その6
橘は俺の嫁@デレレテP:元カノから連絡が返って来たので、結果発表をライブ配信したいと思います
今日は塾がなく、進路指導も済ませている為にいつもより早く帰宅した。学校では休みの時間になるたびにスマホで彼の新しい投稿がないかを確認して過ごしており、友達に心配を掛けてしまった。
少し落ち着こう、そう思い彼の投稿を確認するのを止めて過ごそうとするも、すぐに気になってスマホに手を伸ばしてしまう。そしてまた止めようと思ってまたスマホを見るというダメな悪循環に陥っていた。
夕食の際もずっと落ち着かずにソワソワしていて、お母さんに変な目で見られていたような気がする。いつもはお父さんの後にお風呂に入るんだけど、今日はもうずっとイライラというか、ムカムカというか、心ここにあらず状態だったのもあり、誰に断るでもなく一番にお風呂に入ってしまった。
そしていつもよりも早くお風呂から上がり、自室に戻って無意識にスマホを触っての先ほどの彼の投稿だ。
何? ライブ配信で結果発表……?
な2の3ち@小説家になりたいな:おい! こっちのアカウントでいいのか?www
橘は俺の嫁@デレレテP:は? 何が?(威圧)
Mt.フォーチュン改@デレレテP:あ……(察し)
少しすると彼がライブ配信のURL付きの投稿をした。すぐにそのURLをフリックし、ライブ配信ページへと飛んだ。画面背景はデレレテの橘になっていて、彼の顔が映る事はないようだ。
『いらっしゃいませ~』
ビクッ! とした。これが彼の声、思っていたよりも少し高め。緊張しているのか、少し上擦っているような気もする。
な2の3ち@小説家になりたいな:初見です
Mt.フォーチュン改@デレレテP:初見です
『初見じゃないでしょ、ありがとうございます』
彼の笑い声。彼が笑っている。それだけの事で、何故か自分がすごくほっとするような、安心したような気持ちになっているのに気付く。良かった、彼は笑ってるんだ。それだけでとても気分が落ち着く。
『はい。ではね、ご報告なんですが、どうやらなのちさんと改さん以外にも聞いて下さってる方がおられるようなので、一応何の報告なのかを言っておきますね。よろしければコメント頂けるとありがたいでーす』
そうか、ライブ配信を見るだけでは私のアカウントが彼には伝わらないんだ。何も考えずにライブ配信を見に来てしまったけど、とりあえず今は聞くのみに留めておいて、コメントはしないようにしよう。
『まずね、昔私が付き合っていた、うん、お付き合いのような事をしていたお相手にね、もう一回付き合ってもらえるように、自分を変えてみようと思うんだっていう宣言をしたのね』
うん、それは知っている。知っているからどうだったのか続きが聞きたい。
『相手にね、今彼氏がいないのは知ってたのね。ちょっと性格的に、男の子って嫌だわっていうコなのね。じゃあ何で俺と付き合ってくれてたの? って感じだけど、まぁそれは置いておいてね』
コメント欄でなのちさんと改さんが何やらコメントを入力しているみたいだけど、今はそれよりも元カノの返事がどうなったのかという一点のみが気になって、コメントを確認している余裕がない。
『分かった、分かりました。それでは発表しますね~、何と! ダララララララララ♪ ダンッ! 振られました~。どんどんぱふぱふぅ~♪』
……。
『え~っとね、簡単に言うとね、元カノと付き合ってた時は結構精神的に辛い事が一杯あってね、それをそのまま話聞いてもらってたのね。それですごく負担を掛けてたんだよね。それは当時元カノの友達とかから言われてて、あの子に負担掛け過ぎないでって言われたのが別れた原因なのね。で、今回振られた理由だけども、もしまた俺が辛い思いをした時にね、私は支えられないよって事なのね。何でかって言うと、俺よりも自分の事の方が大事だから、辛い思いを共有出来ないって』
