その12
「はぁ、はぁ、ゴメンね、お待たせ」
「いえ、大丈夫ですよ。それより何で走ってたんですか?」
全然待ってない。むしろ急に走って戻って来たからビックリした。けど嬉しい。柊人さんが帰って来た。
「え? あ~、ゴメン。実はミルクティーが売ってなくてさ、どうしようか迷ってたら時間掛かっちゃって。カフェオレとお茶と買ったんだけど、どっちがいい?」
そう言い終わった後、柊人さんは何か遠い目をして考え込んでしまっている様子。え、もしかして隠れていいねしてるのが私だと気付かれた、とか……? ちょっとそれはマズい、いやマズくないか。いつかは話さなければいけないと思う。でも、まだもうちょっと、もう少しだけ先延ばしにしたい気もする。
「柊人さん?」
「ご、ゴメン! ちょっと考え事してた!! え~っと、どっちがいいかな?」
「お茶の方を貰っていいですか? 私コーヒーはどうしても苦手で」
コーヒーの話も、いつかは聞いてもらおう。私の好みの事とか。聞いてもらうだけじゃなく、私も聞きたい。柊人さんの好きな手料理とか……。
柊人さんからお茶のペットボトルを受け取り、キャップを開けて口を付ける。ひんやりとしておいしい。ふぅ、ちょっと落ち着いた。やっぱりテンション高めだよね、今の私。変な失敗しないように気を引き締めないと。
「それで、考え事って何を考えていたんですか?」
柊人さんがカフェオレのキャップを開けてぐびりと飲む。喉仏が大きく上下して、男性っぽさを感じた。でもその表情は、どこか困ったような風に見える。
「もしかして、私の告白にどう返事しようかと迷ってますか……?」
即答は来ない。ならば、私の気持ちを伝えるだけ。嫌いだ、会いたくない。そう言われない限り、私は柊人さんを想い続けられる。
「私は柊人さんの事が好きです。多分、これからもっともっと好きになって行くと思います。今日初めて会った私の事を、柊人さんはまだ好きだと思えないかも知れませんけど、いろんな私を知ってほしい。いろんな私を柊人さんに見てほしい。一緒にいろんな事を見たいなって思うんです」
SNSで会話する柊人さんも好きだけど、やっぱり2人で顔を合わせて直接お話したい。手を繋いで歩きたい。色んなところへ出掛けて、同じ景色を見たい。
好きだって、堂々と言いたい。
そう……。私は今、正々堂々な恋の戦いを、していない。少し後ろめたくなって、顔を伏せる。少しズレた眼鏡をサッと直して顔を上げ、柊人さんの目を見つめる。あぁ、やっぱり好きだ……。でも、だって、そんな言葉が浮かぶけれど、自分の気持ちにだけは正直でいたい。
例え柊人さんに、伝えられない事があったとしても……。
「好きです、付き合って下さい」
心臓がバクバクと音を立てる。こんなに緊張したの、久しぶりかも知れない。顔がすごく強張っていると思う。でも、今は顔を伏せず柊人さんからの返事を待つ。目を見つめたまま、彼の言葉を聞きたい。
柊人さんの口がゆっくりと開く。少し遅れて、彼の声が私の耳に届いた。
「よろしくお願いします」
キタワァァァーーー.*:.。.:*・゜(n‘∀‘)η゜・*:.。.:*☆
あああああぁぁぁ!! 聞いた!? ちょ、えっ……、聞いてた!? 聞いたよねっ!! え、今私どんな顔してる? 不細工じゃない? 大丈夫? ちょっと自分の表情を気にしていられないくらい嬉しくて胸が締め付けられて苦しくて、訳分かんないけど嬉しい!!!
柊人さん、私と付き合ってくれるって言ってくれた!!
