その9
『サークル活動の関係で4時半に間に合いそうにない、ごめん!』
柊人さんからの連絡。ちょうど今から教室を出ようと準備をしていたところだった。タイミングいいなぁ、セーフセーフ。
『そうなんですね、分かりました。柊人さんさえよろしければ、大学のある駅の近くで待ってていいですか?』
返信してから気付く。私は柊人さんから直接大学生だとか、どこの大学に通っているだとかを聞いていない。どうしよう、今のメッセージ取り消そうかなと焦っていると時既に遅し、既読になってしまった。
『マジで!? 終わったらすぐに連絡するから! 駅出てすぐにファストフード店があるからそこで待ってて』
うんマジマジ、待ってる待ってる。柊人さんがどこの大学に通っているのか、私が知っている事を不審がってないみたいだ。自らサークルって言葉を柊人さんが使ってるから、こじ付けで言い訳をする事も出来るし大丈夫かな?
『ごゆっくりして下さいね。待っている時間もデートの時間だって聞いた事がありますから』
おかしい。何でこんな恋する乙女みたいな芳ばしいセリフが自分の中から出て来るのか……。あ、恋してるからか。
柊人さんは返信に迷ったのか、可愛らしいスタンプを送って来るのみだった。何となく彼らしいな、と思った。
私からすれば家とは逆方向の電車に乗り、柊人さんの通う大学近くの駅に到着。駅を出るとすぐにお店を見つけた。オレンジジュースのみを頼み、外がよく見える席に座る。
スマホを取り出してSNSアプリを立ち上げる。柊人さんの投稿を見ると、『ヤバい』『遅れる』『早く』『あ~~~』などの短い言葉が連投されていた。『スマホ見ながら歩いた方が早くね?』いやいや、それはダメです。ちゃんと前を見て歩いて下さい。
なのちさんも改さんも柊人さんの投稿を見ていないのか、誰からのいいねもなかった。ちょっといいねを付けたいな、という悪戯心が沸き上がって来る。いいね、付けちゃおうっかな~なんて考えていると、『駅到着』という最新の投稿。ダメだ、今付けたらあからさま過ぎる。自重自重。
スマホを鞄に仕舞い、大きな窓の外を眺める。柊人さんが歩いて来るのが見えるはず。来た来た、って手鏡で髪型とかチェックしとけば良かった! でももう遅い。小走りしている柊人さんに小さく手を振ると、すごくビックリしたような顔になった。何で? やっぱり髪型変だったかな!?
「ごめんね待たせて! えっとジュースだけ? お腹減らない?」
「いえ、そんなに待ってないですよ。ちょっとお腹減ってる、かも」
髪型の事が気になって変な返事をしてしまった。でも柊人さんはニコッて笑って、摘まめる物買って来ると言ってカウンターの方へ歩いて行った。今のうちに髪型チェックしておこう。
鏡に映った私は、いつもよりも可愛い顔をしている気がした。これでダメならダメなんだろう、そんな変な覚悟をして、戻って来た柊人さんを見つめる。
「お待たせ、ポテト食べてね。俺ポテト大好きだからいっぱい買っちゃったわ」
「私もポテト好きですよ」
鏡を見なくても分かる。今私は超絶に可愛い。ただ男の人と向かい合って芋を食べているだけだというのに、とんでもない幸せオーラを振り撒いていると思う。控えめに言って超可愛い。これが恋というバフを掛けられた乙女の力!
そんな最強ヴァルキリーな私に対して、イベントボスである柊人さんはとんでもない攻撃を仕掛けて来た。
「あのさ、冬花ちゃん。何で俺を好きだって言ってくれたの?」
ど、どうしよう……。そんなの決まってるのに。全部好きっ!!
フォロワー相手にバカな話をしているあなたも、デレレテでいいスコアが出ないからってイライラしているあなたも、私を気遣ってくれるあなたも、バイトの人間関係で悩むあなたも、サークルへ新入生がたくさん入ってくれるにはどうしたらいいか試行錯誤するあなたも、弱いあなたも、人見知りなあなたも、全部全部好きなんです。全部全部知ってる上で好きなんです!!
って伝えられたら、どんなに素敵だろう……。
悲しいけど、私にはあなたの事全て知ってますよ、いつも見ていますよって伝える資格がない。
ただの覗き見だから。ただ一方的に知っているだけだから。本当なら声を掛けるのすらダメだったのかも知れない。ルール違反だったかも知れない。
でも、もう知り合ってしまった。柊人さんは私を見てくれている。それだけでとっても幸せなのを、私はもう知ってしまったんだ。知ってしまったんだよ……。
今さらダメな事してました、ごめんなさい。なんて、言えないよ。
あ、そうだ。恋するバカになろう。直感だけで生きているかのようなパッションガールになろう!
私はもう、柊人さんから離れたくない。恋する猪突猛進タイプになろう!
「好きなのに、理由って~……、必要で、すか?」
噛んだ~~~!!!
次話は明日7時に投稿予約済みです。
合わせて、よろしくお願い致します。




