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彼女は僕に、小説家になろうと言った。  作者: 宮野遥
第1章 あなたのファンになりました
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第4話 小説執筆の手引書

 翌日の放課後、文芸部の部室にて。


 僕はアドバイスを受けるために彩風さんと向き合っていた。


 直接会って話をするなら連絡先交換した意味ってあったのかなとも思ったけど、僕に不利益はないし黙っておこう。


「さて、これから相談することだけれど、そもそも白石君の技量を知らないから、そこについての助言はできないわ」


「ああ、うん。そうだよね。とりあえず一回書いてみなきゃ分からないし」


 当然のことだ。


「なので、ここでは基本的な注意と、どんな内容のものを書くかの相談だけにしておきましょう。最初からああしなさいこうしなさいと雁字搦めにしても、執筆がつまらなくなるだけでしょうしね」


「うん、そうしてもらえると助かるよ」


「では、まず注意事項ね。白石君はなろう民のようだし、知っていることも多分にあるかも知れないけれど、一応聞いておいてくれると嬉しいわ」


「もちろん、お願いします」


 もしかしたら、知らないうちにやってはいけないことをやってしまうかもしれないから、こういうのは大事だよね。


 彩風さんは人差し指を立たせる。


「一つ目。段落の最初の文字は、全角スペースにすること」


 そして、彼女は例と書かれた紙を差し出してきた。





明日も元気に執筆だ。

    ↓

 明日も元気に執筆だ。




 よく見ると、彼女の手元には似たような紙がいくつもある。これからの注意事項全てに対応してるのかな。


「それは、文章を書くときの基本だよね。小学校の時に作文の授業で教わったなぁ」


「ええ、そうね。これを知らない人はあまりいないでしょう。とはいえ、これに関しては徹底していない人も一定数いるから、絶対というわけではないのだけれど」


 彩風さんは更に中指を立てた。


「二つ目。会話文の最後の文字に句点はつけない」





「執筆って、面白いなぁ。」

  ↓

「執筆って、面白いなぁ」




 これは小説を読んでいる人なら普通に知っているルールだろう。


 彼女は更に薬指を立て、三を表した。このままいくと五で終わりかな?


「三つ目。感嘆符や疑問符の隣に次の文章を書く時、間を1マス空ける。これは読みやすくするためね」





 宿題終わった!これでやっと執筆できるよ。

  ↓

 宿題終わった! これでやっと執筆できるよ。




「彩風さん、さっきから例文で僕のこと洗脳しようとしてない!? ブラック企業の宣伝みたいに、やたらと執筆の楽しさを強調してくるんだけど!!」


「失礼ね。そんなわけないでしょう」


 嘘だ! いつも無表情なのに今に限って心外そうな表情を浮かべるとか、どう考えても演技じゃん!


 ……まあいいや。今そんなことは関係ないしね。


「では、次に行きましょう。四つ目は、文章中に顔文字や『w』などを入れないようにすることよ」





 執筆ってマジサイコー♪( ´▽`) 楽しすぎてそれしか考えられなくなっちゃったよ(≧∇≦)

 この中毒性は薬物より上だわwww

 ↓

 執筆ってマジサイコー! 楽しすぎてそれしか考えられなくなっちゃったよ。

 この中毒性は薬物より上だわ。




「宣伝がいきすぎて、とんでもなく小説書くのやめたくなってきたんだけど、なにこの例文!?」


「私の心の中よ」


「怖ッ!? え、怖ッ!!」


 それをマジトーンで言うのやめてもらえません?


「まあ、冗談はさておき。これは今までのどれよりも徹底してもらいたいわね。これを一度使っただけでも、読者が引いて読むのをやめてしまう危険性があるわ」


「……本当に冗談なんだよね?」


「あ、でも、作中に出てくるネットの掲示板内で使ったりするのはもちろん問題ないわ。普通の文中に入れるのがダメというだけで、適当な場所で使うのであれば当然大丈夫よ」


 なんで僕の質問スルーされたの!? 触れるなってこと?


 余計怖くなってきたんだけど。


 動揺しまくっている僕を無視し、彩風さんは5本目の指を立てる。次が最後かな?


「五つ目。三点リーダに中黒を使わないこと。もちろん読点を使うっていうのは以ての外で、三点リーダを一つしか使わないっていうのも駄目だから注意しなさい。使うなら二つずつよ」





 明日も学校か・・・。面倒だな、、、。これじゃ小説も満足に書けないよ…。

 ↓

 明日も学校か……。面倒だな……。これじゃ小説も満足に書けないよ……。




「これは例文ということでそのまま三点リーダ二つに置き換えたけれど、本来であれば使いすぎになるので要注意ね。『……』や『——』の乱用は厳禁」


 確かに、そればっかりだと違和感があるよね。


 彩風さんは立てている親指を曲げた。


「次は六つ目よ」


「さっきので終わりじゃなかったんだ!?」


「何言ってるのかしら。一度も五つしかないと言った覚えはないのだけれど?」


 ま、まあ、それはそうだけど、普通その指の使い方で一桁後半まで行くと思わないじゃん。


「とはいえ、今度で最後だからあまり気を張らなくていいわよ」


 あ、そうなんだ。


「最後の注意事項は、文体を途中で変えたりしないようにすることよ。キャラクターの性格や口調が変わるのも当然アウト」





 僕は小説を書きたいと思いました。だから、俺は時間を作って書き始めたぜ。

 ↓

 僕は小説を書きたいと思いました。なので、僕は時間を作って書き始めました。




「こんなところね」


「…………」


「どうしたのかしら、白石君。急に黙ったけれど」


 彩風さんが首を傾げながら聞いてきた。


 うーん、別に大した理由ではないんだけど。


「なんとなく、どこかの誰かへ向かって、盛大にブーメランが飛んで行ったような気がしたんだよね」


「……よくわからないのだけれど、特に何か問題がある訳ではないのよね?」


「う、うん。そうだけど」


 なんだろう、この感覚。まあ、どうでもいいか。


「では、白石君。注意事項はこのくらいにして、小説の内容について相談しましょうか」


「そうだね。頑張って作っていこう」

今話に出てきた注意事項は、あくまで作者が勝手に思っているだけのものです。これを絶対に徹底しなくてはならないということではありません。念のため。

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