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モモコ ―小説版・桃太郎―  作者: 坂本小見山
第Ⅰ部 桃子 -Momoko-
3/8

第三回「凱旋」

  (十一)



 モモコたちは、港町に泊まり、翌日、猿と出逢った山を越えた。そうして、モモコの住む田園にたどり着いたのは、戦いの翌日の昼であった。


 稲刈りをしていた農民の一人が、遠くの山道を下るモモコたちの姿を認めると、急いで他の農民を呼び集めた。

 モモコが、財宝を積んだ荷車を押す従者たちを伴って町に着いたときには、農民は残らず集まっており、その先頭には、一組の老夫婦がいた。

 モモコは、彼らに深々と辞儀をした。

「父上、母上。『(れい)』を征伐して参りました」

 彼がそう言うと、農民たちの中から、大きな喝采が上がった。

 猿は、モモコの両親があまりに高齢であることを訝しんだが、詮索は止した。



 その夜、村では、財宝を囲んで、勝利を祝う宴会が開かれた。

 雉と猿もまた、農民たちと共にキビの独立を喜びあった。特に雉は、自分の武勇を意気揚々と語った。村の小さな子供たちは、彼らの言葉を通訳し、大人たちに聞かせた。


 モモコは、宴の中心から少し離れたところで、犬の頭を撫でながら、甘酒を啜っていた。そこに、猿が来て言った。

「どうしたんです?浮かない顔をして」

「『(れい)』たちのことさ。一体、彼らは何者だったんだろう?」

「邪神でしょう?」

「僕もそう思っていたんだけど、彼らの言葉は、Anduma語に似ていたんだ」

「偶然でしょう。彼らの姿は、アンドゥマ人にも、他のどんな民族にも似ても似つきませんでした。それに、場所だってアンドゥマとキビとでは遠すぎますよ」

「でも、奴らの中には、顔の模様を除けばキビ人によく似た個体もいただろう。その模様だって、刺青かもしれない。もし仮に、彼らが人間だったとしたら、僕たちがやったことは、唯の戦争ということになる。僕は神官だ。兵士じゃない。僕らの戦いは、神事でなければならなかったんだ」

「考えすぎですよ。あれはどう見ても人間ではありませんでした。大人なのに、私たち動物と話せたじゃないですか」

「うん・・・。それもそうだね」

 モモコは、尚も釈然としなかったが、祝賀の雰囲気を壊すまいと、議論をやめることにした。


 そのとき、黙って話を聞いていた犬が口を開いた。

「そう言えば、モモコさんほどの年齢にもなれば、我々と話せる人は、そういませんよね」

 犬の言うとおり、周りで大人たちと動物との通訳をしている子供は、ほんの小さな子供ばかりで、モモコと同年代の少年たちは、彼らから通訳を受ける側であった。

 モモコは、訊かれることを予期していたように、勿体を付けて答えた。

「実を言うと、僕は普通の生まれじゃないんだ。何を隠そう、僕は、桃から生まれたそうなんだ」

「何と、桃から!」

 犬と猿は、目を見開いて驚いた。猿は、モモコの両親が、実の親ではなかったと知り、彼らが高齢であることへの疑問を解消した。そして、

「お強いのも道理です」

 と感嘆したのだった。

 彼らは、そんな非日常的な事柄に、別段疑念を持たなかった。だが、それが日常的な事柄であるともまた、考えてはいなかった。飽くまで不思議な、非日常的な事柄として、それを信じたのである。



 その後、財宝は一旦キビの国王に献上されたが、国王もそれらをこの世ならざるものと判断し、改めて神官であるモモコが管理することとなったのだった。



  第Ⅰ部・おわり

後注:

 "Momoko"の"ko"とは、男性名の語尾であり、彼らの言葉で「男」を意味する。これは、我々の言葉でいうところの「太郎」に相当する。

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