
「あの人達の中に、電車に乗ってる時に連絡先を交換してくれって言って来た人がいて、お断りしたの。でもその人、他の2人に私が映ってる写メを見せて、これ俺の彼女って言ってたんだって」
気持ち悪い。私は正直にそう思った。けれど、私がしている事と何が違うんだろう。私は柊人さんのSNSを覗き見している。バレないように普段使っているのとは別のアカウントを使って。私にその人に対して嫌悪する資格なんて、ない。
「その人、私のクラスメートの従兄弟で、2人で撮った写メを知らない間に自分のスマホに送ってたらしくて、同じ電車で通ってるって教えたのもそのコで……。本人は無理やり聞かれた、写メも知らない間に転送されたって言ってるけど、それもホントか分からなくって……」
私は柊人さんのライブ配信を見てた。元カノにまた付き合ってもいいなって思わせるくらいいい男になるって伝えて、結局また振られたって報告を聞いてた。とってもプライベートな話で、とっても辛い話。それを柊人さんに告白する前、私の顔もまだ知られてなかった時に聞いていた。
「私のせいで、柊人さんを危ない目に合わせちゃった。怪我もさせちゃった。ごめんなさい。ごめんなさい……、ごめんなさいっ!!」
ぼろぼろと流れ落ちる涙を止められない。私が原因で柊人さんが殴られた。柊人さんが私を守ろうとしてくれた。私だけでも逃がそうとして、庇ってくれた。私がちゃんと前に出て、あの人達に説明していれば、彼氏だって嘘を付いている人に問い詰めていれば、こんな事にはならなかったのに……!!
「それは違うでしょ? 冬花のせいじゃないよね? 冬花は何も悪くないよ。悪いのは自分の彼女だって嘘付いた人で、それが原因な訳でさ、冬花は悪いことしてないじゃん。あの状況でクラスメートの従兄弟が付いた嘘に気付ける訳ないよ」
違う、違うの……。
「冬花が悪い男にちょっかい出されてるんじゃないかって、友達の彼女を守ってやらなきゃって思っての行動でしょ? 事情も聞かず手を出すのはダメだけど、その気持ち自体はすげぇなって思うよ。俺だったらそこまで出来ないかも知れないもん」
あぁ……、柊人さんは自分を怪我させた人の事までちゃんと考えられる人。とっても優しくて、例え痛い思いをしても事情さえ分かれば許せてしまえる人。すごい、やっぱり好きだ。
でも、私が好きになったらダメだったんだ。こんな好きになり方、間違ってるんだ……。
「彼女だって嘘付いた人もさ、まさか友達と遊んでる時に鉢合わせるとは思ってなかっただろうしね。そういう嘘付きたくなる気持ちも、まぁ分からなくもないよ。同じ男としてね。でもあの状況で友達が手を出すまでに何とかしろよなとは思うけどさ、言えないよね、すんごいカッコ悪い状況だし」
そう言って、柊人さんは何でもないような顔をして笑う。含む事ない、私が大好きな笑顔。
ダメだ、正直に全て話そう。話して、謝って、許してもらえなくても謝って、さようなら、しよう。
「柊人さん、実は聞いてほしいお話があるんです」
柊人さんの目を見れない。肩の震えを止められない。声が上擦り、心臓の音がうるさくて逃げ出したくなる。
「私が柊人さんに告白した日、あの日よりもずっと前から柊人さんの事を見ていたんです」
「実は、ふとした時に柊人さんのスマホが見えて、SNSのIDが分かったんです。それで、後でアカウントを検索して、それからずっと柊人さんの投稿を読んでました」
「どこの大学に通ってるのか。学部がどこなのか。どんなバイトをしているのか、そんな事も全部投稿を見て知りました。デレレテやってるって分かって私もデレレテを始めました。改さんとなのちさんとのやり取りも多分全部読んでます。バイトとストレスで潰れそうになっている時の投稿も読んでました。橘氏、柊人さんの投稿が気になって気になって、わざわざ普段使うアカウントとは別のアカウントを用意して、柊人さんの投稿を覗き見してたんです……」
「こんな私が、写メを転送して、付き合ってもないのに俺の彼女だって友達に言っていた人の事、非難出来ません。出来ないんです。私も同じような事をしていたから。しているから。彼氏を傷付けた人だけど、私はその人と同じような事をしてた……。私を守ってくれて、怪我までさせてしまった柊人さんに対して、後ろめたい気持ちでいっぱいなんです! ……、だから私、柊人さんとお付き合いする資格がないんです。本当にごめんなさい。気味の悪いネットストーカーみたいな、いえ、ネットストーカーをしていてごめんなさい。怪我までさせてしまってごめんなさい。楽しかったです、ありがとうございました」
ごめんなさいとありがとうは言えるのに、どうしてもさようならが言えない。うぐうぐと喉を鳴らし、涙と共に出て来る鼻水をハンカチで拭い、何とか伝えないとと思うのに言葉が出ない。
そんな私を見て話が終わったと判断したのか、柊人さんがサイドボードに置いてあったスマホを取って操作する。柊人さんの顔が半笑いのような気がするんだけど、何しているんだろうか。
「これ見て」
スマホを手渡された。これは、SNSアプリ? 日付は昨日だ。でも、柊人さんのアカウント名が橘は俺の嫁@デレレテPじゃなくて……、えっ!?
ふーかを守る会会長:ふぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁぁぁいしてるぅぅぅぅぅ可愛い可愛い可愛い大好きぃぃぃやっふぅーーー!!
Mr.TwentyThree:ふーかちゃんのふーかちゃんによるふーかちゃんの為の橘きゅん!!!!
腰水着大好き丸:ふかふかふーかふかふーかーカモンッщ(゜ロ゜щ)!!!
え~っと、何ですかね~コレは……?(困惑)
次話は7月23日月曜日、朝8時に投稿予定です。
よろしくお願い致します。




