第3話 執筆は連絡先とともに。
『クラス召喚に取り残されたら、魔王様になった件について』
それが、彼女、彩風真由さんが書いた小説だった。
内容は題名の通り。
主人公のクラスが異世界に勇者として召喚されたけど、主人公はたまたま教室の外にいたので免れてしまった。と思ったら、すぐに魔王として異世界召喚されてしまう。そして、魔王軍を立て直しつつ、勇者として召喚されたクラスメイトを探す。
というものだ。ゴリゴリの異世界転生系である。
ヒロインたちのきわどい描写も出てきて、本当にこの人が書いたの!? みたいなことはあったけれど、話の展開が良かったので最新話まで楽しく読むことが出来た。
最後にはもちろんブックマークを。
「それで、白石君。どうだったかしら?」
不遜な、しかしどこか不安そうな表情で聞いてくる彩風さん。
「うん、面白かったよ。特に、一章や二章のクライマックスでの主人公が覚悟を決めた時が凄くカッコよかったかな」
「そ、そう。ありがとう」
それにしても、気になったことが一つ。
「そういえば、この題名、今朝の日間ランキングで見た気がするんだけど」
「……え!? 本当に!?」
掴みかかってくるような勢いで確認してくる。
いつものキャラが壊れるのも厭わないくらいの重大事なのかな。
「うん、多分載ってたと思うけど……。ちょっと確認してみよう」
スマホでなろうの総合日間ランキングを検索する。
◇◇◇◇
289位 ダブル転生〜能力コピーしていたらいつのまにか最強になってました〜
作者:スイート・ういろう ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕
78pt 連載中(全36部分)95,483文字
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290位 クラス召喚に取り残されたら、魔王様になった件について
作者:相柳ゼロ ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕
78pt 連載中(全32部分)161,732文字
あらすじ等 ∨
291位 その後、彼は・・・
作者:ヤマト ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕
78pt 連載中(全45部分)160,572文字
あらすじ等 ∨
◇◇◇◇
やっぱり、ちゃんと日間300位に入っている。
「嘘……本当に……!」
満面の笑みでスマホを見つめる彩風さん。
そんなに嬉しかったのかな。いや、それも当然だよね。自分の作品が世界に認められた証明みたいなものなんだから。
「教えてくれてありがとう、白石君。感謝するわ」
「大したことじゃないよ。多分、僕が言わなくても読者の誰かが気づいてコメントしてただろうし」
「これで……これでまた一歩、目標に近づけた……!」
僕の言葉も耳に入っていない様子で、相当浮かれている。
なんというか、今日だけで彩風さんの色んな一面を見た気がするなぁ。
ついさっきまで、こんなに感情豊かでなろう好きだとは夢にも思わなかった。
「時に、白石君」
「どうしたの?」
どうやら現実世界に戻ってきたらしい彩風さんが、僕に話しかけてきた。
「マイページを見る限り、あなたは小説を投稿したことはないのよね?」
「え? う、うん、まあ、そうだけど」
「なら、あなたも小説を書いてみてはどうかしら。わからないことがあれば、私が教えてあげるから」
「えぇ!? 僕が書くの!?」
何を言いだすんだろうかこの人は。
「私、作家の知り合いっていないのよね」
「だ、だからって、なんで僕が?」
「白石君ならライトノベルにも詳しそうだし、確かあなた現国の成績良かったのよね?」
「ま、まあ一応5は取ってるけど」
「それならきっと書けるわ。それに、今回のお礼に私ができることなんて、小説の指導くらいしかないでしょうし……」
いや、だから別に大したことはしてないって。
「それに、そう。あなた、私のメモ帳を勝手に見たのよね?」
弱みを狙い始めた!? 彩風さん、それは卑怯だって!
……いや、それに関しては確かに僕が悪いんだけどね。
「白石君。私と一緒に小説家になりましょう」
「う……わかったよ。その代わり、きちんと書き方とか教えてね」
「ええ、もちろんよ」
そう言った時の彩風さんの表情は、ランキングに入っているのが分かった時と同じくらいに嬉しそうだった。
◇◇◇◇
自室にて。
僕はスマートフォンの画面を見て、一人でニヤついていた。
主観的に見ても、客観的に見ても、完全に言い訳の余地なく危ないヤツなのだが、そうなっても仕方がない理由があるのだ。
何故なら、そこにはクラス1の美少女である彩風真由さんの連絡先が表示されているのである。
あの後、執筆に関するアドバイスをしてもらうために、連絡先の交換をしたのだ。
「やったーァァァ! あの時の僕、超ナイス! これで勝つる、新しい時代の到来——」
「お兄ちゃん、何やってるの?」
「——だァ……って、うわ!? 梓!?」
一人で大はしゃぎしている僕を冷めた目で見つめているのは、僕の妹である白石梓だった。
「い、いや、それは……なんて言うか……」
「そのスマホに何かあるの?」
梓は悪戯げに微笑んで、画面を覗き込んできた。
「あ、女の子の名前! もしかして彼女ができたの? だから浮かれてたんだ」
「い、いや、そうじゃなくて、その人はなろうでランキングに入った作家で……」
そうやって弁明すると、彼女はつまらなそうな顔になった。
「な〜んだ、またなろう仲間の人か。お兄ちゃん、本当になろう好きだね。高二になってもそれじゃ、本当に彼女できないよ?」
「う、ほっといてよ。だって彼氏はいないじゃん」
「わたしはまだ中三だからいいの。恋人は高校生になってから作りますぅ」
ブーメランを投げてみると、頬を膨らませて不機嫌になってしまった。
でも、恋人か……。
彩風さんみたいに綺麗な人と恋人になれたらいいなぁ。
と、そこまで考えてから、ふと思った。
そういえば、僕と彩風さんの関係ってなんて呼ぶんだろう。
クラスメイト? 友達? 同趣味の仲間?
それとも——