それから私はSNSを覗き見て知った柊人さんの情報を、彼の口から教えてもらう事で上書きした。情報源を覗き見た情報から、柊人さんの口から直接教えてもらった、という事に置換して行く。根掘り葉掘り聞かないように気を付けながら、柊人さんの言葉に相槌を打つ。
「そっか、バイトも大変なんですね。やっぱりお金を稼ぐって大変だ」
「そうだね、お金を貰っている以上、適当な事は出来ないよね」
ふいに目が合う。胸がキュンとする。痛みなのか、心地良い温かさなのか、それとも両方なのか。そわそわするのか、落ち着くのか、苦しいのか楽しいのか、その全てなのか。
自分の感情を把握出来ないまま、柊人さんに笑顔を返す。彼の目が、とっても優しい色をしている。
柊人さんが小さく咳払いをしながら、話題を変えた。
「冬花ちゃん、さっきまだ俺は冬花ちゃんの事好きじゃないかも知れないけどって言ったじゃん。あれさ、違うよ?」
「え? 何ですか突然」
好きじゃない、じゃない。なら、大好きって事かな? そうだと言ってほしいな。
「俺さ、もう冬花ちゃんの事、好きだから。大好きだから。大切にしたいって思ってるから。だからさ、俺は変わろうと思うんだ」
うん、と頷いてみせる。期待していた事以上の言葉に、本当は今すぐにでも抱き着いて、身体全体で柊人さんの温もりを感じたいけど、今は彼の言葉を感じよう。
「店でさ、こんな俺が兄だと思われてしまって申し訳ないって言ったじゃん。その時冬花ちゃんは怒ったけど、あれは俺の本心なんだ。だから正直迷った。冬花ちゃんの事好きだけど、俺なんかが冬花ちゃんの隣にいてもいいんだろうかって悩んだ。でも好きなんだ、冬花ちゃんの事。だからさ、だったら変わればいいんだって、今は思うんだ。冬花ちゃんの隣に堂々と立てる男になろうって」
私の為に、変わる……? いいよ、そのままの柊人さんが好きだよ? でも、もっと好きにさせてくれるって意味なら……、そう期待してもいいって事なのかな?
またカフェオレに口を付け、小さく息を吐いてから柊人さんが続ける。
「好きだって言ってくれてありがとう。好きな人の悪口を言うなって怒ってくれてありがとう。お蔭で自分の事、好きになろうって思えた。冬花ちゃんにもっと好きになってもらいたいって思えた。本当にありがとうね」
これ以上好きになったら、私どうなっちゃうんだろう……。ちょっと怖いけど、すごくポカポカして、カッカして、キュンキュンする。じわぁ~って世界が溶けて行くような、そんな感じだ。
「これから、ずっとずっと、よろしくね?」
コクッと頷くだけで、ハラリと涙が零れてしまった。あぁ、これは嬉し涙。流してもいい涙、だよね?
そろそろ行こうか、と出された手を握り、私達は電車に乗った。私が降りる駅に着くまでずっと感じていた柊人さんの体温。手と手が離れると、喪失感からもう一度握り直そうと無意識に手を伸ばしてしまった。けどダメだと思い直し、その手を胸に持って来て、小さくバイバイと揺らした。
喪失感もあるけれど、胸の中には充実感で満たされているから大丈夫。身体は離れていても、心が離れなければいいんだ。電車のドアが、2人の空間を裂いて走り出す。
伸びをして、深く息を吸って深呼吸。自分の吐いた息に色が付いているような錯覚。とても温かい色をしているように見える。とても気分がいい。そしてとても寂しい。
だから鞄からスマホを取り出してホームのベンチに座る。ちょっとだけ、もうちょっとだけ柊人さんを感じていたい。
橘は俺の嫁@デレレテP:彼女とのデート終わりました
バイバイ直後のデート報告……、こそば痒い。止めてよもう、って投稿したい気持ちをグッと抑える。
な2の3ち@小説家になりたいな:へぇ~、彼女とデートね! うらやまけしからん!!
Mt.フォーチュン改@デレレテP:爆発爆発さっさと爆発!!
橘は俺の嫁@デレレテP:彼女はいいぞぉ
……、彼氏もいいんだぞぉ。
な2の3ち@小説家になりたいな:幸せそうで何よりw
Mt.フォーチュン改@デレレテP:彼女のどんな所が好きなのかkwsk
橘は俺の嫁@デレレテP:え~? 好きなのに理由って必要ですかぁ~?
ぷぷぷっ、柊人さんは今どんな顔をしてスマホをフリックスワイプしているんだろう。いつもなら無表情なんだけど、今だけは半笑いくらいしてて欲しいな。そういう気持ちを込めて、3人の投稿にいいねを押して回る。
やっぱりすぐに気付かれて、あの子だあの子だという投稿が飛び交う。そうそう、あの子です。柊人さんの、あの子です。ん? それだと私は幽霊って事になっちゃうのかな? それはヤだな。
やっぱり見えない存在は嫌だ。近いうちに、柊人さんに打ち明けよう。ごめんなさいをしよう。
好きなのに理由って必要ですか? って私は言ったけれど、本当は私があなたを好きな理由は数え切れないほどあるんですよ。
いつか近いうちに、1つ1つ教えますね♪
これにて2章終了です。
キリが良いので評価を入れて頂けると嬉しいです。
次話より3章開始。
投稿は少し時間を空けて6/25月曜日にしようかなと思っております。
(投稿日時変更の可能性あり)
以上、引き続きよろしくお願い致します。