…………。
『これってすごく難しい話なんだけどね、俺には突き放されたって感じではないんだよね~。むしろお互いの事お互い一番理解しているって感じの、何て言うかな、親友? 的なあれになっちゃってるんだよね。だからね、分かっちゃうの。元カノが優しさで言ってくれてんのが分かっちゃうんだよ。お互い自分自身を一番大事にしようって事なんだよ。俺ってさ、自分を大事に出来ないんだよね。それを元カノは分かってるからさ、そんなあなたを支えられないよって。いくら支えても重たいだけでさ、俺は自分の足で立ってないからさ、元カノが重たい思いをしてさ、俺を支えてくれたとしてもさ、共倒れするんだよ。そうなったらね、俺は自分を責める訳ですよ。何で俺のせいで元カノを苦しめてるんだろうって。だからね、元カノは俺と距離を置くんだよね。あぁ、そこまで詳しく言われた訳じゃないんだけどさ、分かっちゃうの。うん、分かっちゃった。分かり合ってるからね、分かるんです。ハイ』
………………。
『と言う事で、一周回って結局は自分に自信を持って、自分をもっと大事に出来るようにならないとダメだって事っスね。そしたら元カノにも振り向いてもらえるかも知れないけど、もう元カノはいいや。改さんやなのちさんが言うみたいにね、ちょっと風俗でも行って来るかなぁ~って思った。何か変わる、かも……? 的な。もうね、女の人に優しくされたいんだよっ!! でも変に気を遣ったりね、遣われたりってね、嫌なんですよね。このままの自分を受け入れてくれる人がいいね。それがさ、例えお金の上の関係でもね、いいんですよ。だってね、お金の関係以外でそんな都合のいい事言ってくれる人って、いないじゃないですか~。理由なく好きって言ってくれる人なんていないっしょ!? だから今はいい、彼女じゃなくてもいいんです。女の人に触れて、癒されたい。君は君のままでいいんだよ~って肯定されたい』
つつつっ、と頬を伝う涙。泣いているのは、私? 私は何で泣いているんだろう……。
『と、言う訳でね、私の元カノへの告白? は、お断りされてしまいましたとさっ。何かね、ちょっとスっとしたね。少しだけ気分がいいですね』
何で? 何でそんな平気そうな声なの?
『多分もう元カノからの連絡は来ないでしょうね。もしかしたらもっと男嫌いにさせちゃったかも知れないのが、申し訳ないなって気がするんですけどね』
何で自分の事よりも相手の事を思えるの? 何でそんなに優しい声で話せるの?
『はぁー、さーてどうしましょうか。時間余っちゃったから何しましょう。ね、せっかく聞きに来てもらってるんだから面白い事しないとね。最近あった失敗談でもしましょうか? ははっ、結局バイトの話に戻んだね』
「何でそんなに笑えるの!? 何で顔も知らない人にそんな気遣いが出来るの!? 今一番辛いのはあなたなのに!!」
コンコンコンッ。
「冬花、どうした? 大丈夫か?」
ハッ! 思わず大きな声を出してしまった。いつもなら私は寝ている時間。部屋から声が聞こえた事で、お父さんに心配を掛けてしまったみたいだ。
「ごめんなさい、ちょっと怖い映画見てたらびっくりしちゃって……」
「……、そうか、それならいいんだ。お休み」
「うん、ごめんね、お休みなさい」
ドア越しにお父さんと話をしている間に、ライブ配信の時間が終わってしまっていたらしい。まさか自分が聞こえもしない相手に向かって叫ぶとは思ってもみなかった。恥ずかしいよりも、びっくりよりも、今のこの気持ちを彼に伝えたいという思いが胸いっぱいになり、自分で自分の身体を抱き締めてしまった。
彼の声が聞きたい。彼の笑顔が見たい。彼の不安を聞いてあげたい。彼と一緒に笑い合いたい。
あぁ、私はいつのタイミングで彼の事が好きになったんだろう……。
次話は明日7時に投稿予約済みです。
合わせて、よろしくお願い致します。




